第5話 赤い花
「……ヒワ、もしかしてさ」
「不器用?」
晴れ晴れとした空の下、そよ風と暖かな日差しの中で僕はサンのレッスンを受けていた。
あの火球の後、僕はどうやら気絶していたらしい。
それに、あんな大きな火球を出したことで色んな人が一時的にうちに来て、サンを怒鳴っていた。
特にブチギレていたのはウルシアだ。
八つ裂きにしてやるとしばらく追いかけていたらしい。
それから数日のサンの様子は見てて可愛そうだった。
首に《私は愚か者です》なんて看板を下げて町中を歩かなければならず、それに加えてウルシアやフィーナ(9:1の比率で)からしっかりと怒られていた。
しおしおとなったサンは情けなく見えた。
ただ僕は知っている。
彼女はまさしく化物だ。
あんな炎、元の世界ですら見たことがない。
ましてや一個人があんなことをポンポンとできるなんて……
そんな人が先生についてくれると言っているのだから僕は快く承諾したのだが今のところ僕の成績は泣かず飛ばずである。
「うーん……そんなわけないんだけどなぁ……」
頭をポリポリとかきながら僕と目に映っている火を見比べる。
そして深くため息をつくと、じっとりとした視線を浴びせた。
サンの休憩時間を使っているのだから出来ることなら成果を出したいが――
「え?どうなってる?」
「そんなこといわれてもこまるよ」
「だってさぁ……普通だったらね?その量の魔力を入れれば炎ができるんだよね」
「でもそんな灯火なんだよなぁ……ええー!なんでぇ!?」
そう、僕もついに炎を出すことに成功したのだが、あまりにも小さいのだ。
例えるなら線香花火の最後の一雫のような。
風が吹いたら消えてしまいそうなレベル。というか何回も消えてる。
サンの指南はとてもわかりやすいばっかりに申し訳ない。
靄(以後魔力)の流れや変換、魔力の歴史、魔力を使った技、魔法についてなんかをちょくちょくギャグを織り交ぜながら教えてくれるのだ。
っで、あらかた教えてもらったから今、火を出した。ただ小さい。
僕もどうしてこうなるのか教えてほしいよ。
「ううう…………」
サン?項垂れないで?僕も悲しいから。
……頭に葉っぱ付いてるし。
そう思い、サンに近づこうとした瞬間
「そうだ!!!」
サンはまるで黒◯げ危機一髪のように飛び跳ねた。
思わず僕は固まった。
大の大人がまるでおもちゃのように宙を舞い、サンはそのまま一回転して降り立つとびしっと僕を指差す。
「そういえばさ!?ヒワ!植物を動かせるんだっけ!?」
「え!?あ、うん……まえはうごかせた、けど……」
「よし!だったら何でも良いから持ってきて!!あ!あとできれば沢山の種類を!!」
そう言うと満足そうに笑みを浮かべる。
腕を組み、足を開き、仁王立ち。
……いやいやいやいや。
今のは何だよ。
何がどうなったら僕を飛び越えるバク宙をするんだよ。
それに、なんで植物を?
そんな言葉を僕は静かに飲み込んだ。
今はとにかく彼女に従おう、何か策があるようだし。
なんだろう、サンを尊敬できなくなってる気がしてならない。
「とりあえず、もってきたよ」
庭に生えている中で一番見かける黄色い花、点々と柵の周りに生えている白い花、そしてサンの要望で黒ゴマのような種をサンの前にずらりと並べる。
どれも綺麗な花だ。種は本当に何なんだろう。
「おし!!ほいじゃまぁボチボチやっていきますか!」
そう言いながらサンは僕が持ってきた花と種を何個かを手に取ると静かに目を瞑った。
「――――成長」
その瞬間、ポンっと軽い音とともにサンの手元に赤い花が咲いた。
ハイビスカスのような、アサガオのようなちょうど中間のような綺麗な花だ。
ただ僕の目に入ったのはそれだけじゃない。
「枯れてる……?」
サンの手元、さっき花を持っていたほうが見るも無残な焦げ茶色になっているのだ。
「ふふふ……ヒワ、私が使った魔法わかるかなー?」
ひらひらと両極端の花を振りながら僕の眼の前に置く。
そして「ちょっと難しいかなー?」なんてことを言いながら得意げに仁王立ち。
シンボルポーズみたいになり始めているサンは置いておくとして、いったいこれは何だ?
なぜ花が現れた?
おそらく種をもっていたことが重要なんだろう。
だとして、じゃあなんで片方の花は枯れた?
