第2章22話 「邂逅?」
――ライブ会場から徒歩で家に帰宅し、俺は重い身体をベッドの上に転がした。
「今日は疲れたな……もう寝よう」
俺は目を瞑りながら横になり、衾を被って消灯した。
そして不意に、俺は顔に柔らかい感触が伝うことに気が付いた。
「なんだ……?」
気になり、俺は目を開いてそれを触る。
それは柔らかいものであった。
「――っ!」
「え」
顔を赤くした赤髪の少女が目の前にいた。
少女は俺を睨むと、「うぎゃー」と叫んだ。
「触らないでください! 変態! 変態!」
「ごめんって、ていうかそもそもなんで俺のベッドの中にいたんだよ!」
凛音の胸から手を離し、俺は憤っている凛音に謝罪をする。
すると凛音は俺の発言に更に顔を赤くさせる。
「いいですか! 私は必ずしも『紅さんの部屋だぁ、しかも紅さんはいないし、今ならベッドに潜り込んで紅さんの匂いをかぐことができるぞぉっ!』なんて思ってませんからね! いいですか?」
「おい……それ本当かよ」
「ち、ちがっ……」
凛音はあたふたと忙しそうに両手を振り、遂にはベッドから転げ落ちてしまった。
「痛いですっ……ううっ、紅さん!」
「俺じゃねぇよ。凛音、お前は自分でベッドから落ちたぞ」
「むぅ……本当ですかね」
「本当だ」
腰に手を置いて俺を睨め付ける凛音。
凛音は一度溜め息を吐くと、ベッドの上に戻ってきた。
「――ありがとうございます」
「え? どうかしたか?」
突然、そう口にした凛音に俺は驚く。
すると、凛音はベッドの上に横になり俺と目線を合わせてきた。
「私を、前と変わらずに接してくれることをですよ」
凛音は頬を赤くして、そう声に出す。
そういえば凛音は俺のことが好きだったらしい。
だからその激白を聞いた後でも、前と変わらずいつもの様に接してくれることが凛音は嬉しかったのだろう。
だが、凛音は腑に落ちないかの様な表情をした。
「でも紅さんは私のことを恋愛対象として見てくれてないような気がします」
「別にそういうわけじゃないが」
「ひゃっ! 紅さんはもしかして私のことが――」
「もういいだろ。それより、凛音は家族で出かけに行ってるんじゃなかったっけ」
「それは何の話ですか?」
「え?」
すると凛音は不思議に思ったのか、俺に言う。
以外
「――私、今日は紅さんの家以外、どこにも行ってませんよ」
「な――」
俺の思考回路は、驚愕と恐怖で塗り潰された。
恐慌する脳内をフル稼働し、冷や汗をかきながら俺はそう発言した者を記憶の中から探る。
すると、俺はある人物を思い出した。
「――碧五だ」
「――? どうしたんですか紅さん、急に碧五さんの名前を口にして」
「いや、なんでもない」
俺はそう一言だけ告げると、謎の大量展開に心中を大きく乱していた。
碧五が何故そう言ったのかは不明だ。
ただ何気なくそのことを言っていたことは覚えている。
俺は一度深呼吸し、凛音を見つめた。
「ところで、凛音はいつまで俺のベッドにいるつもりなんだ?」
「ずっとですよ」
「は?」
「ずっと一緒にいましょう。私のことを好きになってもらうまで、私は紅さんに愛を注ぎますから」
「急だな。確かにお前の厚意は受け取りたいが、流石に今日は無理だ。疲れた」
「だからですよ。身体、癒してあげましょうか……?」
「凛音、お前はそういう奴だったっけ?」
「はい」
凛音は無機質な瞳で俺を見つめ、身体を寄せてくる。
そして否応なしに唇を重ねてきた。
途端、俺の唇に凛音の柔らかい感触と甘い匂いが伝い、胸を高鳴らせた。
続いて凛音は口内に舌を絡ませてきた。
熱烈な口づけに、俺は少しばかり興奮してくる。
「んぅ、紅君……大好き」
熱い吐息を激しい舌の動きと共に吐き出す凛音。
だが、俺は何か腑に落ちない感覚を身に覚えた。
「凛音、いや――碧五。どうしてお前はそんなことをしているんだ?」
「え? 紅さん何を言って……」
「もう分かってんだよ、碧五。俺の洞察力を嘗めるなよ」
「――」
俺は黙り込んだ碧五の髪を引っ張る。
やはり赤髪は鬘だったようだ。
そして元の空色の髪が戻ってきた。
すると碧五は頬を赤くしたまま、俺の方を申し訳なさそうに見つめる。
「ごめんなさい……凛音ちゃんの格好をすれば、私も紅君に好きになってもらえるかなと思って……」
「謝罪は俺じゃなくて凛音に言ってくれ。まあ、俺は許すけど凛音が許すかは分からないがな」
「ん……」
碧五は小さく首肯する。
そんな碧五を隣に、俺はある記憶の一片を語り始めた。
「昔、お前によく似た子がいたんだ。邐唖って名前の子で、凄く可愛いんだ。確か吹雪の妹で、途轍もなく恥ずかしがり屋だったな」
静かに俺の話を聞いている碧五を隣に、俺は寂寥感を覚えた。
碧五は本当に邐唖にそっくりだ。
髪色も、顔の造形も、瞳の色も、華奢な体系も。
「でも、邐唖は死んだ」
何者かによって邐唖は殺害された。
それが、俺の失態によるものであり、俺は今でもずっと目を離していたことを後悔している。
すると碧五が涙目で俺に何かを言おうとしていた。
でも彼女は開いた口をきつく縛り、何も言わなかった。
「ごめんな、急に変な話をして。聞かなかったことにしてくれ」
「変な話じゃありませんよ……だってそれは、それはっ……!」
「俺はもう大丈夫だ。邐唖も邐唖で、屹度天国で俺を見守ってくれているだろう。紡戯と共に」
「あ……」
泣きながら訴えてきた碧五は、虚脱して目を瞑った。
微睡に堕ちたのだと悟り、俺も目を瞑った。
「好きです……好きです! 私は、やっぱり瀲さんのことが……」
「碧五……もしかしてお前は邐唖なのか?」
後ろから抱き着いてきた碧五に、俺は尋ねた。




