第2章5話 「夢現」
――哥織……!?
俺は今、目の前で有り得ぬ邂逅を果たしたのだった。
エプロンを身に着け、笑顔で俺を出迎えてきた哥織。
ふと、哥織は俺が抱きかかえている少女を見て首を傾げた。
「この子は……?」
「あぁ、俺のクラスの友達だ……」
すると、哥織は瞳の光を失った。
そして、気付くと瞳に光は戻っていた。
「じゃあ、瀲君。杏子ちゃん。ご飯できたから食べていいよ」
俺は杏子を一瞥した。
杏子は唖然としていた様子だった。
「杏子」
「は、はい! お兄ちゃん、何をさせるつもりなの……?」
「何もするつもりはない。取り敢えずリビングに上がるぞ」
俺は心底、哥織がいる事実に驚愕しつつも、それを抑えてリビングへと向かった。
哥織は微笑んで俺の手を握っている。
「はぁ……やっぱり瀲君の手は温かいね」
そう呟きながら、頬を赤くする哥織。
俺は凛音を背に抱えて、そして俺の部屋にあるベッドに寝かせた。
すると、哥織はまたもや瞳から生気を消した。
「なあ哥織。どうして戻って来たんだ?」
「それはねぇ……」
哥織は、実に遠くへと引っ越していたのだ。
そして、今戻って来たというのだ。
「私の親が病に臥したから、親戚のいるこっちに戻って来たってわけ。でも、親戚の人皆殺しにして瀲君の家に強制的に住むことにしたの」
「哥織、お前はやはり箍が外れてるな……」
「瀲君の家に住みたかっただけだよ?」
平然と殺人のことを語れるのがあまりにも恐ろしい。
殺人者を同棲させるのはあまりしたくないが、哥織は特別だ。
「人を躊躇なく殺せるのが凄いね……」
杏子が少し引いた様に言う。
「えへへ、そんなに褒めなくても……」
哥織は照れくさそうに頭を掻く。
普通の常識人ならば、この様なことを褒め栄やかされて嬉しいなどとは微塵も思わないだろう。
殺人したことを自慢してくるのがこの女、哥織だ。
あまりにも思考が狂っている。
「哥織、それは口に出さない方がいいぞ」
「はーい」
哥織は俺に抱き着いてそう返事をした。
絶対に反省してないなと思いつつも、俺は凛音の寝顔を眺めていた。
「凛音は純粋でいいな……」
凛音以外のこの場にいる全員は、身体中穢れてしまっている。
犯罪に手を染めた杏子も、無差別殺人を繰り返す哥織も、両親と一人の男性と大切な存在を惨殺した俺も。
だからこそ、凛音のことが羨ましく思えてきた。
俺は自分でおかしいと自覚している。でも、俺は善人である。
「ん……」
凛音は目を開いた。
そして俺の顔を見つめる。
「あれ? 紅さん? ここは……?」
「俺の部屋だが」
「じゃあ、今私が転んでいるのは?」
「俺のベッドだが」
「ひゃっ!」
凛音は赤面して勢いよくベッドから飛び降りた。
「く、紅さん! な、何でそんなこと……」
俯き、凛音は緘黙した。
哥織が睨んでいたことを知らずに。




