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スクール・ジョーカー  作者: 椎凪瑰
第2章 「過去と未来の交錯」
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第2章15話   「絶望とライブチケット」

 ――怜那が、死んだ。

 殺された。何者かによって。

 許せない。許せはしない。

 一体誰が、一体誰が怜那を殺したんだ。

 必ず、俺が、俺が……。

 

 「あぁぁぁぁあああぁあぁあぁぁああ!!!!!」

 

 俺は叫ぶ。

 心が昔と同じように、壊れていくのを実感できる。

 俺と怜那以外、誰もいない部屋に声が響く。

 

 「まただ……また、俺は救えなかった……」

 

 紡戯を助けられなかった。

 紡戯は大切な幼馴染で、一人の友人だったのに。

 

 「どうして……また……」

 

 手に付いた血を見て、俺は言う。

 怜那は、あいつはいい奴だったのに。

 どうして殺されなきゃいけなかったのだろう。

 

 ――微睡さんは、私のこと軽蔑しますよね。見殺しにした、重罪人の私を。

 

 声が記憶の中で反芻される。

 怜那の声が、ただただ脳内で繰り返し流れた。

 

 「――あら、やけに騒がしいから来てみたら、予想よりもかなり荒れてたわね」

 「――あ?」

 

 俺は声のした方を見た。

 そこに佇んでいたのは、赤いドレスを着た女性だった。

 「死の象徴」とも忌むべき存在が、俺が膝を付いている隣に座った。

 深紅の唇が動き、女性は俺に――、


 「本当に、あなたのことが愛しいわ」

 

 愛を告げてきた。

 なまめかしい声音で俺に囁きかけ、女性は頬をほのかに赤く染める。

 まるで幼児に語りかけているかの様な優しい声色だった。

 吐息を漏らし、女性は俺の頭を撫でてきた。

 

 「愛してるわ、愛してるわよ」

 

 愛の言葉を、そう何度も口遊む。

 俺は彼女の手を払うこともせずにただ、何に対しても今は微動だにしていなかった。

 一重に、俺の視線は怜那の亡骸だけに向けられていたからだ。

 

 「なぁ」

 「何?」

 

 短く、俺は女性に尋ねた。

 

 「――が、怜那を殺したのか?」

 

 その質問に、ふふっと女性は笑う。

 

 「違うわよ。まぁ、“今回だけはね”」

 

 最後の一言を強調し、女性は妖艶に微笑む。

 姸麗な挙動を見た後、思考が憎悪に塗りたくられたまま俺は立ち上がった。

 そして怜那を抱えたままこう言った。

 

 「――怜那。今弔ってやるからな」

 

 眠っているかの様にも思えてしまうその美貌を、眼球と脳裡に鮮明に焼き付けた後、俺は外に出て白い髪を揺らす少女へと怜那の亡骸を渡した。

 

 ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ

 

 ――怜那の葬式に出席した後、一週間が経った。

 その間、俺は大していつもと変わらぬ生活を送っていたが、心のどこかに大きな穴が開いたかのような錯覚に苛まれていた。

 

 俺は自分の部屋で溜め息を吐くと、昨日学校で貰った家庭学習用のプリントをすることにした。

 本当の使用要領とは違うのだが、とやかく言わずしてゲーミングチェアに座り、パソコンが置かれた机上でそのプリントに記述された問題を解く。

 科学の科目のプリントをある程度解き、俺は一度休憩するためゲーミングチェアから腰を離した。

 

 「お兄ちゃんっ!」

 

 足をリビングへと運び、道中にて杏子に絡まれたような気がしたが気にせずリビングにある冷蔵庫へと手を伸ばした。

 冷蔵庫の戸を開いた途端、中に陳列した牛乳パックが目に入った。

 

 「一体誰がこれを……」

 

 こうまでしてカルシウムを摂取したいのだろうか。

 俺は顎に手を添えながら考える。

 すると、後ろからとんとんと肩をつつかれた。

 振り返ると、後ろには哥織がいた。

 

 「これ、私が買うってきたんだよ。紅君の背がもっともっと伸びてほしいなって思って……」

 「別にもう背は伸ばさなくていいだろ。既に百七十八もあるんだからな」

 「さて、今のは冗談で……実はこれ、璃瑠ちゃんから『瀲君が早く元気になるために』って貰ったんだ!」

 「あいつ……」

 

 璃瑠の厚意には感謝したいが、お陰様で家の冷蔵庫が牛乳に埋め尽くされてるぞ。他の食品が冷凍庫にしか入らないぞ。どうしてくれるんだ。

 でも、これが彼女なりの激励で俺は単純に嬉しかった。

 だがその反面、周囲の人々を心配させてしまっていると思うと胸が締め付けられて苦しかった。

 

 「――ん?」

 

 不意に、俺は冷蔵庫の片隅に見覚えのない紙きれがあることに気付いた。

 決してその紙は杏子が俺に買ってきてほしい物を書いた紙ではなかった。

 俺はその紙きれを手に取る。

 そして目を見開いた。

 

 「ライブチケットだと……」

 

 そう、これは自称スーパーアイドル堊璃瑠のライブチケットだったのだ。

 しかも、チケットは二枚あった。

 

 「ライブの開催日は七月十六日。誰と行くべきか……」

 

 俺はリビングのソファに転んでスマホを弄っている哥織を見た。

 だが哥織は何か問題を起こしてしまう可能性がある。

 碧五が言っていたが凛音は確かこの日は家族で出かけるらしい。

 なら明理か碧五か或朱か杏子か吹雪の誰かと行くことになる。

 眼帯を付けた隻眼の少女と紫水晶むらさきすいしょうの双子が思い浮かぶが、やめておくことにしよう。

 

 「――お兄ちゃん、無視しないでよ! 最近私のことを無視しすぎじゃないの? もしかして私のこと嫌いなの? それとも興味がなくなったの? いいわよ、必ずお兄ちゃんのことを私に振り向かせてやるわ! ――で、それ何?」

 「ライブチケットだ。璃瑠の」

 「ふ、ふ~ん、それでチケットは二枚しかないの? お兄ちゃんは誰とライブに行くの?」

 「杏子は行きたいか?」

 「うん!!!!」

 

 杏子は俺に抱き着いてきた。

 嬉々とした杏子を前に、俺は微笑んだ。

 

 「じゃあ、杏子。久しぶりに家族みんなで出かけようぜ」

 「うん! でも家族と言っても私と瀲君しかいないけどね」

 「そうだな……」

 

 胸中に哀切が一瞬訪れるも、それを黙殺し、俺は杏子を見つめた。

 杏子は嬉しさのあまり、口元を綻ばせていた。

 その杏子の嬉笑はとても、その嬉笑はとても――綺麗だった。

 

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