第1章24話 「最悪の邂逅」
――帰宅時。
俺は荷物を全て鞄へと仕舞い、凛音と共に帰宅していた。
明理は部活へ、杏子は整備員の仕事があると言っていた。
「紅さん、明理さんとは諍いを起こしたのですか?」
「まぁ、少しばかり言い合いになってな」
数時間ほど前、俺は明理と論争を繰り広げたのだ。
明理の狂気的な愛の質問に、俺はたじろいだ。
そのことを、凛音は俺に尋ねた。
しかし、凛音は明理の狂気を、まだ知らない。
「明理さんと、仲直りをした方がいいんじゃないですか?」
「そうだな。このまま不仲で目も合わせなくなってしまったら、一生悔やむだろうな」
俺はそう言い、凛音の方を向く。
「そうですね……私に一つ提案があります」
「何だ?」
俺の耳元で、凛音は囁く。
俺は頷き、凛音の賢さに驚く。
「よし。それなら、凛音の言う通りにするぞ」
「はい!」
凛音は微笑み、高らがに返事をした。
――――――――――――――――――――――――
――屋上。
「紅君。こんなところに私を呼び出して、何の用?」
「明理……」
俺は冷淡な声で尋ねる明理の名を呼んだ。
明理を屋上に呼んだのには、わけがある。
それは後ほどわかるはずだ。
「明理。話がある」
「何?」
明理は眉を顰めた。
俺は心の中で慌てながらも、口を開いた。
「明理のことが、お、俺は――」
「な!?」
明理は瞠目した。
俺から告白の様なものを、明理は受けると思わなかったのだろう。
俺は続きを口にする。
「大好きだ!」
「――!?」
明理は一歩後退りした。
俺は動悸が激しくなるのが感じられた。
「そうだったんだ、紅君」
明理は目にハートマークでも浮かべているのか、俺をじっと見つめている。
頬を桜の様に桃色に染めた明理は、俺に近付くなり、抱き着いてきた。
「私も、紅君のことが大好きだよ」
しまった、作戦失敗だ。
俺は明理に強く抱きしめられた。
「ば、馬鹿野郎。俺は、明理のことを友達として好きだって言ったんだよ」
「え? そうなの?」
明理は顔を上げ、俺をまじまじと見つめる。
「でも、紅君は私のことが好きなんだよね?」
「ま、まぁな」
俺は苦笑いした。
すると、明理は天使の様に微笑むなり――、
「紅君、今日はごめんね」
「俺も悪かったな。一方的に僻んだ返答をしてしまって」
俺は後頭部を、気まずさで掻いた。
取り敢えず、明理の機嫌がよくなってよかった。
俺は一先ず胸を撫で下ろした。
これで一件落着か――、と思いきや。
「――で、紅君。何で凛音ちゃんを連れてきてるの?」
「ぐ」
俺は慌てて凛音が隠れていた方を見やった。
凛音が隠れていたドアの内側から、赤い髪がはみ出しているではないか。
俺は息を呑み、剣呑な場を鎮めようと、
「いやいや、気のせいだぞ」
「そう? 嘘じゃないよね」
「俺は嘘なんて吐かないぞ」
明理は恐ろしい表情を、いつもの可愛らしい笑顔に変えた。
「じゃあ、紅君、行こっ!」
「あ、ああ……」
俺は明理と手を繋いだ。というか、明理が無理矢理手を繋いできたのだが。
俺は凛音がこちらを覗いているのに気付き、目配せした。
すると凛音は急いで屋上から去った。
俺は吐息を漏らし、隣ではしゃぐ明理を一瞥した。
――いつもこんな感じでいてくれればいいのに。
屹度、誰もがこう思っただろう。
「紅君。どうしたの?」
「い、いや別に……」
明理は、俺の重苦しい表情を気にしている様だ。
俺はすぐさま笑顔を取り繕い、返事を返した。
「何でもないさ」
「ふぅん」
明理は上目遣いで俺を見つめると、また歩き出した。
そして、靴棚に着いた。
俺が自分の靴箱を開くと同時に、一枚の手紙が落ちた。
俺は心臓をどくん、と鳴らし、恐る恐るその手紙を手に取る。
その手紙にはこう書かれていた。
『――我は貴様が探し求める、連続殺人鬼だ。今日の午後六時、宵波公園に来い』
自らの身で、俺に会うというのか。
必ずしも、何かを忍ばせているに違いない。
俺も俺で警戒心を強めておくか。
「そうだ、明理」
「何?」
「――俺が死んだら、悲しいか?」
「え?」
俺は一言、明理に尋ねた。
死んでしまうかもしれない、未来を前に。




