表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スクール・ジョーカー  作者: 椎凪瑰
第2章 「過去と未来の交錯」
47/64

第2章16話   「登校」

 ――深夜。

 ある少女は徘徊はいかいしていた。

 屋敷の執事の目を盗み、一人で暗い夜道を。街を。

 不意に、少女は通行人の男と肩をぶつけた。

 

 「――ようねぇちゃん、なにぶつかってきてくれてんの? あぁ?」

 

 男が少女に言の葉を飛ばす。それと同時に男の周囲から三名ほどの愚連隊ぐれんたいが現れた。

 姿を現した愚連隊を眼前に、少女は不敵に笑った。

 その歪な微笑を前に、男達は一瞬戸惑(とまど)いを見せた。

 

 「ねぇちゃん、この状況が理解できてねぇのか? いいぜ、路地裏に連れてってたっぷりと教えたげるからよ」

 

 男は下心を丸出しに、少女へと近付く。

 愚連隊達も同時に、少女を睨む。

 

 「ふふっ……アタシに対してその口調に容姿。万死に値しますよ」

 「あぁ? 何言ってんだねぇちゃんよ」

 

 男は不可思議に、顔をゆがめる。

 すると、少女は羽織っていたジャンパーのポケットの中からある黒光りする物を取り出した。

 

 「はぁ……早く楽にさせてあげますよぉ……アタシは慈悲深い女神なので」

 

 少女がポケットから取り出したのは、どこからどう見ても――『銃』だった。

 四人の男達は恐ろしさのあまり逃げ出そうとするも無駄だった。

 

 「バァン! まず一人」

 

 一人の男が殺された。

 続いて、少女は頬を赤くして引き金に手を添える。

 そして引き金を引いた。

 

 「バァン! バァン! バァン!」

 

 熱い吐息をこぼし、逃げようとした男達を皆殺しにした少女は自身の手に付着した血を舐める。

 まるでドラキュラの様に返り血を味わうと、また覚束ない足取りで少女は歩み出した。

 ジャンパーのフードを被り、眼帯をした隻眼の少女――㕗䨊歩乃香は愉悦に満ち溢れた形相をする。

 

 「瀲さん……」

 

 一人の少年の名を呼び、歩乃香は頬を紅潮させた。

 

 Φ Φ Φ Φ Φ Φ Φ Φ Φ Φ

 

 ――俺は鈍い思考と身体を無理矢理に駆動し、ベッドから足を下ろした。

 確か今日は璃瑠のドームライブがある日だったな。

 ライブの時間帯は夜からだし、学校帰りに行くか。

 

 俺は歩きながら欠伸をして杏子の部屋に行く。

 すると部屋の中には、可愛らしい寝顔を晒した杏子が存在していた。

 俺は一度息を大きく吸い込むと、

 

 「起きろ! 朝だぞ!」

 

 と叫んだ(とは言っても近所迷惑にならない程度で)。

 すると涎を垂らしながら杏子が寝返りを打った。

 そして、

 

 「まだ寝せて」

 

 と、冷静な返答が帰ってきた。

 

 「ほう、ただの寝たふりだったのか」

 「げっ」

 

 杏子は俺の方を振り返り、苦笑しながら「学校、サボろ?」と誘ってきた。

 だが俺は断固として口を開く。

 

 「おい、学校に行くぞ。サボるわけにもいかないだろ。就職とか上手く行くか分からないんだぞ」

 「大丈夫だよ。お兄ちゃんは鬼才だし」

 「何言ってんだ。俺は苦手なものが人一倍あるんだよ。確かに才能はあるが――」

 

 俺が特に嫌いなものは『虫』と『高所』と『ピーマン』と『宿題』だ。

 まだ細かく言っていけば沢山あるが、ここで割愛させていただく。

 

 俺は杏子が被っているふすまめくった。

 杏子は眉をひそめ、目を擦りながら身体を起こした。

 

 「お兄ちゃん……じゃあ、一緒に登校しよ?」

 「そうだな」

 

 俺がそう反応すると、杏子は表情を明るくさせ、抱き着いてきた。

 先ほどとは打って変わって耿然こうぜんとした態度の杏子に苦笑を送り、俺はリビングへと戻るため足を踏み出す。

 だが、杏子が俺を強く抱きしめて動けなくさせ、強制的にその歩みは止められた。

 そんな杏子の行動に俺は驚き、杏子の方を俺は向いた。

 すると杏子は頬を赤くし、上目遣いで何かを言おうとしていた。

 

 「ど、どうした……?」

 

 俺は不可解な事態に声を震わせながら尋ねる。

 

 「おはようの……キスは?」

 「は」

 

 杏子が口にした言葉に口をぽかんと開け、俺はその場に立ち尽くした。

 すると杏子はもう一度その台詞を、より強く吐いた。

 

 「おはようのキスしよ!」

 「お、おう……」

 

 ほぼ無理矢理にだが、杏子と俺は唇を重ねる。

 唇に柔らかい感触と暖かい杏子の体温が同時に走る。

 俺は杏子の口内に舌を滑り込ませた。

 そして舌を這わせ、杏子と熱烈な接吻を繰り広げる。

 すると、俺にならって杏子も舌を入れてきた。

 舌を激しく動かしてくる杏子の吐息が、不意に顔にかかった。

 甘い匂いがし、俺は思考回路を狂わす寸前にまで陥った。

 だが今は杏子とのキスに懸念することを目標にしているため、特に感情の変化は見受けられなかった。

 

 長い口づけを終え、呼気を荒くした杏子を眼前に映し、俺は微笑む。

 

 「朝から求めすぎだぞ、杏子」

 「だってお兄ちゃんが……お兄ちゃんが舌入れてくるから、私我慢できなくなっちゃったんだもん……」

 「いいから飯食って制服に着替えるぞ」

 「うぅ……」

 

