第2章8話 「デート?」
――翌日。
「――何でお前は俺に着いてくるんだよ!」
「駄目ですか?」
男子トイレにまで入り込んできた璃瑠を見て、俺はそう言った。
璃瑠は不思議なものを見る様に、疑問符を浮かばせていた。
自覚がないのが恐ろしい……。
「おいポンコツアイドル」
「ぽっ、ポンコツアイドル……!?」
俺は用を済ませて手を洗う。
そして璃瑠に向き直り、
「ちょっと来てくれ。と言っても絶対に着いてくるか」
「へ?」
そして舞台は移り変わる。
俺と璃瑠がやってきたのは一つの大型ショッピングセンターだ。
賑やかなショッピングセンター内に、しがない高校生の俺と、ポンコツアイドル一人。
何をしにショッピングセンターへ来たかというと、
「実は欲しいものがあるんだよ」
「そうなんですか……瀲君はもしかして、わたしが欲しいんですか?」
「そんなわけないだろ! 指輪だよ、指輪!」
「指輪!?」
そう、俺は鋳杜弥に頼まれて指輪を買いに来ていたのだ。
何でも鋳杜弥は告白したい女子がいるらしく、交際期間を通り越して指輪を渡すらしい。
まあ、俺は鋳杜弥の援助をするだけだ。
「瀲君、好きな人がいるんですか……?」
「い、いることはいるがな……」
俺は恥ずかしさを必死に堪えながらも、そう言った。
哥織のことが俺は好きだ。紡戯のことが好きだ。杏子のことが好きだ。璃瑠のことが好きだ。邐唖のことが好きだ。綾芽のことが好きだ。吹雪のことが好きだ。
善く善く考えたら、俺は友達として好きな人が多いようだな。
「もしかして、わたしですか……?」
「それは、そうだけど……」
「ひゃっ……!」
璃瑠は顔を赤くして俺から距離を取った。
「ば、馬鹿! 俺は友達として好きなんだよ。璃瑠のことがな」
「でも、好きって言われたら、恥ずかしくなっちゃうよ……」
璃瑠は俺の近くへと戻ってきた。
「それに、今デートしてるだろ?」
「デート!?」
声を荒げる璃瑠。
何故『デート』という単語に驚くのが、俺は不可解に思いつつも璃瑠と共に歩く。
『デート』は男女が二人で出かけるものと、あいつらが言ってたからな。
ベージュの髪をした少女と、空色の髪をした少女を思い出した。
懐かしい奴らだ。一人はもう会えないけどな。
「あ、紅君じゃないですか!」
「碧五か」
俺に声をかけてきたのは、空色の髪を揺らす少女、柄沫碧五だ。
そして碧五の隣には或朱もいた。
「よう、紅。で、その子は誰?」
「わたしのことをご存じないのですか! わたしはスーパーアイドル堊璃瑠です! 以後お見知りおきを」
「あ、ああ……」
或朱は璃瑠の勢いに気圧されながら苦笑した。
俺は或朱にこう囁く。
「璃瑠はな、自称スーパーアイドルとか言って驕るストーカー気質のある女だから気を付けた方が良いぞ」
「そ、そうなのかっ!? 気を付けておくぞ」
或朱は俺に「サンキュー」と言ってウインクした。
璃瑠は俺を睇視している。
「瀲君、今わたしのことを罵りませんでしたか?」
「気のせいだ。さあ、みんなで買い物だー!」
「誤魔化さないでくださいよ……」
俺は璃瑠の言葉を無視し、総勢四人でショッピングセンター内を見回ることにした。
まずは服を見に行く。
「ほう、このパーカーはいいな……」
俺は白のパーカーを手に取り、値段の札を見た。
『14500円』
たっか……。
「璃瑠は何かいいの見つかったか?」
「瀲君、どっちがいいですかね!」
「そ、それは男性に容易く見せつけるものじゃないだろ!」
「何でですか……?」
璃瑠は俺に下着を見せてきた。
桃色と、黒色どっちがいいか尋ねているらしい。
「ええと、俺的には璃瑠はこっちの方が似合うんじゃないかと……」
「ありがとうございます! ピンクですねっ!」
嬉々としてレジへ並んだ璃瑠。
俺はもう少し安いパーカーがないかと商品棚を漁っていた。
すると、いい感じの黒いパーカーを発見した。
「おお、これとかいいな。よし、買うか」
値段は五千円だった。
お手頃な値段なので、買っておく。
すると、後ろから或朱が俺に、
「なあ、紅はスカート、好きか……?」
「別に好きでも嫌いでもないが」
「そうか……ちょっとこっち来て」
「おっ、ちょ、待てよ!」
俺を走って引っ張っていく或朱。
或朱は俺を試着室前まで連れていくと、不意に止まった。
「じゃ、じゃあここで待っててくれないか? オレ、今から試着してみるから……」
「そうか。別に一時間ぐらい待ってやれるぞ」
「流石に一時間はかからないよ」
或朱は羞恥を含んだ笑みをして、試着室の中に入った。
スカートを試着するらしい。
「ど、どうだ……」
ゆっくりと試着室の中から出てきた或朱。
黒いスカートを穿いた彼女は、あまりにも美麗だった。
俺は目を奪われる。
「似合ってる、か……?」
「めちゃくちゃ似合ってるぞ!」
俺はそう褒めた。
或朱は頬を赤くし、
「じゃ、じゃあこれ買うことにする。ありがと」
「ああ」
或朱は元の私服に戻って俺の隣に来た。
すると、
「紅君、これ試着してみてくださいよ!」
「何だ?」
俺は碧五の持っている服を見る。
「馬鹿野郎」
「あいたっ」
どれもスカートとかだったため、俺は拒否することに。
碧五は女装させる趣味でもあるのか?
