17、怒りのパパりん
「まーちゃん、パパりんトイレ行ってくるね。待ってるんだよ。
夜だから、一人で帰っちゃダメだよ。」
「うん、」
精算して焼き肉店を出ると、マリルー父がトイレに向かった。
そう言えばこの人、メシ食ってる最中一度もトイレ行かなかったな。
俺2回も行ったのに。
つか、18の男に言う言葉かね? 甘やかしてんなあ。
「雅史さん、今日はありがとう。」
「ひでえ散財だ。これでバイバイだな。」
「今度映画見に行こうよ、僕夏休みー!
旅行でもいいよ? えっちして! 」
「するか、バーカ」
あーーーー!! うちわと巾着袋、渡したいけど、なんかきっかけがない。
「じゃあな 」
じゃあな、じゃねえよ。渡せよ、俺。
俺ってバカ、くるうりと背を向けて、駐車場へ歩き出した。
ショップの袋握りしめて、じんわり手汗がにじむ。
渡すきっかけ、渡すきっかけーーー
持って帰るな、渡すだけだろ、何でできないんだよ。
渡せ! 俺! はよ渡せって! たかがお土産じゃん!
は? お土産?
はああ??
何でこれ以上土産まで買ってんの? 俺、バカですか。うましかですか。
まあ、いいや、明日四季島さんに渡すか。
いや、殺されるかもしれない、面倒くせえから姉ちゃんにやるか……
「雅史さん! 」
足音がして、ぴょんと腕に抱きつかれた。
「あはは、びっくりしたぁ! 僕の名前! 呼んでくれてありがとう。」
微笑む顔が外灯に照らされ、ぱっと輝く。
ストレートの髪がなびくと、反動で顔にかかり、それがひと筋ずつ落ちた。
夜のマリルーも綺麗だ。
「え、うん。」
「お礼のチューしてあげる! 」
ハニーピンクの唇が迫り、ぼう然と見つめる。
「まーちゃん!帰るよ!」
ギスギスしたマリルー父の声が響き、すんでで止まるとちぇっと舌打ちした。
「もー、パパりんったら、恋の邪魔ばっか!
じゃあまたね。
今度海行こうよ、あっ、暑すぎだからプールでもいいな。
僕、水着買いに行かなきゃ。エッチなの。
花火楽しみだね。ほら、浴衣練習してるんだよ。
メグミさんのとこ、連れてってくれるんでしょう?
だいたい着れるようになったら連絡するね。」
「まーちゃん! 行くよっ! 」
「パパりん、うっさい! じゃあね、また連絡するね。」
ぱっと手を放して、マリルー父の元に走ってゆく。
ぷるぷるの唇が目に焼き付いて、唇に指を当てて目を閉じる。
んー、やっぱ感触が違う気がする。
どうせならチューすればよかった。
いやいやいやいやいや
あれは男だから!
あっ! あーーー、とうとう渡し損ねた。
まあ、姉ちゃんとこ連れて行く約束したし。
それに、
プール…… エッチな水着……
いや、男物で、そんな際どい水着は売ってないから。
いや…… マリルーならアダルトの水着、平気で着そうだな。
もやもやと、マイクロ水着とか、それより際どい紐みたいなエッチな水着姿が浮かぶ。
不味くないか? 一人で選ばせたら、プールで大惨事にならないか?
ヤバいヤバいヤバい
どうしよう、四季島さんに言うか。
いや、あのオヤジはちょっと、頭おかしいから心配だ。
でもまた一緒に行くと、俺の財布が全開になってしまう。
ダメだ、もう、一体あいつに何万散財したんだ。
友達には金を使わないという、俺のポリシーがガラガラ崩れ去ってゆく。
そうだ……
なんで俺は友達になってるんだ。
相手は高校生だぞ?
俺は26だ。
年が離れすぎだろ!
「いえ、恋愛に年齢は関係が無いので。」
翌日、日替わり定食チキン南蛮食べながら、今度はひっそり人と離れた席でマリルー父とザンジバル雅史は隣り合ってひそひそ話した。
「何であなた、あの厄介な息子を僕に押し付けようとするんです?
迷惑なんですけど。」
「それは認識が間違っています。付き合っているのかとのただの問いかけです。
厄介物などとんでもない。嫁に行くなら付いて行きたいくらいです。」
「は?! 同性だろ? 結婚できねえっての、バッカじゃないの? 」
思わず声を上げて、視線を浴びる。
最近、四季島と課長が急接近していると女性陣では話題だ。
しかも、話す内容から、ゲイ疑惑が持ち上がっている。
「四季島さんっていくつだっけ? 」
「35くらいだったっけ? 若いよね。
バリバリまじめでいつも眉間にしわ寄せてるけどさ、あの人眼鏡外せば凄いカッコいいんだよ。」
「見た事あるの? 」
「あるよ、レア物だね。見とれて写真撮る暇なかった。
もしかしたら、ダテ眼鏡かも。」
くそっ、そうなのだ。
噂になっているのは俺は知っている。
だが、マリルー父が最近からんでくるのだ。
付きあってないって言ってるのに、分かってくれない。
「だいたい、今は可愛くてもあと10年経ったらおっさんじゃないですか。」
「女性はおばさんになりますね。」
「ぐっ、」
ああ言えばこういうで、返される言葉にトゲがある。
「とにかく、気持ち悪いんですよ、考えてくださいよ。
20年後だって今のままなら、スカート履いた、むさ苦しいただの変態男ですよ、考えるとゾッとする。
男と付きあうとか無理なので、あきらめてください。」
マリルー父が、人さし指を額に当てる。
「私とは、並んで食事をしてますが? 」
「あなたは…… だって、キチンとしてるし。部下だし。」
え? え~~、だって、マリルー父は普通にイケメンだし。
でも、あのチャランポランな息子がイケメンに育つ保証がない。
「ゲイのカップルなんて、俺の頭には無精ヒゲのむさ苦しい姿しか頭に浮かばないんですよ。」
「分かりました、今日は何時に上がられますか? 」
「えっ、今日は定時ですかね。別に問題も無いし。残業は減らせと言われているし。」
「では、ちょっと付き合ってください。お時間取らせません。
息子の将来の話で、誤解されたままだとあの子が傷つくので。
その上で、考えて付き合うかどうかのお返事いただければと思います。」
「えーーー、あなた、息子が付きあうの嫌なんでしょう? 」
「嫌ですが、あなたと行く花火大会を楽しみにして、毎日浴衣の着付けの練習をする息子を見ていると、付き合っていないと断言するあなたの態度がどうにも許せないのです。
分かりますか? この父の悔しみを。
おのれ、おのれ課長。どうして、どうしてあなたなのか。
私は将来、まーちゃんそっくりな可愛い、愛らしいプリティーな孫が見たいのに。
この悔しみを、誰が分かってくれるというのです! 」
ぐぐっと手を握りしめて、どっかで聞いたようなセリフを吐いて立ちふさがる、このイケメンのおっさんからぼう然と目をそらす。
誰か助けて
そうして、俺たちは何故か、定時を終わるとおっさん二人で夕暮れの町へと繰り出す事になった。




