42、ケンカ売ってんなら買うわよ!
ココナが女の子に、優しく語りかけた。
純粋な、ファンの目をして、利用されているなんて意識がない。
大人の汚さに、傷ついて欲しくなかった。
「きみ、いくつ? 」
「16…… 高2。もうすぐ誕生日なの。」
「まだ16なんだ。そっかー、お誕生日おめでとう!
で? 何秘密にしてるの? 教えてよ。」
女の子は、ドギマギしてうつむくと、恥ずかしそうに上目遣いでココナを見て唇を舐める。
どうしようか迷いながら、小さな声でささやいた。
「あのね、ミカエルって奴の、息子の事なの。」
「へえ、」
記者が、よく聞こえないのか下からレコーダーを差し出す。
「Beエンジェ、知ってるんだ。」
「だって、みんな知ってるよぉ。有名人じゃん。
ね、ね、本当?
ビックリした、あいつそんな人の息子なんだ。
いつも酷い格好だよ?
全然似合わない服着て、下手な化粧でお化けみたいに顔塗ってんの。
笑っちゃう。」
だけど、ココナはまだ会ったことが無い。
ニッコリ笑ってやり過ごし、耳元に小さく聞いた。
「へえ、で、何が秘密なの? 」
「あのね、あいつ、女装して男にウリやってんの。売春だよ? きっと。」
「「 え〜〜〜〜、マジ? 」」
皆が驚いた拍子に、週刊誌の男がサッとポケットに隠そうとした手首を、突然現れた社長が握る。
引き上げると、やっぱりレコーダー握ってた。
「あら、これは何かしら? 」
恐らく店の前に車止めて突撃してきたのか、社長がもう来た。
すごい、電光石火だと、ココナが笑う。
週刊誌の男は、不味いことになったと渋い顔になっていた。
「どちらさん? 離してくれませんかね? 」
「あら、わかってるんじゃない? メイクフェアリーの春日井です。
あたし、あなた知ってるわよ。瞬館社の週間誌、シュンカン!の三ヶ日さんでしょ?
珍しい名前だから、1度で覚えたわよ。
最近、部数落ちてるらしいじゃない?
うちのをネタにして稼ぐなら、それなりの覚悟して頂くことになりますけど。」
「わかってるなら離してくださいよ! こっちだって必死なんですよ。」
「あら、やだ。
まあ! 記事にするの? こんなホントかどうかもわかんない状況で。
ココナに会いたいために、ウソついてるだけかもしれないわよ? 」
「うっ、ウソじゃないもん! 」
「ウソじゃないそうですよ? 手を離してくれませんか? 」
「レコーダー、消してくれない? 」
「冗談でしょ、知る権利ですよ。ちゃんと裏取りもしますよ? 」
「あなたたちの裏取りって、信用出来ないのよ。
まずその事案を真実って決めつけてるから、無理矢理ひも付けるじゃない。
見切り発車も多いんじゃなくって? 」
「失礼だな、こんな事、事務所がしていいんですか?
今度はあんたら叩くことになるけど。」
「ホホホ! ケンカ売ってるんなら買うわよ。
うちの親会社は、規律、秩序、風紀にきびしいのよ?
創作された虚言に対して、たとえ盛り上がる非難浴びても簡単にごめんなさいなんて言うわけないでしょ。
真実を剣にして戦うだけよ。
ねえ! あの子がウリやってるんですって。どう思う? 」
後ろから、一緒に来た雅史が苦虫を噛みつぶしたような顔で前に出る。
そしてレコーダーを取り上げると、録音中のそれに向けて、大きな声でハッキリと告げた。
「私はミカエル氏の息子さんと、真剣に向き合っております。」
その一言に、男が驚いて一歩引く。
雅史は、食いつくように前に出て続けた。
「彼はすでに18ですが、いまだ顔を合わせて笑い合って、手を繋ぐくらいです。
しかし息子さんはまだ高2,ごく普通の一般人です。
もちろん私も一般会社員、その私が高校生と手を繋ぐことは犯罪でしょうか?
