第1章26話 「最後」
――俺が天と思わぬ邂逅をする、少し前。
「縷安、お前はここにいてくれないか?」
「はい、そうしますわね」
流石は“警官の娘”だ。
俺は警察官を両隣に据えた縷安を見送った。
これで犯人をすぐに捕まえることが出来るな。
「紡戯、俺はお前の仇討ちをやっと出来るぞ」
俺は不敵に笑った。
―――――――――――――――――――――――――――
「つまるところ、天。お前はもう終わりだ」
天を見下し、俺は嗤った。
やっと復讐を果たすことが出来るのだ。
たとえ、俺と仲がよかった輩が敵であろうが、紡戯を殺害した犯人であれば容赦はしない。
俺は茂みの方に目配せをした。
すると一斉に警察官が飛び出し、天に手錠を嵌めた。
天は瞠目し、何が起きたのか理解しようとしている。
「紅さん……」
「天。俺はお前のことを味方だと思っていた。本当に好きだったのに」
「私も、紅さんのことを愛していたよ」
「でも俺は、もうお前のことなどどうでもよくなった。それに、もう俺の悲願は達成出来たのだしな」
俺は天を見て、微笑む。
「じゃあな」
天はパトカーの中に連れられた。
俺は警察官達を見送り、そして縷安の方を見つめた。
「漸く怨讐を果たすことが出来ましたわね」
「そうだな」
「弟の仇討ちに、やっと成功しましたわ」
縷安は嬉しそうにしている。
俺は相変わらずな無表情を直した。
「――やっと、何もかもが終わったんだな。紡戯」
俺は天国にいるであろう、紡戯に向かって笑みを送った。
しかしながら、その『仇討ち』とやらは失敗に終わった。
――次の日の学校。
重苦しい雰囲気の中、先生は口を開いた。
「ええ、皆、もう既に知っているかもしれないが『2ー3』の生徒、奢務羅縷安が亡くなった」
その衝撃の事実に、俺は唇を噛み締めた。
縷安と話したのは、昨日が最期だった。
思い出こそは少なかったものの、彼女といて、退屈などはなかった。
どうして、亡くなってしまったのだろうか。
「また無気力な日々が甦ってしまうな」
俺はそう呟き、靴箱を開いた。
靴箱の中からは、ひらひらと舞い降りるものが一つ。
俺は現れたものを手に取った。
――手紙。
数々の悪事を引き起こした、最悪との邂逅。
俺は警鐘を鳴らした。
その手紙の封を開いた。
記述はこうだ。
『拝啓 瀲君へ――こうやって文通をするのは久しぶりだね。覚えてる?』
何だこれ?
『私のことは勿論覚えてるよね?』
誰だよ。
『また会えたら会おうね。敬具――哥織より』
俺は差出人の名を目に映した途端、目を見開いた。
『哥織』……。
俺は彼女の名を知っているし、彼女をこの目で見たこともある。
どういうことだ?
何故、彼女が……?
もしかしたら彼女じゃない何者かが手紙を書いたのだろうか?
いいや、違うな。
『瀲』という忌み名を知っているのは、紡戯と吹雪と哥織だけだ。
もしや、本当に哥織からなのか?
俺はその場に立ち尽くす。
「紅様……いや、紅君。どうしたの?」
「碧五か」
俺は碧五の方を見やる。
碧五は俺を不思議そうに見つめると、不意に微笑んだ。
「紅さん。早く帰りますよ」
碧五に続き、俺に声をかけてきたのは凛音だった。
「そうだよ」「お兄ちゃん、凛音ちゃんの言う通り」「紅、オレも一緒に帰るぞ」
明理と杏子と或朱が俺に同時に言った。
俺は腑に落ちぬ不可解な手紙を鞄に仕舞い、彼女達と共に歩き始めた。
それに、俺は知っている。
天はただの捨て駒だったということと、
――まだ真犯人がいるということを。




