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スクール・ジョーカー  作者: 椎凪瑰
第2章 「過去と未来の交錯」
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第2章11話   「衊す」

 ――宵。

 

 「遅れてしまったわね」

 

 生徒会の仕事と、部活のせいで午後八時ぐらいになっている。

 怜那は暗闇の道を進む。

 辺りは人影が一つもなく、酷く不気味だった。

 溜め息を吐き、怜那はコンビニに立ち寄った。

 すると、怜那の目にある少年の姿が飛び込んできた。

 

 「――微睡さん、こんなところで会うなんて気偶わね」

 「怜那か……こんな夜遅くまで何してたんだ?」

 「生徒会と部活よ。全く……もうこんなに暗くなってしまったわ」

 「お疲れ様、ほら、缶コーヒーやるよ」

 「あ、ありがとう……」

 

 怜那は缶コーヒーを受け取ると、少しだけ沈黙した。

 その光景を目に、紅は少しだけ不思議に思ったのか吐息をこぼした。

 

 「コンビニには何を買いに? 夕食……いや、夜食でいいか。弁当でも買いに来たのか?」

 「そうよ。私は料理が下手糞で自分の手料理なんて食べる気にもならないから」

 「料理、下手なんだな。意外だ」

 「意外……? 私が料理を作るのが得意そうにでも見えたの?」

 「まあ、家庭的な人なんだろうな、とは思ってたけれども」

 

 不意に、怜那は微笑んだ。

 

 「微睡さんって、変なこと言うのね」

 「そうか?」

 

 そして、儚げな笑みを収めて怜那は商品棚から弁当を手に取った。

 紅は怜那のことを不安に思い、凝視する。

 

 「な、何……? へ、変なものでも顔に着いてるの?」

 「いや、別に」

 

 怜那はレジで会計を終え、紅と共にコンビニの外へ出た。

 そして持っている缶コーヒーを飲む。

 

 「微睡さん……」

 「何だ?」

 

 紅は怜那に名を呼ばれ、視線を移す。

 何故か、怜那は涙目になっていた。

 

 「私、実は弟と妹がいたの」

 「そうなのか……? 兄妹は烈徒だけじゃなかったのか?」

 「いいえ、死に分かれた弟と妹がいたの。それも、死因は私のせい……」

 

 重苦しい表情で怜那は続ける。

 

 「私の家で、昔火事があったの。それで、私は兄と一緒に逃げて……でも、弟と妹は逃げそびれたの。それも、弟と妹は私を泣き叫んで呼んでいたわ。私と兄は無事に外に出ることができたけれど、目前で業火の中に取り残された弟と妹を救えないかったわ。私、怖くて足が竦んじゃって」

 「――」

 「微睡さんは、私のこと軽蔑しますよね。見殺しにした、重罪人の私を」

 

 怜那は思い出した。

 燃え盛る業火の中で、今も尚自分の名を呼び助けを呼んでいた弟と妹の声を。

 怜那と烈徒は救えなかった。二人の悲鳴を最後まで立ち竦んだまま聞き終えた怜那と烈徒。

 屹度きっと、自分は最低な人間なのだろうと、怜那は泣き叫んだ。

 泣いて泣いて、泣き喚いて。声が嗄れるくらいに。

 

 「――俺は人を殺した」

 「え?」

 「実際、お前より俺の方が罪を犯している。だから、俺はお前を軽蔑などしない」

 「軽蔑しないの……?」

 「馬鹿野郎」

 「いたっ」

 

 紅は今にも泣き出してしまいそうな怜那に軽く拳骨をした。

 そして、

 

 「一つ言っておくが――意外と馬鹿だな、怜那は」

 

 紅は強く言い放つ。

 

 「――弟と妹は、怜那のことを恨んだりなんかしてねぇよ。屹度、天国で応援してるさ」

 

 その言葉を聞き、怜那の心中に混乱が訪れる。

 

 「それに、いつまでも女々しく過去に囚われてるんじゃねぇよ。弱虫か」

 

 しかし、紅は強く、優しく口にする。

 

 「確かに自分が罪を犯したことは消えない。でもな、救えなかった運命は決まってたんだ」

 

