36、しいちゃんも偏見と闘う
マリンと会ったあと、しいちゃんはコンビニで買い物して、一人寂しく家路についた。
勉強に燃えてたのに、合宿でギャルメイクをいじられて、いじめにあってしまった。
気を張って頑張ってたけど、合宿終盤に入るとみんなストレスまみれで、いいストレスのはけ口になってしまったんだと思う。
勉強仲間の彼氏が出来たのも、気に触ったんだろう。
後期に行くのがだんだん気が重くなって、キャンセルしてしまった。
あと一年しか無いのに、こんな事じゃ京大に入れるか自信ない。
「マリンに悩み聞いて欲しかったなあ。」
あいつはきっと、こんな悩み吹き飛ばしてくれるのに。
明るくて嫌な所が全然無い天使みたいな奴なのに、男でギャルメイクとか、スカート履いてきたとかで、変態認定されちゃってほとんど友達がいない。
「あれ? あいつ、あの学校で2年間、ずっといじめにあってるんじゃねえ?
強いよなー、あたしならもう辞めちゃうよ。」
ふふっと笑って、しいちゃんが肩をすぼめる。
あたしがいるから転校しないってんなら、いいなあ。
まあ、そんなこと無いだろうけど。
マリンは自覚ないけどさ、カラオケで歌ってダンスしてる姿が一番カッコいいんだ。惚れちゃうじゃん。
「よ〜う、吉原じゃね? 」
「ああ、鹿野か。久しぶり。」
同級生の鹿野愛梨が、名前知らない子2人と駄弁ってるのにハチあった。
ちょっと、会いたくない奴らだった。
鹿野はギャル仲間ではあるけど、素行が凄く悪い。
彼氏が社会人で、髪も金髪に染めて、夏休みになるとほとんど家に帰ってないのか、学校からLINEで見かけたら連絡するようにと時々連絡先が回ってきた。
ちょっと、人生で足を踏み外しかけてる奴だ。
名前可愛いのに、意地悪そうな顔で近づいてくる。
いつもは挨拶程度で当たり障り無くやり過ごすのに、この日はなんだかひどく疲れていた。
「吉原、今日、メイクどうしたよ。その辺のババアみたいじゃん。
すっぴんだせえ! ただのブスじゃん。」
ほんと腹立つ、だから会いたくないのに。
「うるせえな、肌を休ませてるんだよ。」
「お前さ、彼氏のあれ、ほら、バケモノみたいな男どうしたよ。
一緒じゃねえの? 」
あれ? こいつマリンが綺麗になってるの知らないんだ。
バケモノなんて言ってるけど、今のマリン見たらきっと大好きになる。
でも教えてやらない。
「マリンは彼氏じゃねえよ。親友だよ。」
「くっさ、親友だってよ。綺麗なこと言って、もうヤッたんじゃねえの? 」
「ケツの軽いお前と一緒にするな。それ以上言うと殴るぞ。」
カチンときたのか、鹿野が暗い顔になった。
本当に、嫌な奴だ。
ムカつくのでこっそり先生にLINEする。
「おお、怖〜 あいつさ、援交してるの知ってる? 」
「は?? 」
「あー、勉強ばっかしてるから知らねえんだ。
町で見かけたんだ。女装して男と歩いてんの。
男のクセに、ホモの援交だよ。気持ちワリィ! 」
「援交じゃねえよ! ちゃんとした彼氏なんだ。」
「へえ、知ってて見ない振りしてんだ。
あいつ持ってたの、ブランドバックだったぜ? 何十万もする。
着てたワンピースも雑誌に載ってた奴だし、男のくせに何だよ。
ふざけやがって。
金持ちの男引っかけて、1人贅沢してやがる。」
不機嫌に吐き捨てながら、奇妙にニヤリと笑った。
直感した。
あっ! こいつ、確信もないのに誰かにチクりやがったな?
「誰にチクった? 」
そのカンの良さが、気に触ったのか突然不機嫌になる。
ほんとわかりやすい。
「あーーーーー、なんだよ、面白くねえな。」
「誰にチクったって? 」
「せーんせーーじゃないんだよなあ〜 」
「まさか、補導員かよ! 」
「ざんねーん!
