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スクール・ジョーカー  作者: 椎凪瑰
第2章 「過去と未来の交錯」
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第2章6話   「殺意」

 ――俺と凛音は二人で話をしていた。

 

 「紅さん! これ面白かったです!」

 「そうか。喜んでもらえてよかったよ」

 

 俺は凛音にラノベを沢山読ませたのだ。

 その結果、凛音は物凄くテンションを上げていた。

 楽しそうで何より。

 

 「さて、俺はあれをどうにかするか」

 

 俺は哥織の殺意をひしひしと感じ取っていた。

 屹度、何か事を起こすだろうな。

 俺は念のため、杏子を凛音の隣にいさせた。

 

 ――哥織は杏子を殺したりはしないだろう。

 

 杏子を殺さないと言うことだけは、確実だった。

 

 「じゃあ俺は気晴らしに散歩でも言ってくる。杏子と凛音と哥織は家にいてくれ」

 「瀲君、ボクは着いて行っちゃ駄目?」

 「駄目だ」

 「むぅ……」

 

 哥織は頬を膨らませた。

 俺は溜め息を吐きながら玄関に行き、靴を履いた。

 

 「それじゃ、行ってくる」

 「行ってらっしゃーい!」

 

 哥織は俺にそう言った。

 そして俺は外に出て、近所の道路を歩いた。

 暫く歩いて、ふとバス停に寄った。

 そのバス停は鴻鵠鴎鵝学院に向かうバスが来るところではなく、讎銘学院のバスが来るバス停だ。

 不意に、俺は過去を思い出した。

 

 ――ベージュの長い髪を揺らす少女が、俺に言った言葉を。

 

 「――を手伝ってほしいだなんて。あいつもたまげたものだな」

 

 俺は口元を綻ばせていた。

 すると、後ろから足音が聞こえた。

 足音はゆっくりと俺に近づいてくる。

 そして俺の左隣で止まった。

 

 「なあ、お前。ここは午前中にしかバス来ねぇぞ」

 

 男の声がした。

 俺は男の方を見た。

 男は風船ガムを膨らませ、パーカーのポケットに手を入れていた。

 そして風船ガムを地面に吐き捨てると、俺を再度睨んだ。

 

 「なんでこんなところに一人でいるんだ」

 「いや、何となくだ」

 

 『何となく』という部分を強調し、俺は男から視線を逸らした。

 俺の返事に黒髪を乱雑に掻いた男は俺に言った。

 

 「何となく……か。確かにな。このバス停には、何故か分かんねぇけど引き寄せられるんだ」

 「そうだな」

 

 ぎこちない会話をし、俺はまたベージュの髪をした少女を思い返す。

 確かこのバス停であの少女に手伝ってほしいことを聞かれたんだったな。

 懐かしい。

 

 「――俺はな、妻とここで出会ったんだよ」

 

 急に男が話を始めた。

 俺は男の話に耳を傾ける。

 

 「雨宿りに来た妻と俺はここで話をして笑い合ったんだ。そしてまた雨の日が訪れて、偶然だけどもまた妻と会ったんだ。何故だか妻のことが、俺は気になってたんだ。そして、雨の日は暫く訪れなくなった。俺はどうしても妻に会いたくてしょうがなかったんだ。雨が降った日がついに訪れた。俺は妻と再び会うことができ、その日に想いを告げた――。そんなことがあったんだよ」

 「そうか。それならよかった」

 「ふふ、でもな。妻はもう亡くなったんだ。事故でな」

 「――!?」

 

 俺は驚いて男の方を見た。

 男は儚げに微笑んでいた。

 

 「そんな、馬鹿な――!?」

 「どうしたんだい? ――瀲君」

 

 男は俺に向かって不敵な笑みを送った。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 ――その一方、凛音達は。

 

 「凛音ちゃん、これもお兄ちゃんが面白いって言ってたよ」

 「そうなんですか、読んでみますね」

 

 嬉々としながら杏子の指した本を読む凛音。

 杏子は凛音のことを内心で「可愛いなぁ」と思いつつ、凛音を見つめていた。

 