 紅は怜那に詰め寄る。

 

 「怜那、死んでしまった弟と妹のために今を幸せに生きろよ。最悪な過去なんて大笑いして吹き飛ばしちまえ。例え本当に恨まれていたとしても、二人を笑わせてやるくらい楽しく生きればいいんだ」

 「微睡さん……うぅ……」

 

 静謐せいひつ瑩徹えいてつな涙を流し、怜那は慟哭どうこくする。

 紅は怜那の涙を指で拭った。

 そして、微笑んだ。

 

 「だから、俺はお前のことを軽蔑なんてしない。一緒に楽しくやっていこうぜ、天国にいる弟と妹達のためにも」

 「――はいっ……!」

 

 涙を流しながら嫣然えんぜんとした怜那を見て、紅は心の底からほっとしたのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「――やっと届いたのか」

 

 俺は待ちに待ったある物を手に、嬉々としていた。

 

 「それにしても、意外と早く届くものだな」

 

 箱を開け、中から『堕天使の憐憫』の13巻が顔を出した。

 俺は本を手に取り、早速凛音に写真を送った。

 

 「明日読ませてやろう、凛音喜ぶだろうなぁ」

 

 ふと、俺は鋳杜弥からメールが来ていることに気付いた。

 『指輪は買ってくれたか?』

 あ、買ってなかったな。

 俺はど忘れしていた。

 鋳杜弥が告白する際に使用すると言っている指輪を買い忘れていたのだ。

 

 「じゃあ今日買いに行くか」

 

 すると、杏子が俺を背後から抱きしめてきた。

 

 「ぎゅぅううう! もう離さないよ!」

 「――」

 「え? どうして無視なの?」

 「――」

 「ねぇねぇ、聞こえてる?」

 

 可愛いので、このまま無視しておこう。

 俺は杏子ごと歩いて玄関へと向かう。

 

 「ちょっとお兄ちゃん! 無視しないでよ! 絶対聞こえてるでしょ!」

 「――」

 「むぅ……」

 

 俺はそのまま靴を履き、外へと出た。

 

 「どこまで着いてくるんだよ……」

 「お兄ちゃんがいるところなら、たとえ火の中、水の中、世界中のどこにでも駆け付けるよ!」

 「それ明理と紡戯よりやばいな……」

 

 ガッツポーズを決めて、天真爛漫に杏子は言った。

 苦笑しながら少し引く俺。

 

 「じゃあな。俺は少し買い物に行ってくるから」

 「むぅ、お兄ちゃん、また私を置いてみんなで映画とか見に行くの?」

 「そんなわけないだろ。私用があるんだ」

 「そうなの……じゃあ行ってらっしゃい!」

 「ああ、行ってくる」

 

 杏子を家に、俺はショッピングセンターへと向かった。

 ショッピングセンター内の活気が耳に入り込んでくる。

 

 「さてと、指輪はこっちか」

 

 俺は高値のアクセサリーが並んだ店へと入った。

 指輪に、ネックレス、腕時計、イヤリングなど、様々な商品が並んでいた。

 

 「ほう、指輪とは言っても色んな種類があるな――というか、鋳杜弥が告白する人の指のサイズは何だ?」

 

 まあ、全種類のサイズ買えばいいか。

 俺は会計を終え、百万近い金を支払った。

 

 「ふぅ、カフェにでも寄り道するか」

 

 コーヒーの香りがする。

 俺は一人席に座り、コーヒーを飲みながらスマホを弄る。

 すると、

 

 「紅君っ!」

 「おおっ、だ、誰だ……?」

 

 耳に息を吹きかけられ、くすぐったい感覚に驚く俺。

 声をかけてきたのは明理だった。

 俺は深呼吸をすると、明理を見つめた。

 

 「急に何をするんだ?」

 「えへへ、つい悪戯したくなったからだよ……悪気はないよ」

 「悪気しかないだろ。で、それは……?」

 

 明理が手にひっさげている袋を見て、俺は尋ねた。

 

 「ああ、これね。私、頭悪くて勉強したいから参考書買ったんだ」

 「へぇ、努力家なんだな。明理は」

 「えへへ、そんなに褒めないでよ。私恥ずかしくて死んじゃうよ」

 「まだ勉強に取り組んでないだろ」

 

