29、天使が集う風呂場
天使のような親子が、俺の家にいるなんて信じられない。
この気持ちをどうすればいいんだ。
ごろんごろんごろん
ベッドの上で、転がっててもダメだ、ちゃんと話をしないと。
俺は上司だし!
プライベートの悩みも、ちゃんと相談に乗らないと!
ミカエル様がお困りなら、マリンの面倒見てもいいし!
ドアをそうっと出ると、いない。
「あれ? え? まさか…… 」
そうっと風呂場に行くと、マリンのキャピキャピした声が響いた。
「はうううっ! お風呂タイムじゃん。
しかも、入るか? 18でパパと一緒に入るか?
あいつ4つくらい逆サバ読んでねえ? 」
ぴとっとドアに耳当てた。
「キャーー! パパりんやだぁ! 」
「まーちゃん可愛いもん! パパりん、こちょこちょしたーい! 」
「えっち! パパりんのえっち! 」
バシャーーンッ! 「わあっ! 」
「キャーーキャッ、キャハハハ! 」
鼻血が出そうになって鼻を押さえ、がくりと膝をつきそうになる。
ぐっとこらえて、そうっと脱衣所のドア開けた。
すりガラス調のドアの向こうに、天使がたわむれている。
そうっとドアを閉めて居間に戻った。
はあ…… 今夜、眠れるかな?
あっ!
「パジャマ代わりに、なんかあるかな?
ロングTでいいかな? パンツ一丁で出てこられたら、俺のハートは自爆してしまう。」
洋服ダンスをあら探しするが、新品はない。
パパにはTシャツとゴムの短パンに、マリルーにはロングTシャツだな。
くんくん、臭いしないな。
ファブっとこうかな。いや、お肌が荒れたら大変なことになる。
ここはワイルドに渡そう。
で、
いつ渡そう、入っていいのかな?
上がってから聞こうか。
マリルーに変態認定されてもいやだし。
ぐるぐる迷ってると、ガラッと音がした。
誰か上がったぞ。
いつ渡すか? 今でしょ!
急いで行って、脱衣所の外から声をかけた。
「あの、パジャマ代わりの…… 」
ガラッ!
濡れた髪の、父天使が腰にタオル巻いて顔を出す。
「ああ、気が利きますね。課長、ありがとうございます。」
「は、 はい 」
「 ラブ・ユー、ちゅっ 」
さっと取って、バタンと閉めるが、投げキッスは忘れない。
俺はぷるぷるしながら居間に戻ると、その場でくずおれた。
カラオケ屋のおっさんも、こうだったに違いない。
ラブ・ユー、頂きました。 神様、ありがとう
「まーちゃん! 髪! 乾かさないと! 」
父の声を振り切って、ドタドタ風呂場からマリルーが駆けて来る。
「キャーー! 雅史ぃ! 気持ちよかったよぉ! 」
マリルーがボスッと背中に抱きついて、居間の扇風機の前に走る。
ロンT、かわいいなーっと思ってみてたら、ガバッと裾をあげて、パンツ丸出しでおなかを涼み出した。
「きっもちいー! 」
「はああああああああああ!! 」
ドスドスドス、
急いで歩いて行くと、バッと下ろして隠す。
「なにすんだよお! 」
「君みたいな…… な、子がそんな格好しちゃだめでしょ! 」
声が裏返ってしまった。かっこ悪い、死にたい。
「僕みたいな、どんな子だってー? 」
上目遣いでニイッとする、濡れた髪が色っぽい。
風呂上がりのいい匂いだ、ふんわりとした肌に触れたい。
その、ベビーピンクの唇が、俺を誘う。
マリルーが、顔にかかる髪を耳にかけ、顔を上に向けて目を閉じる。
唇が、引き寄せられるように、触れた。
「あーーーーーーーーーーー
きっもちよかっったあああああああ!! 」
いきなりバリトンの声が響き渡り、ビクッとして、ぴょんと二人で飛び退いた。
いい声じゃないかっ! びっくりしたあああ!
つか、
はああああ、キスするとこだったああああ!!
「やっぱり付き合ってるんじゃないですかああ! 」
「つきあってません。付き合ってませんとも。」
うう、俺の否定もだんだん弱気になる。
マリルーが、俺の首に手を回してくる。
「つきあってまーーーーす! ブイブイ! 」
「付き合ってなーーーーい! 」
マリルー引き剥がそうとするけど、離れない。
「まあ、仕方ない。お湯、抜いて洗ってきましたので。」
「ああ、私はシャワーだけなので、大丈夫です。」
「えーー、雅史と入ればよかったあ。
僕が背中流してあげる! 」
「いえ、結構です。いいか、入るなよ。絶対入るな! 」
マリルー父が、ちょっと頭ひねった。
「お風呂ぬれてたけど、入ったんじゃないですか? 」
「いえ、掃除しただけで入ってないです。」
「ああ、そうでしたか。お先に失礼しました。」
「いえ、お気になさらず。」
着替えもって、脱衣所に入る。
急いで換気扇を止めると大きく息を吸った。
吸うだろ、やっぱ、吸うしかないだろ。




