第2章4話 「驚愕」
「――さて」
俺は屋上に佇む一人の少女を見つめた。
藍色の髪を靡かせ、制服に身を包んだ少女は俺に気付くと少しばかり口元を綻ばせた。
「久しぶりわね、微睡紅。会えて光栄だわ」
怜那は俺に手を振る。
「俺に何の用だ? まさか兄の敵討ちか?」
兄――廻糾烈徒は、ある少女に性暴力を振るったため逮捕されたのだ。しかしながら、烈徒の顔面は血塗れだったという。顔面は変形し、治ることはないという。
「違うわ。それに、あの屑が逮捕されて私としてはとても嬉しかったわ。この事件の流れを、“微睡さん”が生み出したのではと思い、礼を言いたかったの」
「そうか。兄弟愛の微塵もないな。それに、俺はレイプ事件の一連の流れなど生み出してはいないぞ」
「兄弟愛に関しては、私とあの屑はそんな関係じゃないわ」
「俺と杏子が変な関係みたいに思ってないだろうな?」
「別に」
そう言い、怜那は髪を風に靡かせた。
「俺に話があるんだろ?」
「その通りだわ」
怜那は一度深呼吸をすると、俺に向かい合い、ふと微笑んだ。
「生徒会長になってくれないかしら」
「は?」
俺は思わず怜那に問う。
生徒会長に、なってほしいだと……?
「その、もう一度言うけど生徒会長になってほしいの」
「え……」
俺は驚きのあまり言葉が閊えた。
すると、怜那は儚げに微笑み、
「私は、微睡さんに生徒会長になってほしいの」
「俺が、か……?」
「そうよ。私は、微睡さんのことを……その、尊敬してるから、私よりも上にいてほしいなって」
「俺に身勝手な理想を押し付ける。か……」
俺は黙って考え込む。
尊敬しているから、自分より上の身分にいてほしい。と、怜那は頼んできた。
生徒会長、か……メリットといえば就職に少しは役立つのだろうな。
考えに考え、俺は一つの答えを導き出した。
「いいだろう。生徒会長になった方がメリットが多い……だから俺は生徒会長になる」
「それなら……!」
怜那は表情を珍しく明るくし、俺に顔を近付ける。
俺は内心で少し笑いつつも、怜那の両手を握った。
「俺が生徒会長になった暁には、お前の尊敬している微睡紅の本領を発揮してやるさ」
「あ、ありがとうございます……あぁ、紅様」
泣いて喜ぶ怜那。
そんなに喜ぶことなのか、と思いつつも俺は笑みを取り繕った。
「――怜那。次はお前だ」
俺はぼそりと呟いた。
それも、誰にも聞こえない程度の大きさで。
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屋上で怜那との話を終えた俺は、凛音達と共に帰宅していた。
「紅、オレはこっちだから、じゃあな!」
「私もじゃあね」
「さようならです!」
或朱と明理と碧五は、バス停の向こう側へと去った。
俺はそんな三人に「じゃあな」と言い、凛音と杏子の方を見つめた。
少しだけ不可解だ……。
俺は何故か感じる悪寒に困惑しつつも、気張って悪寒を抑制した。
「紅さん、バス来ましたよ」
「そうなのか。杏子、行くぞ」
「うん」
凛音と俺と杏子はバスに乗った。
俺は何故か、時の流れがいつもより速い様に感じていた。
「紅さん、ぼーっとしてどうしたんですか?」
「あ、いや、何でもない」
凛音は俺を心配そうに見つめている。
杏子も俺のことをじっと見つめていた。
そしてバスを降り、俺と凛音と杏子は家へと帰宅する。
「あれ、凛音ってこっちだったっけ」
「違いますけど、別にいいじゃないですか。私は好きで紅さんに着いて行っているので」
「ストーカー行為の性癖でも身に付けたのか?」
「違います!」
凛音は憤った。
ふむ、俺に好きで付いてくるとはストーカー行為ではないのか?
「凛音ちゃん、もしかして……」
「何ですか?」
杏子がにやりと笑った。
「――お兄ちゃんのこと好きなの?」
俺はその衝撃の言葉に目を見開いた。
凛音も同時に驚愕している様だった。
――凛音が、俺のことを好きだと……?
「ち、ちが、そ、そんな、わけ――!?」
凛音は顔を真っ赤にしていた。
杏子が「図星じゃん」と、更に揶揄う。
「お兄ちゃんの家に泊まりたいんでしょ? ねぇ?」
「い、いや、そ、そんな、話、あるわけ、ないですよ!!!」
途端、凛音は叫んだ。
そして、気絶。
俺は溜め息を吐き、凛音をお姫様抱っこ(ここ重要)をした。
「お兄ちゃん、もしかして動揺してるの?」
「動揺、か……確かに、少しは驚いているな」
凛音が俺のことを好きだったとは知らなかったな。
でも、杏子の言っていることが間違っている可能性もある。
そこは本人から聞かないと真相は分からない。
俺は自宅の鍵を開け、ドアを開いた。
すると――、
「れーんくーん! おかえりっ!!!」
「え?」
玄関にはエプロンを着た哥織の姿があった。
何故、哥織がここに……?
俺は衝撃と驚愕の二つを同時に受けた。
原因は、ここにはいないはずの哥織がいたからだった。




