表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スクール・ジョーカー  作者: 椎凪瑰
第2章 「過去と未来の交錯」
52/64

第2章21話   「ライブ」

 ――学校を終え、俺は杏子と共にライブ会場へと訪れていた。

 今は十六時、ライブの開始時間は十八時、間に合うか?

 

 「まあ、ライブ会場が近くて良かったよ」

 「楽しみだね」

 「ああ、そうだな」

 

 俺は杏子とそんな会話をしながら、大量の歓声がとどろく会場内を見渡した。

 熱狂的なファンが集い、会場内の気温は段々と上昇していく。

 汗一つもかいていない杏子をちらりと見て、少し驚きつつも、俺はステージの方へと目を走らせた。

 

 「――みんなー! 今日は来てくれてありがとー!」

 

 そう、自称スーパーアイドルの堊璃瑠がスポットライトと共に会場内に姿を現した。

 

 「じゃあ、早速だけど行きます! 『恋の列車はドキドキ胸の中に♡』」

 「題名の意味が分からねぇ……」

 

 俺は苦笑しながら、璃瑠の声に耳を澄ます。

 

 「ねぇお兄ちゃん、璃瑠ちゃんって意外と歌上手いんだね」

 「それもそうだな。流石は歌って踊れるアイドルと言ったところか。実力が生半可じゃない」

 

 俺は璃瑠の美声を鼓膜に流しつつ、彼女の踊りを目に焼き付けた。

 スカートが揺れ、ステップを踏みながら璃瑠は歌う。

 不意に、璃瑠は俺の方へと目を向けてきた。

 そして、ウインクをした。

 

 「これが『ファンサ』というやつか……!」

 

 俺は感慨深い行動を目にし、小さくガッツポーズをする。

 そんな俺の行動を、杏子は睨んでいた。

 

 「お兄ちゃん」

 「はい、何でしょうか……?」

 

 無駄に畏まった俺の発言を耳にし、更に杏子は眉をひそめる。

 屹度きっと俺の行動に何か原因があったのか? それで杏子は鼻白はなじろしくなってしまったのだろうか。

 

 「もしかして、璃瑠ちゃんのこと好きなの?」

 「え? 別に好意を抱いているわけではないけど……」

 「ふ~ん、それならよかった。ほらお兄ちゃん、次の曲になるよ!」

 「あ、ああ……」

 

 冷淡な声音を、元の明朗な声色に戻して俺の視線を璃瑠の方へと移ろわせる杏子。

 すると璃瑠の後ろにあるスクリーンへと、一つの工場の中の映像が流れた。

 そしてそれは明滅し、やがて暗闇へと変貌した。

 

 「聞いてください。『Dead・Climax』!」

 「おお……」

 

 俺はがなりながら叫ぶ璃瑠に驚嘆した。

 がらりと雰囲気が変わった璃瑠の姿に、目を奪われたのだ。

 そしてエレキギターの著しい演奏が流れ、璃瑠は口を開く。

 

 「明後日も、今日の酩酊めいていを忘れられない。曇って澄んでいく天に広がるのは絶望か希望か!!」

 

 かなりの高音を出し、力強い歌声が鼓膜へと強烈に入り込んでくる。

 これには会場内のファン達も驚いている様だ。

 

 「明瞭な詭弁きべんも、吐いた綺語きごも、全ては僕の心情」

 

 「満たされない心に開いた穴は、君を壊してく!」

 

 一度足を開くと、璃瑠は目を大きく見開き、サビへと突入する準備をする。

 

 「消えた、君の姿を追って! いつまでもまやかしに囚われていた僕が間違いだったのさ!」

 「賭けに巣食われた絶望も輪廻、かさんでいく」

 「檮昧とうまいな現状!」

 

 会場内に轟く大声で、璃瑠は曲の一番を終わらせた。

 俺は璃瑠の歌を聞きながら、不意に冷や汗をかいていた。

 

 「汗……?」

 

 俺は頬を伝う汗を指で拭うと、意味が捉えられずに困惑した。

 だが「屹度、会場内が熱いせいだろう。それに夏だしな」と思って見過ごした。

 

 軈て曲が終了すると、会場内は拍手と歓声に包まれていった。

 

 ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ

 

 ――その頃、隻眼の少女は。

 

 「――ふふっ、楽しみですねぇ……」

 

 王城の様な家の、部屋の中で歩乃香はそう言った。

 頬を赤らめ、まだ目に見えぬ結果は出ていないが、“それ”はとても喜ばしいことだった。

 

 「お嬢様、それはとても喜ばしいですわね」

 「そうですよねぇ? 侍女さん」

 

 長い金髪を垂らした少女に、歩乃香は笑いかける。

 だが少女は歩乃香の笑顔を前に、表情を何一つ動かさなかった。

 柳眉りゅうび明眸めいぼうどちらも不動なまま、時は過ぎた。

 すると歩乃香は溜め息を吐き、自分の腰かけていた椅子にぐたっと凭れる。

 

 「やっぱりつまんない奴ですぅ……」

 「すみません。なるべく明るくて気品の良い、笑いも取ることのできる侍女を演じたのですが」

 「嘘つけ!」

 

 歩乃香は少女の発言に怒声を飛ばした。

 すると少女は寂寥感せきりょうかんの籠った表情をし、歩乃香に言葉を返した。

 

 「やっぱり、こんなのは嫌ですわ――紅さん」

 

 涙目で今はまだ会うことのできない少年の名を呼び、少女は悲しげに呟いた。

 

 Φ Φ Φ Φ Φ Φ Φ Φ Φ Φ

 

 「ありがとうございましたー!」

 

 璃瑠が一礼する。

 

 「終わっちまったのか、ライブ」

 

 俺は何だか寂しさを感じた。

 だがそれを無理して呑み込み、杏子の方へと視線を向けた。

 

 「終わっちゃったね……」

 「ああ、そうだな。早く帰って寝るぞ」

 「うん、そうしよう。私も疲れたよ。ふぁ~」

 

 欠伸をする杏子を隣に、俺は他の客達と共にライブ会場の出口へと向かう。

 そして外へと出て、俺と杏子は商店街の方へと足を運ぶ。

 ちらりと、俺は身に着けた腕時計を見る。

 

 ――十時か。早く帰って風呂に入りたい。

 

 「あ、それ明理ちゃんとおそろいの時計じゃん! 私も欲しいよ!」

 「駄目だ、金がない」

 「むぅ、本当はあるくせに」

 「確かに頑張れば変えないことはないが……流石に無理がある話だな」

 

 俺は歩きながら、そう言う。

 歓楽街を抜け、続いて住宅街へと踏み込んだ。

 人気が一気に少なくなり、明りが街灯と月光のみの歩道を、俺と杏子は進む。

 

 「それにしても……璃瑠ちゃん凄かったね。ほら、あの『Dead・Climax』ってやつ」

 「確かに、あれは凄かったな。普通のアイドルとは思えない」

 

 力強い歌声と高音を俺は思い出した。

 ゴスロリ要素の強い衣装を身に纏い、華麗なステップを踏む璃瑠。

 そんな光景も、今尚鮮明に思い出すことができる。

 しかし、それと共に嫌な感情までも思い出してしまった。

 

 「汗をかいていたのは何故だろう……」

 

 本当は夏の熱さのせいだと思うが、それだけの理由では腑に落ちなかった。

 

 でも、一つだけ分かった気がする。

 

 「ああ、そうか。そうなんだ……やっぱり俺は――己は」

 

 

 

 

 「――失敗作だなぁ」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