第3話 この地に立つこと
それからまた数カ月経った。
「うぉ!?うぉぉ!?立つ!?立つのか!?」
「あなた、ちょっと落ち着いて。ふふっ」
「この光景を瞬時に切り取れたら良いのに!!ちょっと魔道具探してきてもいいっすか!?」
「馬鹿!そんな時間なぁぁぁぁぁぁ」
僕、無事立つことに成功。
ちょっと、僕だって立てて嬉しいのにそんな。
失神されるほど喜ばれるとちょっと困る。
よろよろと生まれたての子鹿のように足を震わせながら僕は尻餅をつく。
「立ったぁぁぁ!!天使がたったぁぁぁぁ!!立天使だぁぁぁぁ!!」
ウルシアは何を言ってるの。
フィーナもサンもニコニコしてないで突っ込んであげて。
生まれてから大体一年が経った。
「ぱぱ《パパ》」
「な、何!?立った上に更に凄いとこ見せてくれるの!?」
「ぱっぱ《パッパ》」
「なにィ!?」
本当に簡単な二語までなら発音ができるようになってきた。
これも日頃の努力の賜物だ。
初めてパパって呼んだ時のあの卒倒具合はちょっと心配になるほどだったからな。
これでもだいぶウルシアの親バカ具合も収まったほうなんだが、未だオーバーリアクションだってことはよっぽどなんだろう。
サンに引きずられながらあんなに叫んでたもんな。
「だーぶ《畑》」
「あら?畑の方を指さしてるわよ?ふふっ」
「うわぁぁぁ、畑いってきまぁあす!」
「はい、いってらっしゃい。ふふっ」
ただこの人、毎回ルーティンはちゃんと守るんだよな。
ある程度僕に構っても最終的にすることは変わっておらずちゃんと実行しているのだ。
決まって昼ご飯を食べて少ししたら出ていく。
時計がないから時間はわからないがおそらく同じ時間じゃないか?
「ふふっ、じゃあサン、お皿洗うの手伝ってくれる?」
「了解です!!」
テーブルの上の木の皿がサン達に回収されていく。
そしてそれをキッチンまで持っていくと。
近場のイスを掴み、二人の手元を確認する。
そして二人が桶を用意した時、目にギュッと力を入れた。
「「清純なる水は魂の糧、せせらぎに身を委ね顕現せよ」」
「「清純水」」
そんな言葉を唱えると、手が光った。
途端に二人の手からは拳大ほどの水が溢れ出る。
そしてそれを桶に貯めると、そのまま皿を洗い始めた。
ああ。
やっぱりだ。
僕にはまだ出来ないが、この世界には魔法がある。
あの水が出る一瞬、二人の手にはあの靄のようなものをまとわせていた。
やっと、確認することが出来た。
なんで無から水を作れているのかずっと疑問だったんだ。
それにフィーナがいつもどうやって料理しているのか気になっていた。
これで薪に手を入れたら勝手に発火する理由も一応は説明がつく。
ドスンと座る。
短時間立つだけでもかなりの重労働だ、足がプルプルしてる。
でも中々の収穫だ。
魔法を学べれば僕は、もっといろんなことが出来る。
そう思い、ふと拳を振り上げたときだった。
僕の手にあの靄の温かみが触れた。
ガシャン
花瓶が、落ちたのだ。
それも触れていないのに。
なんでだ?