グロウス……花、ああ。成長。
ってことはつまり――
「しょくぶつをきょうせいてきにせいちょうさせる」
「じゃ、ないかな?」
サンの体がピクンと跳ねる。
そして錆びたロボットのようにこちらへと視線を向けた。
「よ、ヨクワカッタネ」
なんでちょっとロボットぽいんだよ。
サンは僕の顔をまじまじと見ると少し残念そうな顔をする。
「そうかぁ、ヒワは頭も良いのかぁ……ハハ、子供の頃の私が情けなくなってくるよ……」
この人子供と張り合ってるよ。
まぁ中身が高校生だからズルっちゃズルだけどさ。
「ぼ、ぼくにとってはサンはかっこいいおとなのひとりだよ」
そんなやましさからか気がつくとサンを慰めていた。
サンは鼻息を荒くすると、そのまま僕に抱きついた。
「ああ、可愛いなぁ……なんでそんな嬉しいこといってくれるんだよぉぉ!!」
「さっきはごめんねぇ!不器用、なんて言っちゃってさぁ!!」
全力で顔をスリスリしてくるサン、胸のあたりが少しくすぐったい。
でも嫌な気分はしない。
何なら花の香りがしてむしろ良いくらいだ。
「サンねえちゃん」
「ん?なぁに?」
「なんでぼくにこれをみせたの?」
「う!?か、可愛い……こりゃ天下取れるな」
そんなことを言いながらもサンは名残惜しそうに離れると一つ間を開けて。
「世の中には魔法を使える人の中にも種類があるんだ」
「一つ目、いわゆるオールラウンダーでメジャーな魔法使い」
「通称、一般魔法使い」
「二つ目が特定に特化した魔法使い」
「通称、特殊魔法使い」
「そして最後」
「いわゆる攻撃魔法全般を扱えない代わりにそれ以外の魔法に特化した魔法使い」
「通称、攻不の魔法使い」
「でね?もしかしたらヒワはその攻不の魔法使いなんじゃ?って思ってね」
「もしそうなんだったら僕の成長なんて霞むほどの力が出せるはずなんだ」
「ということで、いっちょ成長いってみよう!!!!」
「ちょっとまって!?そんなかんたんにできるの!?」
サンはモゴモゴと言いにくそうにしながら何かを呟いた。
でもその言葉は僕に届かない。
「え?」
強めに聞き返してみるとサンはまたモゴモゴと口をどもらせ、もじもじし始めた。
嫌な予感がする。
今度はもっと強めに聞いてやろう。
「ええ?」
「…………ワ」
「……私魔法使イジャナイカラワカラナインダ」
はい?
「どちらかと言えば、一般寄りの剣士なんだ……私」
「……はい?」
……これはまた、反応が良く分からないことを言ってくれたな。
魔法使いじゃないのに凄い!が正解か?それとも嘘をついたことを非難すべきか?
一瞬サンの顔を見る。
黙ってさえいれば寡黙な美女って感じなのにな。
……僕は彼女のことを嫌いではないし、彼女自身、率先して嘘をつくようなタイプではないと思っていたがな。
というかそもそもサンは魔法使いって名乗ってたっけ?別に何も言ってなかったよな?だったら僕の勘違いだし気に病むことも――――
「……ごめんなさい、流石に嘘は良くなかったよね」
悲しそうな顔。
いつかの誰かと重なった気がする。
気がつくと僕の体はまた勝手に動いていた。
「サンねえちゃん、たねちょうだい?」
「え?い、良いけど急に何で……?」
「いいから!!」
オドオドしながらもサンは置いていた種を一粒僕に渡す。
僕と比べて圧倒的に大きいその手はまるで樫の木のように分厚く鍛え上げられているのがわかる。
彼女はこの手で生きてきた。
辛い時も悲しい時も、彼女は生きてきたんだ。
受け取った種を静かに拳に納めると息を吐く。
身体に流れる魔力、それを手から放出し種に纏わせる、なに簡単なことだ。
火を作ることよりかは数倍ね。
「……成長」
ポンっといった軽い音。
それに伴いググッと僕の手の中で大きくなろうとする力を感じ、ゆっくりと手を開けた。
綺麗な赤い花が元気に僕の手から飛び出す。
まるでサンみたいだ。
バク宙の話ではなく、太陽のように紅く元気いっぱいでお茶目なところが。
「ねぇ、サンねえちゃん。さっきもいったよね」
「サンねえちゃんはかっこいいおとなだよ」
日の光がちょうど真上にあるそのとき、僕は彼女に花を渡した。
別に意味はなくとも、それがどういうことなのか。サンはわかっているのだろうか。
おずおずとサンはその花を受け取ると優しく微笑み返してくれた。
「…………ヒワは凄いね、私を慰めてくれてるんでしょ?」
「おもったことをいっただけだよ?」
「あっはは!ありがと!」
「おっと、そろそろ仕事に戻らなきゃ、じゃ、また晩御飯にね!」
「あ、まって!!」
サンは行きかけていた足を止めると僕を見る。
「またあしたも、いっぱいおしえて!!」
「うん!!」
精一杯の、まるで太陽を彷彿とさせるような、いい笑顔だった。
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