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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
第三章 婚約(仮)編

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 ──いつもの天井。いつもの部屋、いつもの面子。

 いつも空気。ではなかった。


「やりにくいんですけど……」

 支宣が、ボソッと呟く。


「……殿下。そんなに気にするなら御自分が行けば宜しいのでは?」

 凛花が、少し呆れた顔をしてむくれっ面の御仁言う。


「行くのは構わん。で、何で凛花、お前が奴の採寸をしておる?」


「仕方ないじゃないですか。誰かさんのせいで、皆侍従衆は朝からてんてこ舞いなんですから」


「誰かさんって……。にしても他におるだろ。そうだ! 貞舜は? 貞舜に変われ!」


「母様も朝からあっちの手伝いに駆り出されておいでです!!」

 凛花が、キィーッと声の主を睨む。


「宣、北の大地はどうだ?」


「殿下!!」


「変われ。凛花」


「は?」


 どうしても自分以外の男性の身体(襦袢の上からであるが)触るのがお気に召さなかった殿下は、こともあろうか、自分が支宣の採寸をすると言い出した。


 何故このような事態になっているかと言うと、話は少し遡る。


 支宣からの頼みで、凛花は先の皇后陛下、現在は奥の院に篭っている「皇太后殿下」に面会の申し出の手紙を出した。傀儡である今上帝でも流石に立場上、天子様に物申せる者は、実母である彼女しかこの国には存在しなかった。


 そんな中、()()()を頼む目的で、面会の申し入れを入れた。

 その返事が、今朝届いたのだ。


 ただ、今回も「面会日」は三日後の二時。何故か、直ぐに来いと言う香瞬皇太后陛下。

 皆が慌てているのは、このせいだった。

 今回の謁見は凛花だけでなく、支宣も一緒だったからだ。


 この支宣と言う男、皇弟の側近だが役職的には無冠だった。実際には、大臣が事実上二人しかおらず、一人は帝の側近で執事のような存在。残り一人は国防と、全国民の盾となり護衛となる者の長。とても税制や法の制定、福祉他まで手は回らない。

 その殆どを皇弟と、支宣の二人で采配している。


 無冠であったため、礼服のような物を一枚も持っていなかったのだ。

 しかも元服してまだ一年。元服の際に着た正装は、既に小さくなっていて着れなかったのだ。


 そんな中、何故、凛花が支宣の採寸を行っていたかと言うと。


 本来なら仕立て屋を宮に呼んで採寸し、布地やデザイン他をプロと相談し作ってもらうのが普通だが、今回は極秘裏の行動。しかも無冠の男の正装着を宮内で仕立て屋を堂々と入れては、目立ち過ぎる。

 で、侍女衆の中の「針子」担当者が召集されたが、如何せん日にちが無いので採寸しながら、生地の裁断、縫い始めと同時進行で行っていた為だった。


「そもそもさぁ。お前食い過ぎだろ。だから、たった一年前の服が着れないんだろ」

 光殿下が支宣の、ちんちくりんになった服を、扇子でつつく。


 扇子で物をつつかない! 凛花は軽く光の君を睨むが、当の本人はお構い無しな様子で、今度はクルクル何やら扇子で絵を書くような素振りだ。

 外では絶対見せない子供のような顔を、たまに此処で見せる。

 その回数が最近増えたような気がするのは気のせいだろうか?


「成長期なんです」


 支宣が小さな声で呟いた。


「凛花、貸せ」


「え? 本当にやるのですか?」


「俺じゃ不満なのか?」

 少だけ怪訝な顔を浮かべる。


「いや、そうではないですけど……」

 凛花は思った。()()じゃないから! と。


 ──この会話を側で聞きながら、たった一人だけ頬を赤くして、そわそわしている者がいた。

 ただし、その顔を見て余計に殿下がイライラしたのは、言う間でもない。


「てかさぁ、お前礼服一枚も持ってなかったのか?」


「……そのような暇が何処に?」


「……惟光の責任だな!」


「何でそうなるんですか!!」

 凛花が殿下を睨んだ。


「じゃぁ、為継(ためつぐ)か?」

 ここにいた全員、侍女衆も含め、あんたのせいじゃ! と思っていても、そこは誰も言えなかった。


「とりあえずこれが完成したら、それと同じ型で、春夏秋冬の正装、宴会用、外出用、平装を二着づつ仕立てとけ。請求は俺のところにまわせ」 


「……殿下、そんなには必要ありませんが……勿体ないですし」


「お前が、もう少し背があればなぁ、俺のを着れば良かったんだけどな」


「……無理で御座います」


「だよなぁ流石に、大きすぎるだろうしな」


 ()()じゃないから!! と 全員が思ったのは言う間でもなかった。


「竜胆の紋が入っている衣に袖を通せる訳がないじゃないですか……」


「うーん? 見ればわかるだろ? 借り物なんだな? って」


 そこではない! と、()()皆が思った。


「とりあえず、これで良いか?」


 上衣の採寸が何とか終了して、紙を侍女に渡した。


「そう言えばお前、烏帽子って持ってた?」


 !!!!


 全員が沈黙になった。


「頭の大きさなら少々問題なかろう? 俺のをやるわ!」


「殿下! 滅相も御座いません。そのような物を戴く訳には参りません」


「失礼だなあ? ちゃんと紀恵が干して綺麗に保管しているぞ? だから綺麗だ!!」


 そこじゃない!! と、再度、全員が心から叫んだ。


「ついでにコレやるわ」


 そう言って先程まで、小さくなった支宣の元服時の正装をツンツンしていた扇子を軽く、支宣に投げた。


「竜胆も菊も入ってない。昔、俺が描いた絵だ。支宣任せたぞ」


「はっ! この身のある限り。尽くさせて頂きます!」

 珍しく、殿下が「支宣」と省略せずに呼んだことに、呼ばれた本人以外誰も気付かなかった。



 その夜、支宣は一人寝る前、何度も扇子を開けたり閉めたり、描かれた絵を指でなぞったりたり、

 そして、寝所で()()と添い寝した。







注)支宣の恋愛対象は女性です。

単なる、殿下教の教祖様なだけです。

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