25、週刊誌だ逃げろ!
ガブが駅に向かって歩き始めると、スマホが鳴った。
LINEのメッセージを見て、周囲を見回す。
ホテルの駐車場入り口の影から2人話しながら、チラリとこちらを見て視線を外し、スマホで連絡を取っている。
「こいつか、」
ガブは近づくと、彼に話しかけた。
「週刊誌? 」
「は? どちら様? 」
わかってて、うそぶく男のにやけ顔がムカつく。
「駐車場で張っていたのを見ると、どうも自分たちが出くわしたのは偶然のようだね。」
男のスマホから声が聞こえた。
『 女の子と思ったら、息子さんのようですよ、どうします?
子供は初じゃないですか? とんだスクープですね! 』
「だってさ、お前ら週刊誌じゃん。」
男は、苦い笑いでスマホを切り、バッグを肩に立ち去ろうとする。
「ガブさん、あなたのことは書かないんで。」
「俺のこと書いたって、記事にもならんでしょう。
誰のことなら金になるんだい? 」
「わかってるでしょう?」
「名刺頂戴」
手を出すと、渋々名刺を出した。
「圧力とか、勘弁してくださいよ。」
「やだなあ、一般人守ってるだけだよ? 」
ガブがニッコリ笑うと、渋い顔で歩き出し、またスマホを耳に当てる。
男は、舌打ちながら上司に電話をかけた。
Beエンジェが解散の後、その扱いは非常に繊細だ。
運良く写真を撮っても没になる。
それは別に事務所が強いわけじゃない。
どこかから、圧力がかかるのだ。
引退したミカエルの記事は御法度と、通達が来ている。
それでも以前、家族で小学生の子供の運動会を楽しむ写真を載せたら、顔を消したにもかかわらず、子供は小学校から消え、家は売りに出されて、あっという間に姿を消した。
3回連載予定で勤め先まで突き止めて追いかけるつもりだったのに、1回で終わりだ。
その後、精神的、経済的な苦痛を受けたと賠償問題になり、恐ろしいほどの弁護士の手腕に負けて数千万を請求され、それが認められてしまった。
雑誌は売れたが、儲けはチャラだ。
それでも、運良く見つけたら報道したいのは記者のサガだ。
引退後、どういう生活を送っているのかは誰しも知りたい。
一般人が何だ。
「編集長? ほら、Beエンジェのミカエルですよ、ガブリエルとホテルで会食しているところを見つけたんです。
え? 御法度? いいじゃないですか。記事にしましょうよ。
凄いですよ、可愛くて美人の息子ですよ? 男の子なのに中性っぽさがいいんですよ。
サラブレッドって感じです。
写真? 俺が持ってるのちょっと小さくて。送ります。
あれは映えますよ。とにかく、あとを付けて家を見つけますんで。
いえ! 確か未成年じゃ無いはず。今年3年だと思います。
とにかくですね! とにかく、可愛いんですよ! 」
『 早瀬! 早瀬! 相手は一般人だぞ! もっと慎重にだな! 早瀬! 』 ピッ!
編集長の怒鳴り声が聞こえるが、そんな物より子供だ。
あとを追って家を調べなければ。
次は勤め先だ。現在のミカエルはもちろん、子供の明瞭な写真も欲しい。
男はもう一人の仲間と追うはずだった政治家を止めて、ミカエルへと標的を変えた。
ピルルル ピルルル
「あれ?ガブだ。」
パパりんの電話が鳴って、耳に当てる。
顔色が、サッと変わった。
『 まずい、写真撮られた。
お前達恐らく尾行されてるぞ 』
電話切って、僕の手を握る。
パパりんの声が、怖いほどに低かった。
「走るぞ、マリン。」
グイと手を引いて走り出す。
後ろで、声がいくつもした。
「な、なんで逃げるの? 」
「週刊誌だ。家がバレるとまずいんだ。
張り込まれてゴミも漁られる。窓はカーテンも開けられない。
洗濯物も干せない。外出するたび追いかけられる。家には盗聴器が仕掛けられる。」
「えーーーー!! マジィ?? 」
「マジマジ! やられちゃったもん。あとは引っ越すしか無いー! 」
「やだああ!! 」
ケーキどころじゃない。
僕らは夜の町を駆け抜け、なぜかブティックの表から入ると裏へ逃げ、まるでスパイ映画のように逃げ回った。
町中走り回って、もー、僕の方がグロッキー
パパりん、なんか逃げ慣れてる。
僕、マラソンだめなんだってば! なんでパパりん、そんな体力あるんだよう!
「パパりん、ぱぱ…… ぜは、ぜは、」
「どこかで休ませて頂きましょうかねー 」
はあはあ、 涼しい顔して、言うなーー!!
何でただのリーマンが、そんなに体力あるんだよ!
ビルの間にサッと入り、警備員さんの通用口に立つ。
なんかのボタンを押して、カメラに向かってなんかささやくと投げキッスした。
えっ?! 投げキッスしたーーー???
「なにやってん…… 」
「しっ、」
ドアが開いて、警備員さんがどうぞと中に入れてくれる。
「助かります。」
「またマスコミですか。オーナーに一応連絡を入れます。」
「ええ、お電話代わります。」
「セラフ…… おっと、坊や、こっちにおいで、きつかっただろう。
トイレは大丈夫かい? ジュースもあるよ。」
「おじさん、大丈夫なの? 勝手に入れて。」
「大丈夫だよ、これはオーナーからも頼まれてるからね。
丁度私の時で良かったよ。」
先にトイレすませてホッとする。
おじさんにペットボトルのお茶もらって、ようやく落ち着いた。
パパりんも隣に座ってずっとスマホでなんか連絡取っている。
「今夜帰らない方がいいだろうって。
どこかに泊まろうか。
ここのオーナーがどうぞって言ってくれたけど、まーちゃんの知ってる人に責任取ってもらおう。」
「え~~、それって~~ 」
あの! 浮気者ーーーー!!
ギリギリ歯を噛みしめて、僕の嫉妬の炎がボーボー
パパりんは住所からマンションを検索すると、意外と近くだよと僕の手を引いた。




