第2章25話 「声と四肢が震える」
――凛音と俺は屋上から共に去っていた。
俺は生徒会の仕事があるため、凛音と別れた。
凛音に手を振り、さて俺は生徒会の仕事を早く始末しなければならない。
だが……、
「紅さん……」
「ん?」
後ろから手を掴まれ、俺は振り返る。
後ろでは、凛音が下を向いて何やら顔を赤くしていた。
「どうした、凛音?」
「ええっと、その……」
凛音は人差し指と人差し指を絡めながら、もごもごと喋る。
「生徒会……入りたいです」
次に凛音は、真剣な眼差しで俺を見つめてきた。
「生徒会に入りたいか……庶務の座が空いてるから別にいいぞ」
「ふふ、嬉しいです!」
凛音は嬉々として笑みを浮かべる。
雀躍する彼女を隣に、俺は少しばかり微笑んでいた。
「――さあ紅さん! 行きましょう!」
「お、おお」
俺は凛音に手を引かれて生徒会室へと連れていかれる。
凛音が屋敷に俺を誘ったのは、屹度怖かったからだろう。
またいつ、あの事件のようなことが起きるか分からないからだ。
だからこそ、俺が凛音の傍にいてやらねば。
屹度『K』の魔の手から凛音を守れるのは俺だけだろう。
結局は、終焉に向かうがな。
ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ
――俺は凛音と共に生徒会室へと入った。
中では見慣れた生徒会メンバー……ではなく新規のメンバーたちが大半を占めた模様だった。
「来たか。集合時間は厳守するべきだぞ、紅」
無愛想な声がかけられ、その声が誰のものなのか瞬時に俺は察した。
「鸞樹か……そういえばお前は副会長だったんだな」
「もしかして……己がその立場であることを忘却していたと言うのか?」
「その通りだ」
「ぐはっ」
鸞樹が何故か悲しそうな表情をして生徒会室の隅の方へと蹲る。
俺は鸞樹が感情を表に出すようになってきたことに対し、かなり驚いていた。
鸞樹も風変りしたみたいだし、少しばかり俺もかっこつけて自分を変えてみるか。
「ごめんね、鸞樹。実は色々と忙しくて最近寝てなかったんだ。でも君のことは忘れてないよ」
「え?」
「大丈夫だから、安心して。僕は君のことが一番だから。そんなに落ち込まないで。僕と一緒に前を向こうよ」
かっこつけたものはいいものの、片言塗れになったのは不甲斐ない。
そして俺は手を鸞樹の方へと差し出す。
すると鸞樹が頬を紅潮させて、俺の手を取った。
「い、いいけど……でも! お、己は落ち込んでなんかいないし! 紅に『君が一番だ』とか言われても嬉しくなんてないし!」
「口調が可愛いな」
「だ・か・ら! もう己を揶揄わないで! 紅に構ってもらって嬉しいなんて思ってないし!」
「急なツンデレ要素……」
俺は口角を引き攣らせながら、ツンデレする鸞樹を見つめる。
すると生徒会室の奥にいた或朱が、俺の肩をつついてきた。
「なぁ紅。今の話本当なのか?」
「あながち嘘ではないが……」
「そ、そうなんだ……」
肩を下げて悲しそうにする或朱。
「でも或朱も可愛さでは一番だぞ!」
「ほ、本当か!」
或朱は機嫌を取り戻したようで俺に抱き着いてきた。
そして頬を摩り寄せてくる。
すると後ろで俯瞰していた凛音が頬を膨らませて、
「紅さん! 私はどうなんですか?」
「凛音も一番だぞ!」
「ふふ、嬉しいです……」
凛音は嬉笑した。
というのも、俺は何が一番かだなんて選べない。
選ぶのならば、全員を選ぶ。
そんな身勝手で覚悟のない回答しか、未だ俺は出せていない。
「我はどうなのだ? 朋友よ」
突如として頭のおかしい者が俺に声をかけてきた。
俺は腹立たしく思い、声のトーンを落として、
「お前は最下位だ」
「がはっ! 流石は我が朋友よ、躊躇ない」
「勝手に『朋友』などと呼ぶな。汚らわしい」
俺は律椰を睨むと、生徒会室の中を見渡した。
「さて、これで全員集まったか……さあ、本題に入ろう」
俺は生徒会室にある高貴な椅子に座り、啖呵を切った。
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――これから行われる体育祭に向けて、生徒会で準備をすることになった。
生徒会の中で役割分担をし、必要な材料を買いに行くことになった俺はいつも行っているショッピングモールへと足を運んでいた。
「――にしても、必要な物はこれくらいでいいのか?」
俺は鸞樹から渡された【必要な物リスト】を睨み、疑問を口にした。
三つほどしか書かれていないことに対し、少しばかり不安に思うが、あまり気にせず必要な物を購入することに。
「これで、後一つか……」
俺は額に滲んだ汗を拭い、最後の項目を目にする。
そこに描かれていたものは……、
「――って、これなんだ?」
何なのかは分からないが、『甘々チョコレート♡』という商品名が記載されてあった。
俺はスマホをポケットから取り出し、鸞樹に電話をかける。
『何?』
「なぁ、この『甘々チョコレート♡』ってやつ一体なんだ?」
『しまった!』
「何がだ?」
『そ、それは買わなくていい…から早く生徒会室に戻ってこい!』
「分かった…」
電話を切り、俺は溜め息を吐きながらショッピングモールの出口へと向かう。
人使いが荒いなぁ、この副会長さん。
だが俺は『甘々チョコレート♡』とやらの正体が何なのか、気になって仕方がなかった。
「調べてみるか……って、もしかしてこれか?」
俺が立っているすぐ傍にあった積み上げられた物が目に入った。
それは菓子であり、箱には『スーパーアイドル堊璃瑠監修!!』と記載されていた。
俺は無言でスマホで写真を撮ると、にやりと笑って一箱手に取った。
「それにしても、璃瑠は凄いな……」
こうやって商品を製作するにあたってそれに携わっているとは、かなり凄いことである。
そう感慨を浮かべながらレジで会計を終え、俺は再び出口へと戻った。
そして出口から外へと行き、学校へと戻りにバス停へと赴く。
すると、俄に俺は後ろから誰かに抱擁された。
「瀲君……! 瀲君……!」
驚き、俺は後ろを振り返る。
そこにいたのは雪白の髪を揺らす、一人の少女だった。
悲壮に満ちた双眸で訴えかける少女は、俺の『忌み名』を呼びながら震えている。
「どうした、吹雪」
「瀲君……助けてください」
「――何があった」
俺は感情を殺した声音で吹雪に問いかける。
すると吹雪は、
「実は――が……」
「な――!?」
俺は赤いドレスを身に纏った女を思い出した。
ここ最近姿を現さないと思っていたら、こういうことだったのか。
「――分かった……吹雪、ユウとレイも連れて鴻鵠鴎鵝学院へと来てくれ」
「了解しました」
吹雪は真剣な表情をし、大きく跳躍して姿を消した。
そして俺は最悪な結末を向かえないように、祈り、憎悪した。