 俺は喟然きぜんと、明理を隣にコーヒーを一口飲む。

 すると明理が、俺が手に握っていたコーヒーカップを奪い、一口飲んだ。

 

 「おい、急に取るなよ。零れたら大変だぞ。参考書が濡れるかもしれないのに」

 「あはは、ごめんね。――紅君と、間接キス……」

 「反省の色なしかよ……」

 

 俺は明理を睇視ていしする。

 忻然きんぜんとする明理をよそに、俺は指輪を取り出し、鋳杜弥に確認してもらうため画像を送った。

 すると、『一番右端のでいいぞ』と返ってきた。

 俺はその指輪を直し、そして他の指輪を明理の指にめた。

 

 「お、これ丁度いいな」

 「紅君……これって、指輪だよね?」

 「そうだが?」

 「もしかして、結婚指輪……?」

 「そうだぞ」

 「――!?」

 

 明理は赤面した。

 そして俺を見て息を荒くしている。

 

 「似合うな。後、お前の指って綺麗なんだな」

 「紅君……これって私への告白ってことで受け取っていい……?」

 「告白? 別にそういったつもりはないのだが……」

 「素直じゃないね!」

 「わっ、ちょ!」

 

 俺は明理に抱き着かれた。

 赧然たんぜんとしていても尚、俺に口づけを強請って来る明理。

 

 「ちょ、プレゼントだよ、プレゼント!」

 「そうなんだ。嬉しいよ……ありがとう、紅君」

 「どういたしまして……と言いたいところだが、離れてくれないか?」

 「むぅ……」

 

 明理は頬を膨らました。

 俺の身体から明理は離れ、俺は起き上がった。

 

 「あいつらにも買ってやるか、指輪」

 

 俺は凛音達の反応が楽しみで仕方がなかった。

 喜んでもらえると嬉しいな。

 

 「さて、金を下ろしにいくか」

 「ま、待ってよ!」

 

 慌てて後ろを着いてくる明理。

 俺は銀行でざっと百万円ほど手に取ると、再び指輪を売っている店へと入った。

 

 ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ

 

 ――ねぇ、人を殺したいとは思わないかしら?

 ある女性から投げかけられた声。

 俺は明理と別れた後、血の様に赤い場違いなドレスを着た女性にささやかれた。

 

 「だ、誰だ?」

 「私のことかしら……また後で知ることになるわ」

 

 妙に居心地が悪い気がして、俺は嫌悪感を包み隠せなかった。

 女性は妖艶に笑い、もう一度口を開いた。

 

 「――邐唖って子を知っているかしら」

 「邐唖? 何故お前が名前を知ってるんだ?」

 

 すると、女性は吐息を多く漏らし、

 

 「――私が殺したから」

 「な――!?」

 

 そう囁いた。

 憤慨ふんがいと狼狽と驚嘆が一気に心中に訪れ、俺はその場に呆然としていた。

 

 「――でも、生きてるわ。殺し損ねたのよ、私は。邐唖はいつもあなたの傍にいるのよ」

 「は……」

 

 俺は息を荒げ、心悸を激しくし、目を見開く。

 

 「こんな私からのお願いだけど……あなたに殺人を嘱託しょくたくしてもらいたいのよ」

 「どういうことだ? 誰を殺させるつもりだ」

 

 女性の発言に、俺はそう言い放ち距離を取る。

 途端、女性は笑い出した。

 

 「うふふ、あなた面白いわね。殺人のことに関しては、動揺すらしないなんて……私と同じわね」

 「まあな。両親を殺し、一人の男性を殺し、“彼女”を半殺しにし、新しい両親をも殺し、友人に殺人の采配をする……お前と素性は似ているな」

 

 俺と女性は二人で笑い合う。

 そして――、

 

 「あの子――殺してくれるかしら」

 「少し早くないか?」

 「情けはかけなくていいのよ。それに、あなたの親友ではないから安心してほしいわ」

 「そうか。ならいいな」

 「うふふ、頼んだわよ?」

 「勿論だ」

 

 ひずんだ会話に、終止符が打たれた。

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