46、ダンスダンスダンス
ロッカールームで、白地にピンクと赤の縁取りのダンス用シューズを久しぶりに履く。
まあ、僕は見学なんだけど。
ダンス見ると自然にステップ踏んじゃうよね。
スタジオの中は2面を鏡に囲まれて、ピカピカに磨かれた鏡や床と対照的に、バーなんかは色が剥げて時間の移ろいが見える。
最初見学してた僕に、シューズ履いておいでと言ったのは先生だった。
自由にしていいよと、僕には優しいけど、パパりんにはきびしい。
先生のレッスンは、最初バレエの基本動作から入る。
懐かしくて、一緒に踊った。
パパりんも、ずっとやってるだけあって綺麗だ。
負けたくないから、指先まで神経を研ぎ澄まして、美しく踊ることに専念する。
僕は小学校低学年の時、ママが近くにバレエ教室があるわよ!
って言うんで、引っ越すまでの2年通った。
女の子たちが綺麗で可愛くて、楽しくてたまらなかった。
でも、知らない男の人が家を訪ねてきて、急にまた引っ越すことになって辞めたんだ。
電話で辞めますって泣きながら言ったら、先生が基本だけは続けなさいって言うんで、基本の動作は今でも続けてる。だって、綺麗なんだもん。
参考書はボロボロになってるけど、バレエの教室はなかなかどこにでも無い。
パパりんに言うのもなんか嫌なので、廊下の手すりがバー代わりだ。
プリエ、タンジュ、フォンデュ、お料理みたいな名前の基礎。
踊ると、先生が少し修正しながら、めっちゃ褒めてくれるので気持ちいい。
身体が柔らかくて筋肉の質がいい、ちゃんと教えたいわ〜って、変な褒め方で笑った。
ここ、教室やってるのかな?
「マリンちゃん、ダンス習ってたの? 」
タオル握って見てると、マネージャーのハルさんが話しかけてくる。
「うん、5才からキッズダンスとか、バレエとか。
2年前からは学校近くのアイリスダンススクールに通ってたけど、受験だから勉強しようかなって高2になって辞めちゃった。」
パンパンパン!
手を叩く音にドキッとする。
「音楽止めて、最初から。
返しが遅い、キレがない! ほら、指先にまで気が行ってない!
趣味の今までと違うのよ、デビューするんでしょ? 」
「 あ〜〜、 Sorry、 Sorry、 歌入れていい? 」
「へたるからまだ駄目。一通り仕上げてからね。
やっぱ年ね、あんた昔は一発で覚えてたじゃない。」
「 年! 」 パパりんが一番言われたくない奴! キャハハハ!
「えーーーーーー!! 覚えてるよ〜、まーちゃんの前で年なんて言わないでよサチ!
ここ、ファーストとセカンドの振り変えてるでしょ、セカンドが何か流れが悪いんだよ。」
「あたしの振りに文句言うとか、いい根性じゃない。
えーーと、こう、から、 こう。身体をを返し…… あー、そうねえ…… 」
怒られてやんの。
彼女はサチって女の先生で、もう60近いおばさんだけど、昔の付き合いで仕方ないから付き合ってんのって言いながら、滅茶苦茶きびしい。
最近の先生は優しい人が多いんだけど、パパりんはこう言うきびしいけどキレのある先生がいいんだって。
面白いね。
「パパ、カッコいいでしょ? 」
マネージャーのハルさんが、妙に誇らしそうに言うんだけど。
パパりんが素で歌って踊るの見てると、何かモヤモヤしてくる。
なんだよ、こんな綺麗に歌って、ビシバシ踊れるじゃん。
なんだよ、家族でカラオケ行っても、やる気無さそうに人の歌を歌ってたじゃん。
「ムカつく! 」
「えー!? なんでー?? 」
「パパりん、隠しごと多過ぎ! 」
「あ〜〜〜〜 、そっか〜〜 、ごめんねー 」
ハルさんが謝ることじゃないけど、まあ、でもほんと頭いいよな。
見てると、特訓とか必要ないでしょって感じで、振りが一発で頭に入ってる。
通しで昔の曲歌ってみせるけど、全部完璧だ。
家では何してんのか、お互いの部屋には干渉しないが鉄則なんだけど、考えてみるとパパりんの部屋は飛び跳ねてもビクともしない。
小学校の時は雨が降ったら、パパりんの部屋で飛び跳ねて遊んでたもんなー
部屋から音楽聞こえた事ないから油断してた。隠れてやってたんだ、ダンス。
しかし、こんな何曲も歌詞とフリがよく頭に入るよ。
新曲で発表するのは一曲のはずなのに、何でこんな何曲もやってるんだろ。
「マリン君、パパのデビュー曲、踊って歌えるって言ってたよね。」
「できるよ、ママの前でやってたから。他の曲もオッケー 」
ハルさんがヒマそうに見てた僕に言ったんだけど、思いがけずパパりんが食いついてくる。
「ほ、本当かい?! まーちゃん、パパりんと踊ろうよ!
志摩さん、音楽流せる?! 」
「オッケー! 」
サチさんの助手の志摩さんが、音楽機器の液晶画面を操作する。
そして手を上げた。
「行くよー! Beエンジェ! 」
「ヤー! 」
パパりんの前に走り出ると、2人で向かい合って立つ。
パパりんが、ちょっとビックリしてささやいた。
「向かい合ってやるの? 」
「だって、その方が映えるじゃん! 」
ボンボン、ボボンボボボボン
ベースの音が、僕の性感帯刺激する。
上がる! 上がる! 気分が上がる!
すごい、すごい、前奏始まると、パパりんが歌手の顔になる。
僕は両手で下腹部から胸へ、身体を舐め上げるようになぞり上げる。
ベースの重低音が鳴り響き、2人でリズムを取って波に乗り、前髪を掻き上げた。
手を広げ、パパりんと逆に動いて鏡合わせに手を回す。
バッと2人でハルさんを指さした。
「「 君を、救いに来たんだ!! 」」
ハルさんが、真っ赤な顔して突風を浴びる。
その場にガクリと座り込み、僕らは笑ってワンターンすると歌を歌い出した。
「「 儚く生まれ落ちた君のために、 この世界は、
白い羽を羽ばたかせ、 僕を生み出した
ああ、空に輝くハーティムーン、
君の背中に影を落とす
さあ僕の手を取って、
鏡の向こうに逃げていこう 」」
楽しい!
楽しい!!
僕の高音と、パパりんの低音が混じり合って一つの音になる。
激しいダンスを鏡合わせで、遊ぶように踊る。
歌詞の前に、ギターの演奏に盛り上がって思わず声が出た。
「 ヘイッ! 」
「「 ああ、青い青い鏡の世界、
水の、中に、おぼれるように、
すがり、付く、君の手が、あーああ、 こぼれ、落ちる、
ラブリーラブリーデンジャラス、
氷のようなヤイバを手に、君のために、血を流す
Only love will save you
ラブユーラブユーデンジャラス、
闇の世界で君だけが輝いてるー 」」
「ハイッ! 」
ババッ ババッ! ダンダン!
足を蹴り上げ一回転して、2人で向かい合って、ハルさんに投げキッス!
「きゃっ! 」
ハルさんが思わず飛び上がった。
「あはははは! たのしーー!! 」
僕は何故か、最近感じたことのなかった、新鮮な感情に満ちあふれた。
生きてるって!




