43、一難去って、また……
店内が元の静けさを取り戻し、3人がカウンターへ行くと椅子にかけてホッとする。
こういうライブハウスって初めて来た。
テーブル席がいくつかある普通の飲み屋っぽいけど、普通と違うのは小さな舞台があって、ここで歌手が歌とか歌うのかな?
天井には沢山照明が下がり、ちょっとしたスタジオみたいだ。
空気感が違う。1度ライブの時来てみたい。
社長が自分と俺にもジュースを頼んでくれた。
ジュース一口飲んでホッとする。
横で社長とココナたちがカウンターで談笑を始めた。
その横でジュースを飲みながら、はたと気がつく。
あれ? ココナって、あのグラスレビューのココナ?
えっ、有名人じゃん。えっ! えっ! でも、ちゃんとお礼言わなきゃ。
「あ、あの、高瀬雅史と言います、礼を言います。だうもありがとうございました。」
あうっ! 噛んでしまった…… 恥ずかしいっ!
雅史が赤面して深々と頭を下げると、ココナが手を振って笑った。
「いいよ、別に。
あんた、カッコいいじゃん。
ちゃんと相手のこと守っててさ、俺なら手が出ちゃうよ。
スマートにビシッと言っちゃって、マジ、尊敬する。」
はうううう!! なんていい奴! 惚れてまう!
グラスレビューの曲も買おう。
「ほんと、ココナ助かったわ、連絡くれてありがとう。」
「ハハッ、ムカつく。知らねえおっさんのためにバッカみたいだ俺。」
「彼、今の会社員辞めたら、時々うちに来るから。
会ったら仲良くしてあげてね? 」
「おっさんに仲良くもないでしょ。CM減らされた恨みでも言ってやりますよ。
年取って落ちぶれた元アイドルなんて会いたくも無いんだけどなあ。」
嫌みでも言いたくなる。
「ひど〜い、そんなこと言ってるとファンが減るわよ。高瀬さん、送ります。
じゃあね、ココナ。遅くならないように帰るのよ!
飲酒運転したらクビだからね! 」
「怖〜、わかってるよ。じゃあまた。」
「失礼します。」
ジュース飲み干して、ココナにもう一度お辞儀した。
でも、ほんと、来て良かった。
事務所で社長と話していたら、メール見た社長が突然ここに連れてきたんだけど、ほんとビックリした。
ミカエル様はマスコミが嫌になったらしいけど、ほんとこう言うの、戦いだよなあ。
マリンに普通を願うのもわかる。
あいつがどう思うかわからないけど。
いや、こんなにお父さんは苦労してるんだって、知ってんのかなあー
マリンには、電話で顛末報告しとくか。
ちゃんと現状は知っといた方がいいな、あいつは見かけによらず、我が道を行く奴だから。
その夜、都心の一等地にある瞬館社の一室は、夜遅くまで電気が点いていた。
シュンカン!の編集長は、事務所の社長から一方的にクレームを受けたことで、怒り心頭だった。
三ヶ日と面会は出来なかったが、弁護士を通して話を聞いて、内容をまとめるように指示を飛ばした。
一緒に行った高木はあまりいい顔をしないが、社に戻ると話し合いして記事にすることを決めた。
「女学生のウソってわかってるんでしょう? マズいですよ。」
「ウソってのは、言わされたって事にすればいい。そうだな、息子を買って遊んだ奴の話を掲載しよう。
信憑性が増すだろう? 」
「また訴えられますよ? 」
「バーカ、グレーな話ってのはな、マジだって言った方がマジになるんだよ。
クソッタレ、女のくせにデカい顔しやがって。
女の子本人の音声があるんだ。アレを切り取って動画で上げよう。
あとは世の中が味方になるさ。」
事務所はBeエンジェの再デビューを極秘のうちに進めている。
9月に入ったらデビュー前からCM流すとかで、その撮影に行ったらしい。
すでにCGは出来上がっているので、あとはブルーバックのパパりんの絵を入れるだけとか、なんだろ。
一体いつから再デビュー決まってたんだろ。
パパりんもお盆明けには帰ってきたんだけど〜
滅茶苦茶心配してたらしくて、玄関で僕の顔見たら崩れ落ちて号泣した。
「まーーーちゃんーーー、うわあああん、無事で良かったああ〜〜 」
「あったりまえじゃん! 僕18だよ? 」
「えっく、ひっく、だってえ〜、課長の奴が〜〜 」
「雅史は毎晩ご飯に連れてってくれたんだよ? ちゃんとお礼言ってよね! 」
「うん。ひっく、ひっく、ひいっっく。」
はああああ、ドア開けっぱなしでこの恥ずかしい場面。
隣の隣のおばさんが、何か門柱の影からのぞき見して、涙流して手を合わせてた。
やめてよ、恥ずかしいから〜
慌ててドア閉める。
「お弁当買ってきたの? 」
「買って来たよ、まーちゃん空弁食べたことある?
4つ買ってきたから好きなの食べていいよ。残りは明日のお昼に食べよ。」
「うん! 空弁って、空のお弁当? 飛行機で売ってるの?
どれどれ? わー、松阪牛のお弁当があるう! 僕これに決めた! 」
袋もって、バタバタ先にダイニングに行く。
「は〜〜、先にお風呂入ろー
一人で寂しくなかった? 雅史は泊まりに来たの? 」
「来てないよ、晩ご飯食べたら玄関前でさよならだもん。清〜いこうさ〜い、面白くなーい! 」
「あー良かった、寂しかったね、ごめんね。」
「ぜーんぜん、夜中にアイス食べても怒られないから、ハッピー、ハッピー! 」
ドタンッ!
あれ? 振り向いて廊下をのぞくと、パパりんがバッタリ床に倒れて号泣してた。
「どしたの? 」
「ううう、ウソでもいいからぁーー! 寂しかったって、言ってよぉっ! ぐすっ! 」
「はー、うっざ、」
相変わらず、パパりんはパパりんだった。




