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何も持たない僕が、異世界で爪痕を残すまで。ーその人はただ誰かの心に残りたいー  作者: 阿野ツリア
第一章 喪失、また喪失

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第7話 その頃一方……

 ※注意※

 この話はヒワたちとは全く違う話となっています。

 読んでも読まなくても多分そこまで差はありませんが、読んでおくと後々……?

 といった感じです。

 それを踏まえたうえで読む方読まない方、どうぞご理解くださいませ。


 ガシャン、ガシャン、と無機質な鉄の音が彼方に響いている。

 まるでリズムを刻むように一定だ。


 そしてその音が目の前にある大きな扉の前まで来たことを悟ると男は深く椅子に座り直した。


「入れ」

「失礼いたします。王」

「うむ、それでわかったか?」


 老獪さを感じさせる鋭い眼光に一瞬気圧されたが、慌てて兵士は布を取り出すと、そこに書かれていることを読み始めた。



 「我が国のラビホッグの森で突如、空を覆うような大樹が生えたとの情報がありました。

 無論、魔靄(マモ)の暴走のような予兆があるものではなくまさしく光のようにそれはそびえ立ち、あろうことかそれがそのまま倒れ、森の木々をなぎ倒し、生態系を破壊したとのことです」


「そうか、続けろ」


 無駄に伸ばした白いひげを擦りながら、鋭い眼光で彼はその話を聞いていた。


 彼の名はビーラムシ・リズン。

 サテイハを首都とした国、リズンの純血の王族である。

 いつも通りであれば彼は豪華な椅子で考え事をしながら、気難しそうに外を見るだけであったが、今の彼はどうやらそんなことをしているほどの余裕がなさそうに見える。


 それもそのはず、今から約数分前、この城がかなり大きく揺れたのだ。

 彼はその時、ワインを嗜みながら久方ぶりの休息に身を委ねていたのだが……

 禍々しい何かを感じ取ったのか、ワイングラスを落とした挙げ句、盛大に嘔吐したのだ。


 彼自身、こんなことは初めてだった。

 禍々しい何か、それが一体何なのかは彼もよくわかっていないがそれが何か良くないものだということは察していた。


「森自体の損傷は何年か経てばすぐに持ち直せるようですが……恐ろしいことにこの情報が既に他国に出回っております」


 その刹那、兵士は己の首がついているのかわからなくなってしまった。

 まるで今から殺人を犯すのではないかと言えるほどの冷たい目で王が見ていたからだ。

 兵士には愛する家族がいる。それだけにその恐怖は底知れない。

 王の気分で自分の首なんて軽く飛んでしまう。


「出回っている?」

「は、はい!」


「原因は魔法か?」

「わ、私の口からではなんとも言えません」


「はぁ……」


 王は一言、「そうか」とだけ呟く。


 そしてしばらく毒ガスで充満したかのような空気を醸し続ける。

 兵士は今にも倒れそうだった。


「……今、集められる貴族、高官を集めよ」


 そんな兵士の気持ちを察してか、結論はすぐに出た。


「はい、すぐさまお呼びいたします。それでは失礼いたします」


 王が高官たちを集めたのは至極真っ当なことである。


 そりゃそうだろう、もはや天変地異とも言える事象が起きているのだ。

 それを放置して良しとなんてできるわけがない。


 それに情報が瞬く間に世界に広がったことも王を焦燥させるに至った。


 もしこれが人によるものだったら、もしこれらが意図して行われたものだったら。

 空前絶後のテロの可能性もある。

 これは宣戦布告である、そう考えれば予兆がなかったことも少しは納得できるだろう。


 もし、テロリストがこの魔法をリズンの首都、サテイハにて行われていたら。

 死者数は計り知れないだろう。それに、もし自分が死んでしまったら――――国の崩壊、他国による攻め込み、それら以外の悪い事象も想像に難くない。

 それだけに、気が気じゃないのだ。


 故に、国としても個人としてもこの問題は早急に解決すべきと判断した。







「では、始める」


 王が一言そう呟くと、長机に並び座った人々は静かに頷いた。


「……つい先刻、我が国の領土内において莫大な魔力による建造物出現があった」

「皆それぞれ、思うことはあるだろうがひとまずこれだけは伝えさせてほしい」