 性的興奮を覚えた杏子は後ろ髪を引かれながらも、俺の後を追ってくる。

 リビングにある椅子に座り、テーブルへと俺は目玉焼きと白ご飯を運ぶ。

 皿の前に箸を添え、俺と杏子は椅子に腰を下ろし手を合わせて目玉焼きを頬張った。

 

 米を一口喰らい、味噌汁を啜り、目玉焼きを齧る。

 口内に美味の味覚が走り、痛切に快楽をもたらす。

 そしてもう一口。

 

 「お兄ちゃん、今日は璃瑠ちゃんのライブがあるんだよね?」

 「そうだ。楽しみだな」

 

 杏子は目玉焼きを箸で抓んで口にし、口角を上げる。

 俺も次いで箸を使い目玉焼きを口に入れ、完食する。

 そして味噌汁と白ご飯を食べ終え、俺は席を立ち、台所へと向かう。

 

 「は?」

 

 俺は驚嘆し、自分でも無意識に言葉を発していた。

 なんと、リビングの窓を誰かが叩いているのだ。杏子は震えながら俺の方へと逃げてきた。

 恐懼して怯んでいる杏子を傍に、俺は恐る恐る窓の方へと足を動かす。

 するともう一回どんどんと窓が小刻みに叩かれた。

 カーテンを勢いよく開き、俺は窓の外を眺める。

 するとそこには――、

 

 「紅君!」

 

 烏の濡れ羽色をした嫋やかな黒髪をした少女が、そこにいた。

 一目見たら何故こんな美少女が自分の家に押し寄せているのか、理解できないだろう。

 しかし、俺は彼女を知っている。

 こういう気質な人物ということも既知である。

 

 「――明理、登場の仕方が怖すぎるぞ」

 

 俺は呆れて溜め息を吐き、窓の鍵を外す。

 俺が窓のロックを解除した瞬間に、明理は俺の家へと闖入ちんにゅうした。

 何食わぬ顔でリビングへと足を踏み入れ、明理は俺の隣に立つ。そして俺を見つめて微笑んでいた。

 杏子はほっとしたのか、椅子へと戻り食事を再開した。

 

 「紅君……何だか顔を合わせるの久しぶりに感じるね……えへへ」

 「くっ、無邪気な笑みだが家への侵入方法が恐ろしすぎて話にならねぇ」

 「ん?」

 

 俺は突っ込み、そして襟を正す。

 だが、その行動とは対照的に明理は首を傾げて疑問を呈していた。

 

 「紅君、一緒に学校行こ!」

 「お、おう。今から着替えてくるから待っててくれ」

 

 俺はそう返事をし、自分の部屋へと向かおうとしたが、途中で杏子から鋭い視線を向けられた。

 杏子の睥睨へいげいに、俺は苦笑を返し、そそくさと部屋へと入り着替えた。

 最後に歯を磨き、身支度を終えた俺はリビングへと戻った。

 

 「ごめん……遅れちまった」

 「私は気にしないから大丈夫だよ」

 

 明理は天使の様な笑みを浮かべて、そう言った。

 

 「むぅ」

 

 だが、反対に不機嫌な様子の杏子。

 俺が帰ってきた途端、頬を膨らませて杏子はそっぽを向いた。

 どう声をかければいいのか迷い、俺は口角を引きらせる。

 

 「それより、杏子はいつ支度したんだ……?」

 

 制服姿の杏子を俺は矚望しょくぼうする。

 すると杏子は俺を瞥見べっけんすると、唇を尖らせた。

 

 「知らない!」

 「ちょ、待てよ!」

 

 ねているのか、杏子は俺から目を逸らす。

 がくりと肩を落とし、俺は明理に「行こうか……」と声をかけて玄関へと向かった。

 

 「――ねぇ紅君」

 「何だ?」

 

 突如(ささや)いてきた明理に、俺は尋ねる。

 すると、明理は杏子を一瞥いちべつしては悪戯な笑みを浮かべた。

 

 「杏子ちゃん、嫉妬してるね」

 「なんで分かるんだ?」

 「だってさ、あの切なげな背を見れば分かるでしょ。大好きなお兄ちゃんが明理ちゃんに取られた! て思ってるんだよ。多分」

 「そうなのか……」

 

 明理の話が本当ならば、俺はなんて酷いことをしてしまったのだろう。

 後で杏子に謝るべきだろう。

 それよりも、何故杏子は嫉妬などしているのだろう。

 明理と会話をしたからか?

 

 俺は考えながら、靴を履いて玄関のドアを開く。

 目の前を歩く杏子の隣へと俺は行き、声をかけてみる。

 

 「杏子、可愛いぞ」

 「え? きゅ、急に何?」

 「可愛すぎるぞ、杏子。お前は俺にとっての天使だ!」

 「お、お兄ちゃんっ……!!!」

 

 愧赧きたんした杏子は、顔を隠して羞恥する。

 そんな微笑ましい光景を眺めながら、俺は明理へと視線を送った。

 明理はその視線に微笑を返してくれた。

 

 「そうなんだ……紅君は杏子ちゃんのことが一番好きなんだね」

 

 だが、どこか残念そうな表情をし、明理は肩を落とした。

 俺はそれに気付かず未だに赧然たんぜんとしている杏子へと視線を移ろわせる。

 

 「ありがと……」

 

 ぼそり、と杏子は俺の方を向いて小さく言った。

 そして顔を隠すのを止め、杏子は微笑を浮かべた。

 

 「大好きだよ、お兄ちゃん!」

 「俺も大好きだぞ!」

 

 套言とうげんを言い合い、俺と杏子は軽やかな足取りで学校へと進んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