34、まだ付き合ってないけど、2人でいると心地いい
俺は、人に言われて目が覚めた気分だった。
俺は同性恋愛への偏見の固まりで、マリンの気持ちまでよく考えたことがなかった。
でも、でも、俺は同性セックスとか、何か抵抗が……
「でも、さ。お前、男抱けんの? 可愛くても、男だぜ? 」
同意するかと思ったら、高田はとことん裏切ってくる。
ニヤリとワルっぽく笑って、グッと親指立てた。
「ばーか、可愛い上に付いてたらご褒美だろ。
どんなに恥じらっても、ピンと立ってたら俄然やる気出るじゃん。」
はあああああああああ、
ま、マジ? 俺が世の中に遅れているのか。
いやいや、そうは言っても男と男。子供が出来ないのは寂しい。
「でも、子供出来ないのがな。」
「バーカ、お前課長だろ? それ公言するなよ。
子供出来ない奴って意外と多いんだぞ。上司に訴えられるぞ。
今どき、結婚したら、まず子供って考え、古いんだよ。
好きな人と一緒になるのが一番。
まあ、俺が言うのはアレだけど、ちゃんと相手先の家族とも親密な距離を大事にしろよ。
じゃないと…… 俺みたいな、うっ、じゅるるる、目に遭う、から、うっ、うっ。
その子とは、続いてんの? 」
「あ? ああ、来週の花火に、一緒に行こうって約束してる。
浴衣、着る練習してるんだって、今度の土曜、姉貴のとこ連れて行く約束…… 」
バーーンと、背中叩かれた。
「いって! 」
「くっそ、幸せそうな顔しやがって、お前なんか絶交だ!
ちゃんと学校卒業してからエッチしろよ。」
「あ、あ、当たり前だろ、俺達まだ手を握ったことしかないし。」
「はあああ??? チューくらいしろよ! あ、いや、未成年だったら強制わいせつか?
いや、同意してても駄目なんだよな。」
「わかってるよ。もう18だけど、付き合うって決めたら、ちゃんと高校卒業してからチューするさ。
あ、お前の奥さん、名前なんて言うの? 」
ため息付いて立ち上がり、背中向けたままヒラヒラ手を振って、力無く返事が聞こえた。
「輝美。まあ、弁護士相談するわ。」
ふうん、
えっ?? てるみ?
いや…… いやいや、偶然だろ、まさか、うん、そんなはず無いよなあ。
そう言えば、俺も彼女の写真一枚も持ってない。
恥ずかしいって、なかなか撮らせなかったから。
あれ?
あ〜〜れえ〜〜??
もしかして、この会社、ターゲットにされてねえ?
ククッと笑って、時間見て部屋に戻りはじめる。
なんか、俺は高田の言葉に気が軽くなった。
今度会ったら、マリンの手を、 手を、 繋いでみよう。うん。
いい匂いの、サラサラの髪が、ああ、ニッコリ笑う愛くるしい顔が、まだ付き合ってないけど、
ああ……
なんか会いたい。
1度、抱きしめてぎゅってしてみたい。
…… …… え、違うぞ、俺!
付き合ってない! まだ付き合ってないから!
くっ、心折れそう〜! でもなんか、吹っ切れたし!
「ニヤニヤして何ですか。息子は嫁にやりませんからね。」
突然声をかけられて、ビクッと飛び退いた。
はあああ、ビックリした。このオヤジ、何で眼鏡すると凡人なんだ。
気配が全然しなかった。
「わかってます。から。」
フンとして、美人のパパさんは先に部屋に入って行く。
追いかけるように入って、ため息付いた。
これが、眼鏡外すと存在感バリバリのアイドルになるんだから、良くわからない。
「四季島さん、来月から子会社に出向ですね、ちゃんと引き継ぎお願いしますよ。」
「承知しております。すでに、途中の仕事はファイリングして秋田君に渡していますので。」
手抜かり無いのが何か憎らしい。
寂しくなるなあ。
ドライな態度が余計に心が寒々しい。
もうちょっとさ、残念そうな顔も見せてくれよ。
遠い世界に行ってしまうような、いっそ付いて行きたいような。
そんな気持ちで俺は席に着くと仕事を始めた。
盆休みの連休は、今年は曜日の都合が悪く5日しかない。
俺は実家に帰る予定だったけど、遊びたいというマリンに連休初日に1日ウィンドウショッピングを付き合った。
迎えに行くと、玄関先に出てきたマリンは、いつもよりちょっとギャルっぽいメイクに戻ってる。
ヘソ出しルックにミニスカートで露出が多く、どうもお父さんのチェックが入ってないようだ。
つけまつげ外して上に白パーカーを羽織りなさいと指示して、下には何かズボン履くように頼んだ。
ブーブー文句垂れながら着替えるマリンに聞くと、ミカエル様はどうやら仕事で連休中は留守らしい。
通知切ってたLINEには、いっぱいメッセージ来てた。
『 お泊まり禁止です。目が届かない所で襲ったら訴えます。
良いですね、清い交際をお願いします。ではまた。 』
『 泊まってないでしょうね、 』
『 泊まるな! 一線越えたら殺しに行くから! 』
『 泊まってないだろうな! あとで電話しますよ! 』
『 呪、呪、呪、呪、呪、 殺す 』
『 スマホにGPSを入れさせて下さい。あなたが信用出来ない。 』
『 まーちゃんに手を出したら殺す! 』
ああ…… 、何か息子への愛情がねじ曲がってるなあ。
大丈夫です、ミカエル様。まだ付き合っていません。
でもご飯がコンビニのお弁当だというので、お帰りになるまでは夕食だけでも、近くのよよい軒に連れて行きます。
実家はちょっと顔出せばオッケーなので、ご心配なさらないように。
「ねー、浴衣の着付け習いに行きたいなー 」
よよい軒の帰り、手を繋いでマリンの家まで歩いてると、ギュッと手を引き寄せていった。
そう言えば、すっかり忘れてたな。
花火大会来週だし、頃合いか。
「じゃあ、今週の土曜に連れて行ってやるよ。
姉ちゃんその頃から店に戻るって言ってたから。」
「うん! 約束ね! 」
月の明かりの下、マリンと歩く道は明るく照らされてぬるい風さえ心地いい。
マリンの隣の隣の家のご婦人は、相変わらず前を通ると玄関先から顔を出す。
ニッコリ笑って、お疲れ様ですと一礼した。
知らない所で、みんながマリンを守ってる。
俺はマリンを家に送り届けると、それを最後まで見守る婦人にニッコリ笑って車まで戻る。
ああ、花火大会が楽しみだ。
俺はそろそろ、付き合うのか付き合わないのか、答えを出そうと思い始めた。




