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何も持たない僕が、異世界で爪痕を残すまで。ーその人はただ誰かの心に残りたいー  作者: 阿野ツリア
第二章 執着の至る所

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第19話 家族会議とルーカ


 辺りのざわめき、窓を叩く風の音。外はほんの少し薄暗くて。

 いつもなら近くで飛び回っている鳥たちですらその異様な雰囲気を察して逃げ出していくのが見える。


「……はぁ」


 そんな中、ウルシアのため息はひどく重たく感じさせた。

 それに、びっくりしたように耳を跳ねさせるルーカ。

 まさしく緊張を体現するように耳をピンと伸ばし、ベージュの髪は乱れる。


 僕がそっと手を触れるとこれまたビクンと体を跳ねさせるルーカ。

 それをちょっと面白いと思ってしまう自分がいる。


(ルーカ、大丈夫)


 ルーカと目が合う。ほんの少し照れくさそうにする。

 けれど直ぐ様顔をもとに戻すと頷き、そのまま眼の前(ウルシア)を見た。


「はぁ」


 ウルシアは腕を組みながら目をつぶっていた。

 色々思うことが有るのだろう、ゆうに数十回は超えるそのため息。

 もはやそこに残っているのは哀愁だけだ。


「……二人とももうそういう仲なのか。気が早いなぁ、もう」


 恨めしそうに口を開く。

 そして下から舐め回すようなアングルでこちらを見ると、そのままもう一度ため息を吐く。


「い!いえ、そういうわけでは――」


 すかさず、否定を入れるルーカ。

 しかし、フィーナがそこに割り込む。


「少なくともあれでそれは無理だと思うな」

「いや、違うんだって!僕が相談ごとをしててそれを慰めてくれたっていうか……」


「それであそこまでする?」

「すいません、私にはやり方がわからなくて……」

「私達も獣人の伝統や文化を知らないから分からないから否定はしないけど……」


「流石に……ねぇー……?」


 ……確かにルーカはやりすぎだと思う、けれど少なくとも僕はそれが嬉しかった。



「母さんたちが言いたいことはよく分かるよ」

「でも僕はあれが嬉しかった!」


 途端に顔を崩すウルシア達、顔を真赤にして俯くルーカ。

 正直、自分でももう何をいっているのかわからない。

 けれど自分の本音を伝えるべきだと思った。


 伝えないで傷つけるのはもう嫌だから。


「僕にとっては重大なことだったんだよ」

「慰めてくれたことが」


「もちろん、父さんたちにも感謝してる」

「昨日までの僕は少し様子もおかしかったと思う」

「散々、頑張ってくれてた母さんの言葉の真意に気づけなかった」


「でも、それを気づかせたうえで一歩踏み切らせてくれたのはルーカなんだ」

「だから僕は今、ここにいる」

「そして彼女もここにいるんだ」


 しばらく、ウルシア達は言葉を発さなかった。

 ぽかんと口を開けたまま、何度かフィーナと顔を見合わせる。

 そしてまた僕を見ると、今度は俯いてしまった。


 ちょっと待って。

 僕は今何を口走った?


 成り行き任せ、と言えば聞こえは良い。 

 要はがむしゃらに本音をぶち撒けただけだ。


 だからこそ吐いた言葉の意味を考える順序が逆になってしまった。

 そして気づくのだ。


 ああ、なるほどと。


 僕が誑かされてる、と考えるほうが自然か。

 そりゃそうだな、だったら親としては色々思うところはあるだろう。


 見知らぬ少女を連れて帰ってきた息子が早朝何やら怪しいことをしていた。

 その上、その少女を必死に庇っている、なんてあまりにも()()見えるな……


 その時はこの考えを終えた瞬間に来た。


「……お前は、責任が取れるのか?」


 一瞬思考が止まった。

 こんなにもあっさりと折れそうなウルシアを始めて見たからだろう。


 どう考えても怪しいだろっていう少女とそれを庇う息子をそんな簡単に承知できるものか?


