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スクール・ジョーカー  作者: 椎凪瑰
第2章 「過去と未来の交錯」
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第2章28話   「死滅への道」

 ――これでいいのだろうか。

 未だ尚惨状を無謀に晒し続ける廊下を歩き、俺はそう思った。

 

 本当はこんなことをしたくないのではないか。明理たちと一緒に逃げたいのではないか。

 

 心のどこかではそう思っているのではないか。

 後悔が漣々(れんれん)とするように思考を凌駕りょうがする。

 しかし俺は歯を食いしばり、視野に広がる厭忌すべき現実を進む。

 途端、前方に二人の兇徒が姿を現した。

 それぞれ斧とナイフを所持している。

 

 「杏子を猪一番に探したいところだが、そうはさせてくれないか……」

 

 俺は溜め息を吐き、拳銃をポケットから取り出して引き金を引く。

 銃弾は兇徒の頭を撃ち抜き、豪快に蹂躙じゅうりんした。

 俺は再び歩き始め、杏子がいた痕跡を探し続ける。

 

 「杏子……どこに行ったんだよ……」

 

 杏子はどこに行ってしまったのだろうか。

 俺は杏子が無事であると心から嘆願する。

 すると、

 

 「ぐはっ!」

 

 ユウの苦しそうな声が聞こえた。

 俺は声のした方を向く。声は廊下の角の先から聞こえてきた。

 忍び足で角に向かい、そして角の先を覗く。

 そこには――、

 

 「――っ!?」

 

 ユウは血塗れだった。

 身体の至る所に銃弾で撃ち抜かれたのか風穴が空いている。

 そして何よりも俺が目を見開いたのは、

 

 「ほら、早く立ちなさいよ」

 

 冷酷な声音で、狂気に染まった形相をし、桜色の髪を二つのリボンで左右に結わえた少女がいたことだった。

 少女は笑いながら倒れたユウを無理矢理起こし、そして身体にナイフを突き刺した。

 

 「あああぁあああ!! 痛い……どうしてですか……」

 「それはなぁ、お前達みたいな屑が私達のことを知りすぎたからよ」

 「私達……?」

 「あら、そんなことも分からないの?」

 

 少女は呻きながら問いかけてくるユウを嘲笑し、そして口を開いた。

 

 「私の“お兄ちゃん”なら分かるわよ。ねぇ、お兄ちゃん」

 

 気付かれていたのか。

 俺は溜め息を吐きながら歩み出る。

 

 「どうしてお前なんだ。――杏子」

 「えへへっ、ばれちゃった! お兄ちゃん♡」

 

 杏子は俺に向かって投げキッスをすると、返り血で血塗ろになった制服姿で俺に抱き着いてきた。

 なぜか久しぶりに感じてしまう抱擁に少しだけ俺は安らぎを覚えたが、その安らぎはすぐに消え去った。

 なぜならば、俺の横腹に鋭い痛みが走ったからだ。

 

 「うっ……まさか……!」

 

 杏子が横腹にナイフを突き刺していた。

 俺は杏子の手を引き、ナイフを引き抜く。

 杏子はその勢いで倒れてしまった。杏子は「いてて……」と言いながら涙目になる。

 そして、杏子は憤慨と狂気が入り混じった表情で俺を睨んだ。

 

 「どうしてそんなことするの……? 私の知ってるお兄ちゃんじゃないよ」

 「お前こそ俺の知っている杏子じゃないぞ」

 「――やっぱり、お兄ちゃんは優しくないよ」

 

 なぜか表情を曇らせた杏子。

 

 「優しくないって、なにがだよ」

 

 俺は情緒不安定な杏子を前に混乱する。

 すると杏子は微笑んで、

 

 「お兄ちゃん、私――」

 

 その後、衝撃の事実を杏子は口にした。

 

 「――もうそっち側には戻れないよ」

 「な――」

 

 そして俺は、


 ――杏子に撃たれた。

 

 ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ

 

 ――遠く、どこか遠くで鐘の音が聞こえた。

 景色も見えた。

 ここは草原の上。ただただ俺は温もりと安堵に包まれていた。

 聞き覚えのある声がする。

 

 「――君、瀲君!」

 「はっ」

 

 俺はその声で目が覚めた。

 ここは一体……。

 俺は辺りを見渡し、声の主を探す。

 

 「ここだよ!」

 

 後ろから抱き着かれた。

 背中に温もりと柔らかさが伝う。

 

 「紡戯なのか……?」

 「そう思う?」

 「思うよ」

 「ふふ」

 

 不思議な感情に駆られ、俺は紡戯の笑い声に俯く。

 優しい声に、明るい口調。

 だが俺は、後ろを振り向けなかった。

 なんでかは、自分でも詳しく分からない。

 きっと自分の泣き顔を、見られたくなかったからだろう。

 

 「紡戯……紡戯……!」

 「――泣いてるの?」

 

 後ろを振り向きなどしなくてもわかる。後ろにいる人物は紡戯だ。

 すると紡戯は俺を強く抱きしめた。

 

 「瀲君……」

 

 声が震えている。

 紡戯も泣いているのだろうか。

 

 「駄目だよ……死なないでよ! まだ生きててほしいよ……」

 「紡戯……」

 

 俺は紡戯の訴えに目を見開く。

 

 ――俺は死んだのか……?

 

 一つの疑問に、俺は衝撃を受ける。

 

 「まだあいつらと話していたかったなぁ……」

 

 まだ平和だった頃の2ーA組の光景を思い出した。

 途端、途轍もなく涙が溢れ出てきた。

 

 「まだ話したかったよ! どうしてこんなごとにぃ……なんでだよ……!」

 

 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

 血塗れな校舎に、柾納と鋳杜弥と菊の惨死体。

 

 死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体。

 

 記憶の中と、視野に広がるのは死体ばかり。

 

 鮮血、鮮血、鮮血、鮮血、鮮血、鮮血、鮮血、鮮血、鮮血、鮮血。

 

 足元に一つの湖のように広がっている血液。

 

 「なんで……一体なにがあった……! 俺は何をしていたんだ……!」

 

 自分の愚かさと無力さに、俺は怒号を投げつける。

 絶望した。自分の弱さに。

 

 「――まだ、生きていたかったよ……」

 

 愚か者は、そう一言口にして、目を閉じた。

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