確かに年齢差はありますし、同性恋愛というのは異常かもしれません。
でもそれを、記事にするのは社会通念上いかがかと存じます。
多感な時期で学生の、しかも来年は受験生。
記事になれば、真っ当な高校生活は送れないかもしれません。
どうか、懸命なるご判断を、よろしくお願い致します。」
そう言って頭を下げると、そのまま返した。
「そうは、言っても、ですね。こっちも商売なんで。」
男の顔がヒクヒクしている。
「名刺、頂けますか? 」
「そんな物持ってない。」
「持ってるでしょう。それとも挨拶無しで、無断でスクープばかりやってるんですね。
週刊誌は何でもやっていいんですか?
儲かればいいんですか?
何もしてない一般人を、記事で殺すんですか? 社会的な殺人だと思いますけど。
あなた方がそんなだから、ミカエルさんは芸能界やめたんですよ。
常識をご存じない? 」
男は苦虫噛むような顔で、バッグの外ポケットから一枚名刺を引き抜き、雅史に押し付けた。
「俺は最近入ったんだ! ミカエル様の引退とは関係ない! 」
「瞬館社ね、承知しました。彼のお父さんに渡しておきますよ。
もしなんかあっても、絶対ここの取材は受けないように。」
「ぐっ、 そ、それはっ! そんな事、あるわけ無いでしょう!
もうあの人引退したんだし。」
「あの人って? 」
「ミカエル様だよ! 」
様って言うなよクソが、結局ファンだから知りたいだけだろうが。公私混同しやがって。
ほんと世の中、ろくでもない奴が多いな。
女の子は事態の急変に驚いて、逃げに入ってる。
出入り口にマスターが立って止めた。
すると、横で聞いていた他の客が、思いあまって声を上げた。
「ここ、夜は未成年禁止だって、マスターが何度言っても聞かないんだ。」
「酒を飲まなきゃいいでしょって言い張って。
この人、その子が18才未満って知ってるよ! 」
ココナがうなずき、手を上げてすかさず声を上げた。
「マスター、警察呼んで!
男が18才未満の女の子、連れ回してる。
注意したら脅しかけて来たって。」
「バッ! 馬鹿なこというな! 」
「馬鹿じゃないでしょ、これ。
アイドル好きな子供買収して、真偽不明のネタ仕入れて書くのと一緒でしょ?
しかも相手って、この子と同級生だろ? 子供じゃないか。
やり方が汚いんだよ。」
マスターが電話する間、何度も女の子は逃げようとする。
「ねえ! 補導されちゃう! やだ、出して! 家に帰りたくない! 」
「家に帰らないって、今夜どうするつもりだったの。」
「この人が泊めてくれるって…… 」
「ち、違う、ちゃんとホテルに、本当だ! 聞いてくれよ! 」
完全にアウトじゃん。
周りの全員が顔を見合わせ、首を振った。
地下の店だけに、他に出入り口はない。
記者の男は真っ青になり、慌てて電話をかけまくる。
結局すぐに警察が来て、記者の男は未成年者略取の現行犯で逮捕されてしまった。
まあ、どうせ釈放されるだろうけど。
「絶対記事にするからな! 」
「あーハイハイ、悪霊退散! 悪霊退散! 」
ココナがメニューでパタパタあおいでお清めする。
マジで吐き捨てていく男の往生際が悪い。
社長が電話で編集部に滅茶苦茶クレーム入れていた。
女の子は、呆然と警察官の横に立っている。
ココナが歩み寄って、顔を覗き込んだ。
「女の子、名前なんて言うの? 」
「鹿野、愛梨。」
「同級生が売りしてたってホント? 」
「してない、ただの彼氏。
あいつ、教室で八分にされてるクセに、キラキラしててさ、うらやましかったから……
ただの当て付け。」
「そっか。愛梨ちゃん、ホントのこと、ちゃんと話してよ。
同級生大事にしてさ、友達とライブに来てくれるの、楽しみにしてるよ。
ご両親によろしくね。」
ココナが差し出す手に、そっと手を添えるとしっかり握手する。
女の子は涙を拭いて、真っ赤な顔で顔を上げてうんとうなずく。
そして、警察に連れられて一緒に店を出て行った。
「よし、これで反撃も可能ね。」
社長がスマホの録音切って、バッグに入れるとホッとため息付いて苦笑する。
隙が無いなーと、ココナと顔を合わせて笑った。




