23、ちょっと、普通じゃないパパりん
ホテルのラウンジは、いるだけで大人になった気がする。
静かでガラスの向こうに小さな池があって、噴水が水のダンスのように強弱付けて巻き上がる。
ライトに照らされ、夕暮れ時の紫色にグラデーションの中で、水の玉がキラキラ輝く。
「なんで、泣いてたの? 」
ギターバッグを横の開いた椅子に立てかけて、パパりんの知り合いだというダンディーなおじさんが僕に質問する。
タバコに火を付けて、長い足横に投げ出すと、 あー、おっさんなのにカッコいいじゃん。
そうだ、パパりんはタバコ吸わないなあと、何となく思った。
「恋人が女と歩いてたから。」
「くくっ、キミ男の子でしょ? 」
「腹立つ、LINEも無視してさ。一緒に映画行こうって言ったのに。
こーんなに可愛い僕無視して、こんなとこで熟女の肩にニコニコ嬉しそうに手回してやんの。
超腹立つ~~ 」
おじさん、あーって言って、足組んだ。
「あーー、パパりんの脅しが利きすぎたんじゃないかなー」
「脅したの?! もーーー、やりそう~~ 部下のクセにぃ~」
「あれ? 怒らないの? 」
「やだなあ、障害があればあるほど、恋ってのは燃え上がるものじゃん。
絶対探し出してケツ叩く! 」
ふうんと、コーヒー飲み干して何とも言えない顔する。
まあ、同性の恋なんて、わかんないだろうね。
「パパりん、孫が見たいんじゃないの? 」
「孫か~、孫のために好きでもない子と付き合うってのも不毛じゃない?
子供のために利用された女の子が可哀想だよ。」
「うわー、そこまで言うかな、おじさん罪悪感でごめんなさいって言いたくなるよ。
ドライだねえ、最近の子は。」
おじさん、苦い顔でめっちゃ笑う。
だってねえ、僕の恋愛の相手は男なんだもん。
はあはあはあ、
なんか激しい息使いが聞こえて、あーと思う。
だって、遅くなる? ああそうですか、わかりました。
って言うようなパパりんじゃないもん。
「はあはあ、なんで? なんでこんな時間までうろうろするの?
怖い人に付いてったら駄目って言ったでしょ。どうするの、怖い目にあったら。」
で、やっぱりパパりんだった。
シャワー浴びたのか、髪がびしょ濡れでベージュのチノパンに白T、外出時はマスク着用だ。ダサい。
「えー、俺、怖い人かよ。」
「助かったよ、ガブ。君で良かった。」
「へー、ガブさんって言うんだ。
パパりん、ウザい。僕もう18,成人だよ? 」
「何言ってんの、高2でしょう。まだ保護者必要でしょ。」
隣に座って、パタパタ手であおぐ。
ホテルの人が来て、ジュース頼んだ。
「お風呂入ってたの? 家で? 」
「えー、ジム行ったからジムでシャワー。」
「ウソばっか。」
ジュース、チューッと飲む。
パパりんも、同じグレープフルーツジュース。
はあって、美味しそうにニッコリした。
「ここのジュース、フレッシュで美味しいよね。」
「えー、パパりん来たことあるの? 自分ばっかずる~い。」
「ああ、あ、昔だよ、昔。」
「そうそう、学校の帰り~ 」
焦るパパりんとガブさんが、ウソばっか言いながら、まったく困った子で~とかしゃべり出す。
じゃあ何だよそのギター、
まあさ、自分でもわかってるんだけど、気がつかないフリしてるんだよね。
そう言うの、一切頭の中で消してる。
でも、わかってる。
だって、気がつかない方がおかしいもん。
普通のサラリーマン? はんっ!
じゃあなんで普通のサラリーマンのとこに、音楽著作権協会の封筒があるんだよ。
引き出しにプロダクションの封筒がやたらあるんだよ。
ほんとダッサ、
でもさ、
普通のお父さんでいいじゃない。
ただね、普通の僕は、普通で悩んでる。
僕は必死で洋服に興味持ったりして、ママかパパに追いつこうとしてる気がする。
わかってるんだよ、
本当は、
僕はパパりんの足かせになってる。
だから、早く独立したい。
パパりん、自由にしてあげたい。
一年浪人したの、ほんと無駄だった。
ザンジバル、ほんとは無駄だったんだよ。
わかってる。
無駄な意地ばかり張ってる。
「よーし、上でうなぎ食って帰るか。おごるぞー 」
「えー、高いからいいよ。」
「マジィ?? パパりん、タダでうなぎ食えるじゃん! 」
「えーー、でもぉ~ 」
渋るパパりんに、ガブさんが笑った。
「ははっ! ほんと、パパに比べて、まーちゃんは生き上手だなー」
ガブさんが、ホテルの人に手を上げる。
「お呼びでしょうか? 」
「上の加賀屋でうなぎ食いたいんだけど、個室準備出来る?
ギターの真島って言ってくれればわかる。」
「お待ちください。」
「カッコいい~、パパりんガブさんって、カッコいいよね。」
「そうかなあ、パパりんの方がカッコ良くない? ほら~、足も長いよ? 」
パパりん、ガブさんと同じように足組んで、ムッとしてる。おもしろ~
「ガブさんの方がカッコいいよ~、パパりんダッサいもん。」
「え~~、パパりんショック~ 」
当たり前じゃん、出直してこい。
でもさ、考えてみると、よく家のお父さんの常識で見る、ランニングにステテコで、ビール飲みながら野球観戦とか〜
一切無い。
本当に、家でも一切着崩さない。
ダボダボのスエットパンツ姿とか、見たこと無いんだ。
しいちゃんに言うと、信じられないらしい。
家のオヤジは臭くて脂ギッシュがスタンダードだぜとか言ってた。
僕のパパりんに、その姿を当てはめるのは無理がある。
つまり、いつもどこか緊張した物があって、誰にも見られてないのにピシッとしてる。
変なオヤジ〜
何か美味しそうにジュース飲むと、塗れた髪かき上げてキラキラしてる。
近くに座る女性がずっとこっち見てたので、パパりんと腕組んでピースしたらどっか逃げちゃった。
ほんと、無駄にキラキラしちゃっててさ、
ママ〜、帰ってこないと誰かに取られちゃうよ〜
顔だけはいいんだからさ。