 ただ、だとしてもこの瞬間で認めさせなければ意味がない。

 すぐにそう思考を切り替えた僕は言葉をためらわずに吐き出す。


「父さん」

「取れるじゃない」


「取るんだよ」


 その言葉にまた口を閉じたウルシア。

 顔を真赤にする女性陣。

 ルーカに至っては今にも倒れそうな勢いだ。


「……取る、か」



 そう言ったウルシアは虚ろに机上を眺めていた。

 まるで何かを思い出しているような素振り。

 それに伴い、フィーナも諦めたようにため息を吐く。


 ただウルシアとは違い、そこにはまだ薄っすらと炎が灯っている。


「ヒワ、私はまだ早いと思うの」

「少なくともお互いが認めてないのならそれはまだ――」


「わ、私は大丈夫です!!」


 そう言うとルーカは立ち上がり、ワタワタしながらも必死に弁明を続けた。


「私もヒワ、さんに救われているんです!」

「昨日、フラフラでどうしようもなかった私を」

「救ってほしいと渇望していた私を助けてくれたんです」

「それに、私は――――」

「ヒワさんが良いなら、ヒワさんが良い、です……」


 しおしおと力使い切ったルーカが座り込むとそのまま深く俯いた。


 一方、僕。


 バクバクと鳴る心臓、それにどうしようもないほどの高揚感が漂っていた。

 一瞬にして汗を掻く。


 ただ、この恥ずかしさは今は抑えろ。

 今こそ話を続けるんだ。

 認めさせるんだ。


「ヒワ」


 口を開こうとした瞬間、ウルシアが先に口を開けた。

 それもやけにゆっくりと名前を呼んだのだ。


 その一言に一瞬寒気がした。


「じゃあ、お前にはあの仕事を辞めてもらう」


 その寒気はまさしく的中していた。


 たった数瞬、時がまさしく止まったのだ。

 僕が?あの仕事を?辞める?

 そんな思考に今までの考えが全てかき消されていく。


 責任を取る、と言ったのはあの収入もあってこそのことだ。

 でなければそもそも僕の年では働くことが出来ず、ルーカのためのお金を稼ぐことが出来ない。

 それに、家自体の収入も減少する。

 ウルシア達がどれほど稼いでいるのかは知らないが、貴族でもない限り人が増えたら中々大変のはず。


「な」


 思わず出そうになった声を一度押し込むとゆっくりと告げる。

 荒げることなんてもうしたくないから。


「……何で?」


 僕があの仕事を辞めてしまえば生活に負担がかかるのは間違いない。

 だと言うのに、辞めろ、と言う心理はなんだ。


 いくら考えてもその答えは出てこない。


 一方、ウルシアはただただこちらを見つめていた。

 指を組み、その向こう側の表情をまるで悟らせないように。

 眉は釣り上がり、今にも何か恐ろしいことを言いそうだった。


「三つある、一つずつ言わせてもらう、良く聞け」


「一つ、お前の状態を村長が好ましく思っていない」

「二つ、お前の身体を心配している」

「それは――!」

「そして三つ、お前が親を舐めすぎていること」


 その言葉に一瞬言葉が詰まってしまった。

 口ではいくらでも否定が出来る、というのに身体がそれを拒んでしまう。

 でも心当たりがない。

 それに加え、それでも言葉が出ない自分がいる矛盾に僕の頭は煙を上げた。


 そこからの話はひどく単純に聞こえた。


「お前は、なんだ?」

「子供だ」

「子供が責任を取る?調子に乗んな」

「お前は今、何歳だ?」


()()()?」


「じゅ、十歳……」


「だよなぁ?」

「まだ大人とすら言われないんだよ」

「それが?一人の人間を幸せにする?」


「あのなぁ、バカも休み休み言えよ」


「お前はまだ子供だ、だから親を頼るんだよ」

「それを何だ?『自分が責任を取る』?違う、違うだろ」


「力を貸してくれ、そう言うのがお前等子供の()()なんだよ」


 ウルシアは大きくため息を吐くと、やれやれと首を振る。


「で、でも!!」


 ウルシアは声を被せる。


「そーれーにぃ!」

「人が一人増えた程度で崩れるほどうちは貧乏じゃないんだよ!!」

「親を舐めんな!」


 さっきよりも遥かに大きな一言だった。


 庭の木に止まっていた小鳥たちが音を立てて飛び去っていく。


 不思議な感覚だった。

 何者でもないはずの自分がまるで叩き起こされたかのような。

 目覚めの感覚。


 パッと開けた視界と付随する靄。

 ゆらゆらと揺らめく空気。

 心配そうに顔を覗き込むフィーナ。


 何もかもを覚悟したようなウルシア。


 ただ、分からない。


 縄と言葉。

 ほどけた衝撃。

 そして疑問と堕ちた希望。


 母も父もそうやって虚ろな目であの時も僕を見ていた。

 だと言うのに。


 何でウルシアは今、あんなにも。

 ()を?

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よかったら是非!!

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