「でも紅君は女装しても可愛いと思うんですけどね……」
「そんなわけないだろ。早くレジに行くぞ」
俺は或朱と碧五と共に、レジへと並んだ。
今レジで服を購入しているのは璃瑠だった。
そして数分ほど経った後やっと俺の番が回ってきた。
この店はセールをしていて大勢の客が訪れているのだ。
だから会計をするのに時間がかかった。
そして俺と或朱と碧五は会計を終えた。
「瀲君、次はあそこ行きましょうよ」
「どこだ?」
「映画館ですよ」
実は、このショッピングセンターは映画館があるのだ。
俺は三人を見て、どうするか判断する。
或朱と碧五は乗り気だ。
なら俺も行くか。
「ああ、分かった。俺も映画館に行くことにするよ」
「はい! じゃあ決定ですね」
璃瑠は嬉しそうに言って、俺の隣を歩く。
「映画は何を見るんだ?」
「『怪獣ボジラ』を見るんですよ」
「あれか。確かに面白そうだな」
俺は映画のポスターを見て言った。
「でしょでしょ」という風に俺を横から見ている璃瑠。
すると、後ろからカメラのシャッター音が聞こえた。
俺は振り向く。
だがしかし、そこには誰もいない。
――盗撮されているのか?
璃瑠はアイドルだ。だからファンにもストーカーや盗撮犯が存在するかもしれない。
気を引き締めていくか。
俺は不安に思いながらも、璃瑠を見つめた。
「璃瑠、ポップコーン要るか?」
「はい! 君達も食べますか?」
璃瑠は或朱と碧五に言った。
「あ、ああ、食べることにする」
「私は食べます!」
「じゃあ、買ってくる」
俺はレジに並んでポップコーンとジュースを購入した。
「さて、後は席決めだな」
「そうですね。勿論わたしは瀲君の隣ですよ」
「何を言ってるんだ? オレが紅の隣だ」
「じゃ、じゃあ私も……」
「お前ら……」
三人の視線が交錯する。
俺は何とかこの場を上手く治めるために、
「そうだな。一人が俺の左で、一人が右、もう一人は俺の後ろ、というのはどうだ……?」
しかしながら俺の声は三人に聞こえていなかったようだ。
俺は店員に開いている席を尋ねた。
開いている席は201と202、そして203と205らしい。
一人だけ一つ席が離れるが、近くなのでまあいいだろう。
だが、俺が思うには璃瑠を必ず隣にしたい。
さっきから盗撮犯の様な輩に追われているしな。
守ってやらねば。
この場合、俺は202に座った方が無難だ。
「じゃあ俺は202にするが、201は璃瑠で頼めるか?」
「わたしですか……? やっぱり瀲君は友達として好きなんじゃなくて、恋人として愛して――」
「いいから、取り敢えず碧五と或朱どっちかが203か205に座ってくれ」
或朱と碧五は俺の発言に驚いた様子だった。
碧五は一瞬だけ悲壮に満ちた顔をすると、
「じゃあ私が205に座るから、或朱は203に座っていいよ」
「そうか。じゃあ決まりでいいか?」
「オレは別にいいが……」
或朱は少し緊張している様だった。
しかし、俺は碧五の行動が気になって仕方がなかった。




