16、焼肉だーーー!!
翌日、7時に指定された店の前で落ち合う。
スーツに匂いつくのが嫌で、ザンジバル雅史は仕事から一度帰って着替えてきた。
ここは複合ビルの中の店だけど、個室なので外で落ち合った方が早い。
ちょっと早く来すぎて、時間を潰して下の階で店をそぞろ歩いた。
和風の小物売り場の前に来て、何となく浴衣を着ると言っていたマリルーの言葉を思い出す。
夏物の小物は、季節ものだからか、3割引のセールになっている。
黄色の矢絣模様に、うさぎのワンポイントの巾着袋を手にしてみる。
薄紫の紐が付いて洒落ているけど、お値段はなかなかだ。
3割引でも4620円。でも、裏もついて手触りも安っぽくなくていい。
スッと、浴衣姿のマリルーが、この巾着袋を下げた姿が浮かぶ。
ババッと手で払ってフッと苦笑いした。
『 可愛い! 可愛い大好き! 』
マリルーの笑顔が、どんっと脳裏に迫る。
うわぁ、やめてくれ!
俺なんであいつに貢ごうとか思ってるわけ?
もう30万のバッグ取られたじゃん
ポイと巾着袋戻し、店を出ようとして竹うちわが目についた。
何となく、柄を見てみる。
すでに売れたのか、富士山とか、風神とか、なんか外国人が好きそうな柄しか無い。
ふと、朝顔のうちわが一枚残っている。
「あれ? これ涼しそうでいいな。」
パタパタ顔をあおぐと、いい風だ。
1000円か~、まあいいや
精算に中に入って、後ろ髪引かれ、また巾着袋の所に戻る。
「あ~~~、う~~~~ん。あーーー、、」
ねえ、買ってよ、いいでしょ?
なんで俺がお前に買ってやるんだよ。
心の中で、マリルーとの戦いが始まる。
戻せ戻せ、なんであいつのために? もうお前何万使ったよ。
せっかくタバコやめて金に余裕できたのに、なんで使うにしても男なんだよ。
そうだ、あいつ、男なんだぞ? ど~せ使うならさ~~ もっと、
買 っ て !
雅史さん!
「 はぐぅっ! 」
駄目だ、全敗だ。
胸を押さえて息を付く。
仕方なく、握ってレジに向かった。
おかしい、俺はなんでこんなに財布の紐が緩いんだ。
あいつの顔が浮かぶと、スッと緩む財布がおかしい。
この財布、何か呪いにかかってるに違いない。
帰ったら財布を変えよう。
マリルーが、レストランエリアでエレベーター下りるとザンジバル雅史を見つけて元気に手を振った。
「雅史さーん! 」
マリルーはジーンズに黒いTシャツで、走ってくるといきなりザンジバルの腕に飛びついて行く。
マリルー父がピキッとなったので、慌ててそうっと腕を引き抜いた。
「課長、付き合ってるんですね? 」
「付き合ってません。」
「ねー、雅史さん、今日はありがと!食前のキスぅ~ 」
マリルーが、空気読まないでキスしようと迫ってくる。
うおおおおおおお!!
俺は全力のイナバウアーで逃げた。
「やっぱり付き合ってるんですね? 」
「付き合ってないから! 」
「もう、ザンジバルって、意地っ張りぃ~ 」
「いいから、食いに行くぞ。」
サッと歩き出すと、腕を組んでくる。
引き抜いても、またバシッとホールドされて、もう諦めた。
後ろからギリギリ視線が重い。
「ねえねえ、雅史さん、ここお高いでしょ?
大丈夫? 無理してない? 」
「あー、俺はここの株持ってるから割引券持ってるんだ。」
「株ぅ~~! パパりん、聞いた? 株だって! 」
「ああ、凄いな。ここの業績落ちてるのに。」
ドスッといきなり矢が刺さった。
株価落ちてるから売れなくて持ってるんだよ!
くそっ、
「余計な世話だ、最近持ち直してる。
それより優待がお得なんだ。それだけで持ってる価値がある。」
ふふっ、持たざる者にはわかるまい。
3人ともノンアルコールビール飲みながら、ジュウジュウ肉焼いて食う。
ひたすら食う。
マリルーがちょっとしか肉焼かないので、ほとんど生で食おうとする。
「ダメだ! ちゃんと焼いて食え! 」
「やだあ、ザンジバル焼き肉奉行じゃん。
僕は生が好きなの~、ユッケなくなって寂しい~ 」
「ダメだ! 生はな、当たると死ぬんだぞ!
知人がひどい目に遭ったんだ。ちゃんと焼いて食え。」
「パパりん、ザンジバルがいじめるう~ 」
くねくねしてイヤイヤするけど、これだけは譲れない。
「おごって食中毒では、課長の立場が困るんですよ。ちゃんと焼いて食べなさい。」
「え~~、でもぉ~ 」
焼けすぎて真っ黒に焦げた肉は、父が食った。
マリルーは、ちょっと肉乗せてサッと取ろうとするのを、ガッと箸突き立てて死守する。
仕方ない。こうなったら奥の手だっ!
「マリンが俺のせいでお腹壊すの、耐えられないんだ。頼む。
俺のために、ちゃんと焼いて食ってくれ。」
真剣な顔で訴えたら、キャーーーって、足をバタバタする。
「パパりん聞いた?! 雅史さんが僕に愛の告白した! 」
「ちょ,待てっ! 」
そうっと父の顔を見る。
ぎりぎり唇を噛みしめ、ぐっとノンアルビールをあおるとドンとグラスを置いた。
「息子は嫁にやらんっ! 」
「息子は嫁に行けないから! 」
「僕、雅史さんのために、ちゃんとお肉焼いて食うね! 」
「よし、もう何でもいいや、とにかく焼いて食え! 」
「うん! おいしい! ほら、焼いたぺらっぺらのキャベツ、雅史さんあーんして! 」
「誰がするか! 」
「やっぱり付き合ってるんですね! 」
「付き合ってません! 」
「にくぅ、肉足りないよぉ、雅史さん! 」
くっそ、
タッチパネルで肉を頼んでいると、マリルー父がぼそっと言った。
「海鮮、頼みます、野菜も。エビは車海老でお願いします。」
「僕、ほたて! エビも! 特大で! 」
はぁ??
「くっそ、高いものばかりじゃねえか。親子でたかりやがって。」
「ハラミとサガリ! ねーねー、特上! 」
「うるせー! ガキは黙って食え! 」
あーーーー、ビール飲みたい。




