41、週刊誌がうごめく
雅史が茶を一口飲んで、ため息を付く。
社長がどう出てくるか、警戒して身構えた。
「ええ、四季島君は私の部下ですから、知っていても不思議は無いと思いますが。
何です? そんな事なら僕に用はないでしょう? 」
んー、と社長が考え、ニッコリ笑って指さした。
「迷惑してる? 」
「迷惑してます。こんなとこに呼び出されて。」
「だって、付き合ってるんでしょ? まーちゃんと。」
「付き合ってません。」
これ見よがしに大きくため息付いて、とりあえずまた茶を飲む。
ドキドキしてきた。
まさか、通報はされないと思う。
「あら? 恥ずかしがってそう言うのって、まーちゃんが。
好きの裏返しだって。」
ぶーーーーーっ っと、吹きそうになって飲み込む。
否定したい。
だからって、絶対とは言いがたくなってきている。
そうだ、まだって言おう。
「じゃあ、 まだ! 付き合ってませんと言っておきましょうか。」
心で、(;゜ロ゜A ) 汗、かきながら平然と話す。
うん、俺はまだ付き合ってない。
何よりまだストレートだし、俺だってチンチンよりおっぱいの方が好きだ。
いや、どうだろう。マリンのお尻は可愛かった……
んー、と、また社長が考える。
帰りたい。
四季島さんに、ミカエル様に行けって言われて、仕事帰りに寄ったけど、やっぱその話だった。
別れろなら、マリンに言ってくれよー
俺はなんともないから。
きっと。
なんともない!
きっと! はあああ、なんともなくない〜〜
「まあ、それはいいとして。
まーちゃんはご存じの通り、18才でしょう?
8つ違いとか? うん、年齢差が、気になりまして、ね? 」
サッと、雅史が遮るように手を上げた。
「ご心配なく。もちろん一切手を出していません。
というか、そちらで言えるのでしたら、いやらしいことに誘うなと言って欲しいくらいだ。
私は社会人としては、迷惑しています。」
「あらっ! じゃあ、嫌い? 」
グッと言葉に詰まった。
「いや、そこまでは…… ないです。」
クククッと、社長が笑ってお茶を飲む。
湯飲み置いて、身を乗り出し、声を潜めた。
「可愛いもの、ねー? 」
ううう、どうしよう、
嫌いじゃない。
好き、 なのかわからない。
ラブ、 じゃない。きっと、 いや、 ごめん、やっぱ 好き。
「で? 何が言いたいんですか?
俺は帰りたいんですけど。」
ニイ〜 っと、なんだか不安感。
え? なに? 別れろじゃないの?
ここ、そう言えばうちの会社の子だったっけ? え?
ココナがすっかり日の暮れた町を車で走る。
都心から少しはずれた場所に事務所があるので、それほど車は多くない。
家賃が安いかららしいが、何ともショボい理由だと思う。
Beエンジェが流行った頃は都心にあったらしいが、彼らが引退すると同時期にタレントが次々問題を起こしてスポンサーの訴訟問題になり、事務所は1度倒産の危機にあった。
その時、今の場所に引っ越したらしい。
何となく、自分も近くにマンション借りてるけど、遊ぶ所が無い。
むしゃくしゃした気分で、行きつけの地下にあるライブハウス「ライブストラップ」に向かった。
マスターに愚痴でも聞いて貰おうかなあといった所だ。
近くの駐車場に車を止めて、ビルの地下に降りて行く。
この辺は近くに飲み屋街があるので、日が暮れた方が人通りが多い。
今日はライブが聞こえないなと思う。
いつも誰かしらバンドやってる所だけど。
ここは自分たちも、時々デビュー前に小さなコンサートを開いていた場所だ。
あの頃は本当に必死だった。
インディーズで配信したのがヒットして、最初他の会社からボーカルだけの条件でデビューの話が来た。
仲間内が険悪になっていた所に、以前から声をかけてくれていたメイクフェアリーに、バンドでスカウトされた。
ボーカルだけ抜いても意味ないじゃない。って、笑い飛ばしてくれて、本当に救われた。
社長は俺達の恩人だ。
ここは業界でも、出入りする奴が多い。
有名人が利用すると、知ってる奴は少ない穴場だ。
ドアを開けると、小さく軽やかにベルが鳴る。
今日はライブが無いので客が少ない。
ただ一組、場違いに騒いでる女の子を連れている客がいた。
あれ? あれ、未成年じゃね?
ここは夜は酒を出すので、7時以降は未成年お断りなんだけどな。
カウンターに行ってコーラ注文すると、マスターが渋い顔でコップを磨きながら客席を指さした。
「ね、来た早々あれだけど、…… あれ、見覚えあるから、週刊誌じゃないかな。」
「えー、マジかよ。ってか、ここ、夜は酒出すから子供駄目だろ?
あれどう見ても夏休みじゃん。」
「18って言い張るんだもん。僕も困っちゃうよ。
ほら、お前さん所のミカエル。息子といる所、撮られただろう?
何か息子のこと探ってるらしいよ。
プラザ裏で聞き回ってたって話。又聞きだけどね。」
「なんで息子のこと探るのに、ここに来るんだよ。」
「さあね。ここに来た理由はあるんだろうけど。お前さんじゃない?
あの子、会えるのかずっと気にしてる。」
「え〜〜、」
スマホでメール送りながら渋い顔をしていると、突然女の子が立ち上がって黄色い声が上げた。
「キャーーー!! マジ? ほんとだ! ココナと会えた! 」
駆け寄ろうとすると、連れの男が女の子の腕を掴む。
「ね? 会えたでしょ? 情報、教えてくれない? 」
「やだー! サイン貰えたら教えてあげる! 」
「いやー、接触はナシって約束したでしょ、約束守ってよ。」
「ケチッ! じゃあ教えてやんない! 」
どうやら、タチの悪い女に捕まってるようだ。
帰りたくもあるけれど、一体何の用かも気になる。
社長からメール来た。
『 向かってるから行くまでニッコリしてて! 触っちゃ駄目よ!
ヤバイ時は逃げて 』
まあ、わかってるよ。つか、はっや。
この人、動くの早すぎ
でもさ、なんか興味はあるじゃん。自分のことじゃないし。
「だから〜、いいじゃんちょっと話しかけてもさ。
何か会ったこと残さないと、友達にも見せられないじゃん。
早くしないと帰っちゃうよ〜! 」
「だから、話してくれなきゃ困るんだって。」
マスターと談笑しながら女の子と男がもめているのを遠巻きに見ていても、なかなか女の子は核心を言わない。
立ち上がると、マスターが小さく首を振る。
ココナは心配いらないと手を上げ、女の子のところに行くと、営業スマイルで手を差し出した。
「僕のファンかな? いつもありがとう。」
「えっ! 」
女の子は、声も失ってキラキラした目で震える手を差し出す。
ココナはサッとその手を掴み、固く握手するとグイと引いた。
女の子がビックリして目を丸くする。
そして彼女の耳元に、優しくささやいた。
「なに、秘密にしてるのかな?
僕にも聞かせてよ。」
「ちょっと、ココナさん。うちの探りなんで…… 」
男の声なんか聞いてないように、女の子はココナを見つめる。
ココナは、週刊誌の記者がポケットでレコーダーを握るのに気がついていた。




