33、俺はマリンを傷つけていたのか
会社の公示に、9月の人事異動があった。
これは毎年のことで、ずらりと名前が並んでいる。
本人は黙って普通に仕事してるけど、“四季島 海”の名前も埋もれるようにあった。
あー、どっか行くのか。
あれ? でも、出向になってるぞ?
「あれ〜? 」
海? あの人確か、カイって読んだよな。
息子は同じ字でマリンかよ。
母親、遊んでるだろ。
いや、息子にあの父親投影してるな。
まあ、似てるよな。
並んで座ってると、同一人物の20年後って感じだもん。
マリンは気がついてないみたいだけど。
お前がミカエル様ディスるってことは、お前、自分の20年後ディスるのと同じなんだぞ?
って言いたいけど、胸にしまっとく。
休憩時間に自販機コーナー行って、コーヒー飲んでるとポンと肩を叩かれて振り返る。
親会社の同期の高田だ、久しぶりに顔を見た。
結婚したって話聞いたけど、身内だけで式したらしい。
うらやましい、早く家庭持ちたい。
一人暮らしが寂しい。
「よお、久しぶり。」
「あれ? お前までこっち来てるの? 」
「こっちに再就職。希望募ってたから手を上げたんだ。
向こうは業績やばいって話だろ?
親と子の業績逆転してて、なんか変な感じ。合併も想定してるらしいよ。」
「逆合併か。まあ、変な奴に買収されるよりマシだよな。
結婚したんだって? いいなあ。」
高田は勝ち組かと思ったけど、ちょっと影のある顔で笑ってコーヒー買うと横に並ぶ。
新婚なら、今が一番楽しいと思うんだけどなあ。
「お前、彼女は? いたんだろ? 」
「あ、ああ、いたけど、二股かけられてた。」
笑われるかと思ったら、大きくため息付いてコーヒー飲む。
「女は怖いよなあ。」
あれ?何か元気ない。
「なんかあった? 」
「いや、俺なんか、毎日ほぼ無視されてるからさ、結婚して良かったのかわかんなくなってる。
まあ、家事分担は最初から決めてたけど、彼女思った以上に潔癖症でさ、俺が洗った皿もまた洗い直すんだ。
掃除しても掃除し直すし、もうさ、どうしたらいいのかわかんないんだ。」
涙声になっちゃって、メチャクソ重いこと言ってきたーーー!
マジか、こいつの彼女って、そう言えば会ったこと無かった。
怖いなあ、、 逃げたい
何か言わなきゃ、でも、軽く流すなんて出来ない。
どう返そう。
「でも、でもさ、ちゃんとやってるんだな、家事。お前偉いな。」
「そう言う契約だから。
子供できたら、もっと怖くなりそう〜
離婚歴多いの、そう言う事だったか〜 早まったなあ。」
うるうるした目で言うなーーーー
俺に助け求められてもさ、 困るんだよお〜
「美人なの? 」
「ゴージャスな美人。
結婚式も自分は何度目で恥ずかしいから、身内だけでって言ってくれたし。
いまどき倹約するんだって感動したのに、カードの支払い限界まで使い切るときもあるし、全然家にいないし、離婚してえ。」
「あー、でもそう言う女、何か別れると、がっぽりむしり取られそうだなー 」
「だからさー、怖くて言い出せない。
付き合ってたとき、どこか資産家の娘さんかと思ったもん。」
「なあ、それって…… 奥さんの家族にはその後会った? 」
怪訝な顔で、2人見合わせる。
「…… 実は、海外にいるとかで、式以来会ってないんだ。」
「まさか、雇われ家族だったりして。」
見る間に、高田が真っ青になって、大きくため息付くとガックリ肩を落とした。
「はああああ、結婚詐欺かな、まさか、引っかかったのかな? 俺…… 」
うわあああ、マジで犯罪か。
結婚には夢持っていたいのに、そんな話持ってくるなよ〜
「で? 俺はいいとして、さ、お前はどうよ? 」
お? 何か落ち直したぞ。きっとどことなくこいつは気がついてたんだなあ。
「いい子、いないのかよ。」
「いい子って言えるか知らんけど、男の娘から言いよられてる。」
「男の子? ショタかよ。」
「違う違う、女の子のカッコした男の子だよ。
俺はノーマルって言ってんのに、全然話聞かないの。迷惑してる。」
「ちぇっ、可愛いんだろ? 」
「それがなあ、そこらの女子より可愛い。」
「ちぇっ、ちぇっ、なんだよ、ごちそうさまかよ。うらやましい奴。」
「うらやましくないだろ、チンチン付いてる女の子だぜ?
セックスだって入れるとこ、アレだし。じょーだん。」
同意かと思ったら、何か、いやーな顔して睨まれた。
「やな奴だなー、デリカシーが無い。そう言うので恥ずかしいのは相手の方だろ。
お前ズバズバ言うから、もうとっくに嫌われてるのが普通だぞ?
許してくれてるなんて、すげえいい子だろ。お前には勿体ない。」
「えっ? 」
俺は言われて驚いた。
俺はほんとにデリカシーがない。
高校の時の彼女も、ケンカしたわけじゃ無いのに、泣いて逃げていったんだ。
ああ…… 恥ずかしいのって、 そうか。 そう…… だよな。
どっちが恥ずかしいか、ほんとに、マジで考えなかった。
相手の方、だ。そっか、 え?? あれ?? ヤッバ 、、
俺って、凄い、マリン、傷つけたんじゃ…… ね?
博物館の駐車場で、泣いてたマリンの顔がパッと思い浮かんだ。
きっと、傷つけてた。
同性の恋愛なんて考えたこともなかったから、俺は偏見に満ちてた。
あんなに一生懸命で、綺麗に着飾って、俺のためにオシャレしてくれたのに。
しまった、しまった、俺、だからあの時泣かせたんだ。
ごめん、マリン、ごめん。
もっと、もっと優しくするから。
ごめん。




