37、進路の先はどこ行こう
青空がどこまでも続いて、ギラギラ日が差し込んですごく熱い。
そう言えば、ゴタゴタして海に行けなかったなーって思う。
まあ、僕自身、アウトドア派じゃないからね。
水着も持ってないし、実は海なんて行ったことない。
いつもの道の、いつもの海の景色が広がり、所々に小さな船が浮かんでる。
ここは海水浴場はないんだよな。
やっぱ浜辺がないと、釣りくらいしか楽しめない。
ギラギラ、腕に日が当たって圧を感じる。最近の暑さは、マジで半端ない。
「あちぃ〜 」
僕はパーカー着てきて良かったなーって、焼けないようにフードをすっぽり被った。
「クーラーは効いてるけど、日差しはどうしようもないよな。」
「まあ、これが夏の醍醐味だから。」
「ハハッ、なんだよそれ。四季島さん、今夜帰るんだろ? 」
「うん、もー毎日毎日うるさくてたまんない。今夜のご飯、なんか買ってくるって。
よよい軒デート終了だー!
雅史さん、今夜うちで食べない? 」
「あー、またあらためてね。久しぶりで会うお父さんだろ? ねぎらってあげなよ。」
「ちぇー、僕らの熱々ぶりを見せつけようと思ったのにー 」
「いや、駄目だろ、殺されるだろ。」
今日は美容室に叔母さんがいるのと、メグミさんが美容室の奥にある着付けの部屋に案内してくれた。
畳敷きで、何かいっぱい箪笥が並んでる。
掛け物には、色んな色の着物に使う紐みたいなのがぶら下がってて、部屋はお婆ちゃんちの箪笥と同じ、しょうのうの匂いがしてた。
まずは自分で着た浴衣姿の僕を見て、帯の位置を直してくれる。
帯もお婆ちゃんが教えてくれたのは、腰で男っぽく結ぶやり方でいまいち気に入らなかったんだけど、帯を女物にしましょと貸してくれた。
女物は、幅が広くて思ったより使いやすい。
赤紫で落ち着いて派手さを押さえたいい色。
結ぶのはちょっと難しいけど、メグミさんに教えてもらった。
「ほら、出来たんじゃない? 」
「いいね、ユニセックスって感じ。帯が落ち着いた色だから違和感ないね。」
鏡の前で、クルリと回ってニッコリ笑う。
すると、メグミさんがクスクス笑った。
「ほんと、マリンちゃんは服が好きねえ。
卒業したらどうするの? 働く? 」
「えっ?! 大学行かずに? 」
「そうね、大学はいざとなったら定時制とか通信大学もあるわよ。」
はあああああああ! そっか! ビックリした。
あーそっか、本当に高校卒業したら、選択肢が多いんだなあ。
「社会って、いろんな物があって面白いよね。」
「あら、怖いこともいっぱいあるわよ。
独り立ちすると親の目が行き届かないから、好きな事をやってるだけ!
と、思ってる間に借金だらけで破綻することもあるわ。
大学生の時って、怪しい勧誘も多いから意外と騙されるの。」
「ふうん、 僕は、なんかさ、不思議なんだ。」
「何が? 」
「自分が大学や専門学校に行って、勉強して、就職する。
そんなビジョンが浮かばないんだ。
僕は、未来の僕は、一体何をしているんだろう。」
「そうねえ、ちょっと普通に無い雰囲気あるし……
ねえ、モデル科のある学校に行けば? 」
「え〜〜、そんな学校あるの? 」
「あるわよ。でもその前に、都心歩けばスカウトされると思うけど。」
「背が低いからスカウトはないなー。それにパパりんが、めっちゃ反対すると思うし。」
ふうんと、僕の後ろに回って一緒に鏡を覗き込む。
「背丈なんて些細な問題よ。
パパの反対ってさ、マリンちゃんの人生の中でそんなに重要? 」
「え? そんなの、考えたこともないや。」
「やりたい事に一つ芯が通っているならさ、話し合ってもいいんじゃない?
パパは見守ってくれる、それだけでいい時もあるんだよ。」
「んーーー、」
惑わしてくるなー
まるで天使か悪魔みたいだよ。
クスクス笑ってると、居間でテレビ見て待ってた雅史が来た。
「おーい、まだかよ。待ちくたびれたぞ。」
なんか、ウンザリしたような顔で、しょぼくれて顔を出す。
でっかいあくびして、ケツをボリボリ掻いた。
「ふあーあーあ、 おおーー、なんだよ、着てるじゃん。浴衣。」
だらしない姿に、姉がため息付いた。
「あーら、雅史、あんたマリンちゃんとキスくらいしたの? 」
「はあーーーっ??!! なっ! 何でそんな事いきなり言うんだよ! 」
ビックリして目が覚めてやんの。
キシシシシ、かーわいー
「雅史さんったら、ろくに手も繋いでくれないの。意気地無しだよねー 」
「やだ〜、こう言うの、朴念仁って言うのよ〜 」
「お、俺達は付き合ってないから! こいつまだ高校生だぞ!
姉ちゃんは、弟がわいせつでケーサツに捕まってもいいってのか?! 」
「馬鹿ねえ、マリンちゃんはもう18才じゃない。
清い交際ならいいんじゃないの? パパさんも公認じゃない。」
「そんなこと言ったって、俺はノーマルだから! 」
「じゃあ何でここに連れてきたのよ。馬鹿ねえ、変な意地張っちゃって。
ねーーーー、」
「ねーー、僕に愛の告白一つしないんだから。その上、浮気してるし〜 」
「あ、あれは違うって! だから、付き合ってないって言ってるだろ! もう帰るぞ! 」
「はいはい、じゃあ、着替えるからもうちょっと待って。」
「え? ……脱いじゃうの? 」
なんかちょっとガッカリして、残念雅史に笑っちゃう。
メグミさんとキョトンと顔を合わせて、めっちゃ笑った。
「じゃあ、このまま帰るよ、彼氏のご要望だしぃ。ありがとう、メグミさん。」
「かっ、彼氏じゃないし! 」
「はいはい、いいからちょっと待っててよ。」
脱いだ服畳んでバッグに入れて、浴衣入れてきたバッグを手に、メグミさんのほっぺにチュッとキスして、バイバイする。
「あら、素敵。じゃあまたね。こいつに告白されたらお祝いしましょ。」
「わかった、僕頑張る! 」
「何頑張るんだよ、俺を犯罪者にする気か。」
「はいはいはい、じゃあ…… これからどこ行く?!
ほら! こんなに僕きれいなのに! 行かなきゃ勿体ないよ! 」
「帰る! 」
「ケチーーーー! 」あっかんべーだ!
「あっ、えーーと、これ、やる。」
店から出ると、車からショップの袋取りだして僕に差し出す。
メグミさんと2人で覗き込んで、ビックリして取り出した。
薄紫がきれいな色で、和風なうさぎのワンポイントが可愛い。
「わ! 素敵だね、可愛い巾着だ! うちわもきれい!
ねえ、ねえ! これ、僕のために買ったの? ねえ! 」
くるうりと、僕に背を向ける。
「ち、ちげえよ。
夏物処分で安かったから買っただけ。
やっすかったんだ! 何も、なーーーーんにも、考えず買った。」
「でも、僕のために買ってくれたんでしょ? ありがとう、雅史さん! 」
「え、え、わあっ! 」
ピョンと飛びついて、ほっぺにチュッと、
しようとした。
が、逃げられた。
おのれ雅史、今度こそ抱きついてチューする!




