第2章閑話 「邇姶綾芽」
これは前閑話の続きです。
――彼女は俺の発言に驚いていた。
「こ、断るってどういうことよ!」
「言葉の意味通りだ」
俺は溜め息を吐き、ベージュの髪をした少女から視線を逸らす。
少女は歯を噛み締め、俺の正面に立った。
「これはあんたの『紡戯』って子に関連する事件なのよ? 手伝わないでいいの?」
「紡戯は大丈夫だ。あいつはああ見えてしっかりしてる」
「ぐ……友達を見捨てるなんて最低ね」
「友達?」
「だってそうじゃない」
俺は少女の吐いた言葉に憤慨した。
「友達じゃない! 幼馴染だ。ただの幼馴染なんだ! それ以下でもそれ以上でもない。僕にとってはそれだけの存在なんだ。何を分かったような口ぶりで言いやがって、僕と紡戯の何を知ってるんだ!」
「急に何よ……」
いきなり怒り出した俺を見て、少女は驚いている。
そりゃそうだ。わけが分からない理由で憤っているのだからな。
「わ、分かったわ……あんたの幼馴染を友達って呼んだことは謝るわ。でも、何でそれで怒るの? 馬鹿にしている要素は特にないじゃない」
「許可を得てないからだ」
「許可……?」
「僕から紡戯の名を呼んでいい許可を得ていないからだ。僕に許可も取らずに勝手に名を呼ぶことなど、絶対に許されない行為だ。紡戯はあいつ自身で俺に許可を取らせる様に指示してるんだ。その工程を全て無視してお前は名を呼んだんだ。勝手に。無許可に」
少女は溜め息を吐いて、俺を睨んだ。
「馬鹿みたい。そうやって二人同士で依存しあってればいいのよ」
「黙れ! お前には何も分からないだろ!」
「もう分からないからいいわ。話はここで終わり」
ぱん、と手を叩いて話を終わらせた少女。
すると、俺は表情を笑みに戻して、
「なに、俺の役者ぶりはどうだった? 綾芽」
「――そうわね。結論から言わせてもらうけど、前よりは上手だったわ。でももうちょっと怒ってる時声を大きくした方がいいわね」
綾芽は俺に指摘する。
俺はその部分を意識して、家で練習することを決意する。
「さて、もう戻っていいわよ。神楽瀲。あんたはそういう人じゃないでしょ?」
「まあ感情的な輩ではないな。もっと普通の人間の真似をできたらいいんだけどな」
「そうわね……まずは喜怒哀楽をマスターした方が良いわ」
「そうすることにする。と言いたいけども、悲しいことと喜ぶことが苦手なんだよな」
俺は考える。
すると綾芽は俺にこうアドバイスをした。
「悲しいことは取り敢えず涙を流せばいいわ。葬式とかでは、みんな涙してるでしょ?」
「確かに……」
「喜ぶことは感謝の意を述べればいいの。それだけで十分だわ。まあ、一応笑みもつけておいた方がいいかしら」
「ありがとう。って感じか?」
「そうだわ」
俺は漠然として感覚を掴むのが難しい『喜怒哀楽』というものを完全にマスターするために、――邇姶綾芽と共に日々練習を積み重ねるのであった。
新たに登場した人物名。
【練習相手】
・邇姶綾芽