「何かあったら私が責任を取る、それだけは変わらない」


 力強い一言だった。

 王の目には確固たる意思が見え、それを守らないのであればすぐさま死んでやるといった表情を浮かべている。


 その言葉に高官達は少し冷静になった。


 彼らにとって重要なのは国が崩壊しないかどうか、した時どうすればよいのか。

 また、王はどれほど使えるのか、といった情報である。


 それが今の王の一言で全て解決された。

 そこに高官達は安心感を覚えたのだ。


 それに加え、やはりこの王についていくほかはない、と強く感じたのも要因の一つだろう。


「ご厚意感謝いたします。ただ、今回の事故、いや事件はそうやすやすと結論付けられるものではありません」


 そんな王の決意を嘲笑うように、ある男が声を上げた。

 優しそうな笑顔に糸目の男、年齢はおそらく二十程度だろう。

 王からはマーカムと呼ばれていた。


「聞いたところ、今回の首謀者を捉えることが出来ていない」

「国を揺るがす大惨事です。それにあろうことかその情報を他国にも伝わらせてしまっている」

「大祖父様もそろそろご隠居なされてはいかがですか?そこまでお粗末ですと、尊敬できなくなってしまいますよ?」

「……お前は本当に可愛くないな」


 王はそう一言だけ述べると、少し悩んだ素振りを見せる。

 孫であるマーカムの言うことは至極当然のことだ。

 今回のことはいくら予見が出来なかったこととはいえその後の対応があまりにも酷かった。

 事件が起きたらまず、向かわせるべきは調査班ではなく情報を回らせないように兵を回してからが基本である。

 しかし今事件の際、王はワインを嗜んでいたことにより優先順位を間違え、調査班を先に向かわせたのだ。


「無礼だ、マーカム殿。王は酒を嗜んでいたのだぞ!」

「それはそれ、これはこれであろうアイジス。マーカムが言っていることのほうがまだ正しいぞ」

「だとしてもだ!少なからず疲れが出てしまうことだって人間あるだろう!」

「何度も言うが、それはそれ、これはこれだ。もう少し考えて発言したらいかがかな?」


 続けてマーカムを支持するものたちと王を支持するものたちの罵声が飛び交い始めた。


 その瞬間マーカムが手を叩いた。



 少しばかりの静寂が彼らの身を包む。

 そしてマーカムは静かに口を開いた。


「……少なくとも、一国を束ねる王として。ミスは許されません、それがどんなときであろうとも」

「まぁ、今はありませんが――敵国がその時攻め込んできてても文句を言うおつもりで?」


「……小童、お主(おぬし)王に刃を向けるつもりか?」

「いえいえ、そこまでのことはしませんよ。ただ、少なくとも今回の責任は取るべきだと訴えただけです」


 この場に敵を作るような言い回し、マーカムは憤りで染まった目を受けながらも怯むことなく言葉を続ける。


「私もそう思いますねぇ」

「貴様は黙れ!老害が!」

「ッ!少なくとも、マーカムはまだ若い。いっそのこと一度彼に任せたうえで実質的な権力を王が持つようになさればいいのではないか?」

「何を言っている!そんなことすれば国民からは非難が――」

「テロが起きてからでは遅いだろう?」



「王、どうするおつもりで?」



「……もともと今回の事件の責任内容を議論する目的でもある。それに首謀者を逃したことについては今も我が国一番の兵士たちが追っている。心配は無用だ」

「私は言葉を曲げない。責任は取ろう。ただその前にやることをやってから、だ」


 マーカムは一瞬たじろぐ。

 しかしすぐに薄ら笑いを浮かべると満足そうに椅子に深く座り直した。


「じゃあ、始めましょうか。議論(ディベート)を」


※※※※



 誤算、彼らにはそんなものがある。

 その回った情報の質だ。


 約25カ国(大王国、プト国に認定されている国)に、また小国レベルの里(鬼族、獣族)に、この情報は回ったのだが作り話のような書かれ方だったのだ。


 それにより、リズンのそういうでまかせである、といった考え方がこれらの国の共通認識となったのだ。


 これらのことから、本来であれば王は失脚寸前であったがなんとか命拾いすることとなった。

面白かったら評価・リアクション・感想いただけると励みになります!(*^^*)


よかったら是非!!

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