プラザ裏に補導に来た少年課〜 」
「 はあ??!! 」
「バーカ、何が親友だよ。京大目指すとか馬鹿じゃね?
受かるわけ無いじゃん、便所掃除でもしてろよ! 」
この野郎、ムカつく!
ギリギリ歯を剥いて、拳を握りしめる。
殺す! マジころ……
『 しいちゃん! ノーベル賞目指すって凄いね! 応援するよ! 』
なぜかマリンの声がして、ハッと目を見開いた。
あいつは、ケバいあたしに色眼鏡も無く話しかけてきた。
可愛いなんて言われたの初めてだった。
心は女の子って、恋愛対象じゃ無いことにガッカリもしたけど、あいつは、ノーベル賞目指してるって言っても、笑わなかったんだ。
あたしは、一生あいつの、一番ダチになりたい!
ダメだ、冷静になれ。こいつに乗せられるな。
問題起こすとマリンにも迷惑かかる。
視線を走らせると、横にいた連れがこっちにカメラ向けてる。
ヤバい、あおって怒らせて暴力沙汰にする気だ。
しいちゃんは、大きく息を吸って、ハアッと吐いた。
それを何度も繰り返すと、どんどん落ち着いてくる。
その様子に鹿野は少し焦って声を上げた。
「なんだよ気に入らねえ! 彼氏に言ってボコボコに…… 」
しいちゃんは、右手を真っ直ぐ挙げて空を指さすと、ドンッとそれを下ろして鹿野を指さし、指鉄砲の引き金を引いた。
「バーーーン! バーーーーカッ! バカバカ、バッカみたい。」
「なんですってえ?! 」
「彼氏が何だって? あたしはあんたと喋ってんのよ。
人使ってリアルな腕力で人に暴力振るって、それであんた気持ちいいの?
それ、めっちゃカッコ悪いよ。
あんた、何でそんななっちゃったの?
言うほどいい奴じゃなかったけどさ、あんたの前にあるその道、間違ってるよ。」
「えっ? 」
鹿野が、ハッとして足下を見た。唇かんで、苦い顔してる。
こいつ、自覚あるんだよなあ。これじゃダメだって、気がついてるじゃん。
「通って来た道、引き返せやしないけどさ、迷ったならちゃんとした人、頼りなよ。
それ、恥ずかしいことじゃないよ。あたしも愚痴聞いて貰わなきゃ。
はっ、進路だの何だのってさ、ほんとイヤになっちゃう。
ってわけであたし、忙しいのよ、あんたと違って。
何しろ、前途有望な学者になるんだから。
じゃあね、親友には伝えるわ。あんたが告げ口したって。
さて、どっちが補導されるのかしらね。」
「あたしは! 本当のこと言ったまでよ! 」
「バーーーーカ、そもそもが間違ってんのよあんた。
親友はあれでもう18才、成人なの。未成年じゃ無いっての! 」
「えっ?! ウソ! 」
あはは! こういうの、なんての?
鳩が豆鉄砲食らったような顔っての?
あーーーー! 清々したー
「じゃ、ねー 」
「そっ、それでも売春は犯罪だろうが! 」
「彼氏ッつってるだろ! あいつはそんな尻軽じゃねえよ!
それよりお前の方がヤバいんじゃねえの?! 腹が出てるぞ! 」
「うそっ! 」
出てないけど。
そうかそうか、本当の尻軽はお前の方か、人生踏み外すと大変だなー
「鹿野ッ! やっと見つけたぞ! 」
その時丁度、通り過ぎた車が脇に留まったと思ったら、先生が飛び出してきた。
LINEで連絡したけど、マジで探してたんだ。
「やべえ! くそっ! 吉原、連絡しやがったな! 覚えてろよ! 」
鹿野たちが脱兎のごとく逃げて行く。
「覚えてねえなあー、お前らと違って覚えること多くてよ。
帰って勉強しよ! 」
しいちゃんは、ちょっとスッとした気分で、家へと小走りで帰ってった。