 「ちょっと私トイレに行ってくるね」

 「はい。分かりました」

 

 杏子はトイレへと向かった。

 すると、哥織が笑いながら凛音を見ていた。

 

 「凛音ちゃん、だっけ?」

 「は、はい……そうですけど」

 

 凛音は哥織にかしこまっている。

 哥織は紅にとってとても大切な人物であるという。

 なんでも付き合ってた、とか。

 

 「そうなんだ。可愛い名前だね」

 「あ、ありがとうございます」

 

 凛音は苦笑しながらそう言った。

 哥織は表情を一変たりとも濁さず、ふと何かを凛音の喉笛に突き立てた。

 凛音は突き立てられたものに瞠目した。

 

 ――包丁。

 

 困惑し、凛音は哥織の方を見た。

 依然ながら哥織は笑顔のままだ。

 

 「凛音ちゃん、ボクの座を奪わないでほしいんだけど」

 

 笑顔とは逆に、声には感情が籠っていなかった。

 凛音は息を荒げながら、包丁を持つ哥織の右手を離そうともがく。

 

 「な、何をするんですか!」

 

 凛音は哥織に向かって言った。

 声は震えながらも、強く放たれた。

 哥織は包丁を下に下げ、途端笑い始めた。

 

 「あははははぁあはああはははははあは!!!!!! 『何をするんですか』だって。ボクおかしくてお腹が痛いよ」

 「どこが可笑しいんですか?」

 「全てだよ。全て。君の言動、行動は、ぜーんぶ誤ってるからね」

 

 哥織は哄笑を浮かべ、包丁の先端を凛音の手首へと走らせた。

 凛音の右手首に裂傷ができる。

 痛みに涙し、凛音は哥織から一歩後退りする。

 

 「哥織さん……あなたは何故……」

 

 凛音は唇を噛み締めて痛みを堪える。

 そして哥織の足を自分の足と絡め、哥織を床に倒した。

 だが、哥織はすぐに起き上がり、凛音を睥睨する。

 

 「凛音ちゃん。君は今、ボクに向かって暴力を振るったな」

 

 哥織の声は震えていた。

 それも怒りによってだ。

 

 「ボクが傷つくと瀲君は悲しむ……あぁ、君は今その何気ない一つの過ちで、瀲君の心を傷つけたんだ! 絶対に許さない。何があってもだ!」

 

 涙を流しながら哥織は叫んだ。

 すると、哥織の手を誰かが握っていた。

 

 「――哥織。そこまでにしようか」

 

 その声は酷く冷徹だった。

 哥織よりも感情が消え失せた声色に、凛音はたじろいだ。

 声の主が、あの杏子だったからだ。

 いつも明るくて紅のことを愛してる宣言ばかりをしているあの杏子が、今は途轍もなく感情のない声色で話しているのだ。

 凛音は驚きと共に、恐怖を感じた。

 

 「杏子さん……?」

 「凛音ちゃんは黙ってて。今私は、哥織ちゃんの蠢愚な行いに少しばかり憤ってるだけだから」

 

 杏子は無機質な瞳で哥織を睨む。

 哥織は酷く怯えた様子だった。

 

 「きょ、杏子ちゃん……ご、ごめんなさい……」

 

 言葉と喉を詰まらせながら、哥織は杏子に謝る。

 

 「哥織ちゃん。お兄ちゃんに黙ってこの様なことをしたこと、どう頑張っても責任取れないよ?」

 「は……はい」

 

 哥織は項垂れる。

 そして、杏子は哥織の耳元で囁いた。

 

 「――死にたくなかったら、これ以上罪を重ねないで。お兄ちゃん、本気で怒るよ?」

 「あ、あぁ……」

 

 虚脱きょだつする哥織と、微笑む杏子。

 凛音には、杏子が何を囁いたのか分からなかった。

 杏子は凛音を見て、

 

 「大丈夫だった? これからはもうこういうことはないから安心していいよ」

 「そうなんですか……」

 

 凛音にとってはまだ恐ろしいが、杏子の言うことは信じよう。

 しかしながら、凛音はまだ杏子達の別の顔は知らないのだった。

 

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