僕が触れたのはあの靄だ。机じゃない。
「ヒィィワァァ……!!」
「ああー!!ううーー!!《いや!!違う!!》」
みるみるうちにフィーナの顔が怒に染まる。
途端に体が震え始めた。
まずい。そう思い、はいはいで逃げようとした瞬間、僕の首根っこが掴まれた。
しっかりと僕は怒られた。
※※※※
靄を集めて、極限まで小さくすると空気中に水が発現。
火は靄をグルグル回転させると発現。
夕食時のフィーナを見ているとそんなところはわかった。
とりあえず、魔法について僕がわかるのは今のところこれだけ。
あとわかったものは種族について。
大きく分けるとエルフ族、人族、獣族、混血がいるらしい。
これはフィーナが僕が寝る前に聞かせてくれた御伽噺で知った。
昔は戦争が激しかったが各種族の代表者がそれぞれを統率し、世界を平和にしたみたいな話だ。脚色はあるだろうが、それにしても中々血気盛んな話だった。
そしてサンについて。
サンが男だった。
華奢な体とその外見からてっきり女性だと思っていたが、一度一緒に風呂に入ったときにブツがついていた。
その時の驚きと言ったら。しかも立派。
もともとの声音が高いからか全く気づけなかった。
絶対村の人も何人か勘違いしていると思う。
「皆、ご飯が出来たわよーふふっ」
「ふぃぃぃ、疲れたぁーってサンは?」
「元仲間たちと飲んでくるって言ってたわ、ふふっ」
「だーぶだー《言ってたー》」
コトコトと机の上に料理がのせられていく。
しばらくはこの靄を扱えるように練習してみよう。
まだ外のことは詳しく知らなくて良い、いずれわかる。
僕はきっと魔法をものにしてみせる。
――《サン視点》――
立天使ことヒワが眠りについて数時間。
村の護衛を休んだサンは半ばかかり気味に近場の街サテイハまで走っていた。
木々の間を縫い、ふとある場所で足を止めた。
(洋館?)
そこには真紅の屋根にボロボロの廃墟とも見紛うほどの建物が立っていたのだ。
少しすると、中からは人の声が聞こえた。
(人が住んでいるのか、じゃあ。まあ大丈夫だろう)
サンはまた走り出す。今度はより早く、火の粉を撒き散らしながら。
ただ少し胸騒ぎがしたような気がした。
サンの目的は昔の仲間たちとともに酒を飲むためだが、もはやその目的よりも先にその仲間たちに伝えたいことがあった。
もちろん、現在お世話になっている家の赤子、ヒワについてである。
生まれた当初、サンはその赤子から立ち上る異様な何かを見て腰が抜けた。
あれは魔力だった。
最上位冒険者として名を馳せ、数あるダンジョンを踏破した自分が見たこともない量の魔力。
それをただの赤子が垂れ流していた。
その時点でサンは彼には天賦の才があると確信していた。
ただサンはまたもや度肝を抜かれる。
ヒワが生まれてちょうど一年の今日。
サンはフィーナの皿洗いの手伝いで魔法を駆使しながら皿を磨いていた。
すると、その時またあの魔力を感じたのだ。
思わず息を止めてしまいたくなるようなあの異様な魔力を。
その瞬間、サンの思考はまずヒワの安全確認へと移行した。
しかしそれもすぐさま空を切る。
振り返ったその時、嬉しそうに楽しそうにヒワは魔力を使って花瓶を落としたのだ。
何かものを動かす、それすなわち魔力放出の基礎。
ただ魔力放出は習得だけでも何年もかかる、よって教育機関ではまず先に魔力操作を教える。
この世界における魔力操作、文字通り魔力を動かすことだがたった少し、小指ほどの魔力を動かすだけでも大の大人が数カ月をかけることもある。
それを彼は生まれて一年でその過程をすっ飛ばし、やってのけたのだ。
到底普通の人間ができることではない。
そう、化物だ。
あまりにも人間味がない。
まだこの世界に生まれ落ちてから一年ほどの赤子がそこらの魔法学校訓練生の数倍先に行っているだなんて到底信じられない。
ただサンはその信じられない光景を見たのだ。
そんなの興奮するしかない。
もしかしたらこの世界のトップに立てるかもしれないほどの人物を近くで見ることができるのだ。
なんなら自分がそれを援助することもできる。
一介の冒険者が弟子を取ること、それは最上級の栄誉だ。
要はそれほど強い、ということの誇示になる。
ただサンの思考はそこにはない。サンは見たいのだ、彼の生き様を。
一体何を経験して、何を得て、何を失い、それでも生きていくのか。
サンは今、冒険者として名を馳せていた頃の高揚感を感じていた。
彼を鍛えたい、鍛えたうえでどういう思考を巡らせ強くなっていくのかを見てみたい。
「楽しみだッ!!」
静電気と火の粉を散らしながら、距離にして数十キロもある森をひた走る。
崖を越え、山を越え、ときに害獣を瞬殺しながら目的の街、サテイハにつくのであった。
面白かったら評価・リアクション・感想いただけると励みになります!(*^^*)
よかったら是非!!




