39、マリンファンクラブ
しい子が俺のことを詮索し始める。
「俺は普通のサラリーマンだ、ガキ。お前は同級生なんだろ? 進学? 」
険悪な俺達を察して、天使が俺にささやいた。
「雅史さん、ほら言ったじゃない。しいちゃんは京大に行ってノーベル賞目指してるんだよ! 」
「へえ、」
「バカ、そう言う事言いふらすなよ。」
しい子が真っ赤な顔してプイとそっぽ向く。
女の子で、こういう野望持った子って珍しいな。
「 いいじゃん 」
一言言ったら、ビックリするほどパアッと明るい顔でニッと笑い、親指立ててくる。
思わず親指立てて返した。
「いい奴だな! お前! 」
「雅史だ、雅史。しい子って呼ぶ。」
「おう! 雅史、雨降りそうじゃん、帰り送ってくれよ。」
「なにい〜? 」
さっきまで晴れてたはずなのに、なんだかどんより曇ってきた。
あ〜〜、なんだよ。アッシー君もかよ俺〜
二ヒヒと笑う、しい子がまた親指立てる。
そう言えば、ギャルメイクしてないな。普通の女の子だ。
何でこんな普通の子たちがあんな派手なメイクしたがるのか、不思議だな。
「なんで、そうしてればいいのに、化粧するんだ? 」
何気なく聞くと、マリンとしい子が顔を見合わせキャッと笑う。
「だって、俺達毎日戦ってるじゃん? 」
「お化粧はさ、戦闘準備なワケ。」
「すっぴんで戦っても、押し負けるじゃん。俺達、マジで、マジなワケよ。
まあ、おっさんにはわからねえよなー、マリン。」
「だね〜 いい子なんて仮面被ってれば、疲れるばっかだよねえ。」
戦闘準備?? なんだそれ。
「じゃあ何でデートの時化粧するんだ? 」
「バーカ、それこそ戦いじゃん、落とすか落とせないか。
化粧する奴らは、そりゃあ研究して、化粧道具揃えて、震える手でアイライン引くんだぜ?
デートの時は、相手のことばっか考えながらさ。
お前、化粧してきたマリンをディスっただろ?
俺がいたら、お前の目にパンダの模様作ってやったわ。」
「あー、そうだったなあ、ハハッ、怖い怖い。」
ザーザーザー
真っ黒な雲に、せっかくの窓側が暗くなってきた。
食べ終わる頃、雨がとうとう降り出して、スマホで雨雲レーダーを見る。
上がるの一時間後か、長いなー
「帰るか、本格的に振ってきたな。」
「そうだねえ、僕も流石に宿題の残りやらなきゃ。
金曜の花火大会、晴れればいいなあ。」
「大丈夫、晴れって言ってたよ。
あー、1時半か。俺も塾に3時から行かなきゃなんねえや。
楽しかったなあ、マリン、また来ような。雅史もな、また集まろうぜ。」
「来ねえよ、どうせ俺が払うんだろ? 」
「「 イエーイ! 」」
親指立てるな、ムカつく。親指下げてやる。
支払いすると、こいつら自分たちで払う予定だったからか、意外と安い。
まあ、ランチ価格か。
「僕、おトイレ行って来るー 」
マリンがトイレに行って、雅史としい子の2人で玄関先で待つ。
しい子がすかさずグイとシャツを引っ張った。
「なあ、雅史、お前マリン泣かしただろ。」
「あー、最初な。あれは俺が悪いから。」
ジロリと1度睨んで、様子が一変してきびしい顔のしい子がドアの向こうの景色に目を馳せる。
細く息を吐いて、ささやくように話し始めた。
「わかってんならいいんだ。2度とマリンを泣かすな。
あいつはわかってないけど、あいつはな、お日様みたいな奴なんだ。
あいつを知れば、みんな大好きになる。
あたしはあいつと初めて会ったとき、何でこんなひなびた公立校にぴかぴかした奴が来ちゃったんだって、ビックリしたんだ。
あたしはだから、あいつがギャルメイクを始めて元の顔がわかんなくなっちゃっても、それでいいと思った。
それが俺達を近くしたんだし……
あいつはずっと教室でシカトされてたけど、さ、それもちょっとわかるんだ。
みんなどうしようもないんだ。
雰囲気が違いすぎる。
俺達、普通のガキには、どう接していいのかわからない。
マリンのオヤジに、何でこんなセキュリティガバガバの公立に入れたんだって、文句言ってやろうと思って、1度遊びに行ったことがあるんだ。
普通の家で、普通のオヤジだと思ったら、帰ってきてビックリした。
もうさ、なんも言えねえよ。親も半端ねえ。
髪かき上げて、眼鏡外したら腰抜けちまった。なんだよアレ。その辺のオヤジじゃねえよ。
なんであんな普通の一戸建てにいるんだよ。普通、タワマンだろ。
中学までは友達いたって話だけど、あいつは浪人した一年で、現実突きつけられて人より早く脱皮しちゃったんだ。
あたしは心配だよ、あんな無防備に幻の鳥みたいな奴が地面を歩いてる。
雅史、お前はあいつを守ってくれ。
あたしは将来、あいつのお嫁さんになりたかった。
でも雅史がいいってあいつが言うんだ、
自分じゃ駄目なんだ。
だからせめて、マリンの親友としてだけはあり続けたい。
でも隣にいるのがあんたなら、これからはあんたが守ってやってくれよ。
俺は京大目指してるんだ。それだけは変えられない。」
「は…… 」
俺は真っ赤になって、思わず手で笑う口元隠した。
だってさ、 なんだよ、それ。
なんだよ、その愛の告白は。
ガキのくせにませてやがるな! ビックリした!
でも、そうだったよな、高校の時って、ほんとに熱く語れることあったよな。
大人になると、そう言うのが冷めてしまう。
幻の鳥か〜、それはオヤジの方だと思うけど。
俺はマリンにそこまで魅力を感じてない。
まあいいか。
「マリンにそう言う要素あるか、俺にはわかんねえけど。
まあ、俺はまだ、本当に付き合うかは決めてないから。」
「はあっ?!! 」 ドカッ!
「いてえっ! 」蹴り受けて、思わずよろめく。
こいつマジで女の子かよ、昭和のスケバンみたいだな。
「クソ野郎! 何ほざいてやがる! 」
「お待たせ〜! あー、しいちゃん、雅史いじめちゃ駄目だよぉ。」
「あーごめんごめん、マリンは心配しなくてもいいんだ。
ほんとクソ男だから、カツ入れてたのー やばぁ! 」
なんでお前、マリンの前ではキャッキャしてるんだよ!
二重人格か!
「雅史さん、また呼んでもいい? 」
うおおおおおお、何かキラキラした笑顔で言うんじゃねえよ!
俺はお前に、お前に魅力なんか、感じてないんだあああああ!
「べっ、別にヒマだったから来ただけだし! 」
「じゃあ、また声かけるね! 」
「お、おう、来るかどうかわかんないぞ! 」
「うん! 」
ピョンとマリンが腕に飛びつく。
俺はやっぱり、そのまま緊張してギクシャク動き出す。
またドスンと、しい子が尻を蹴る。
わかってる、わかってるよしい子、俺が守らなきゃならないんだろう?
頼りないけどさ、わかってるんだよ。
後ろのしい子に、親指立てる。
しい子がニッと親指立てた。
俺達は、きっとマリンファンクラブのスペシャルだ。




