1.婚約
第3章に突入です。
ついにプロポーズ。
期限まで残りあと1年となりました。無事ゴールインできるのでしょうか?
引き続き二人を見守ってください。
──「ねぇ母様、今日はあっちで泊まって帰ります?」
「そうねぇ? 一応そのつもりで着替えを持って行っておくかしら?」
貞舜はそう言いながら、衣装箱に上等な正装着をこっそりしまった。
あれから四人で話し合った結果、宮殿内でするよりも、外の方が人目も避けれるし良いだろうと「会場」は元住んでいた料理屋「一休」で執り行うことに決まっていた。
まさかこんなところで皇弟殿下が、正妻との結婚の挨拶を義両親にしに行くとは、流石に誰も思わないだろう。そもそも、そんな高貴な方が宮廷内から外宮とは言え、市井の飯屋に現れようとは。
まぁ二回目ではあったが。
「凛花、これに着替えて頂戴。お客様がいらっしゃるから」
「え? そうなんですか? 母様? 父様?」
そう言えば二人ともいつもより、豪華な衣? 母様は紅も引いている。
◇
日も暮れて外が真っ暗になった頃、市井の籠屋が店の前に止まった。
籠を担いでいたのは右大臣中将中尉と、その腹心。後ろから護衛が数名と、付かず離れず四方八方に籠を護る李俊の手の者達と、皇太后付きの護衛が数名。
町衆の格好をしているが皆、眼光は鋭い。国内最高の諜報機関の結集だった。
中将が辺りを確認し籠の暖簾を開ける。
直ぐに周りを取り囲み店の中へ入った。
ここまでは手筈通りだ。
料理屋の隅々壁の中、天井裏、畳の下、入れる所全てに、李俊と貞舜の手の者がいつでも飛び出せるように待機していた。
「お待ち申し上げておりました」
そう言って李俊が奥の部屋へ案内する。
「殿下?」
凛花が小さな声で呟いた。
長身の男は静かに腰を落とし軽く李俊に会釈をする。
その後静かに畳に座り、頭巾と外套を取った。
「待たせたな。凛花」
その声は優しくもあり、力強い。
髪を束ね烏帽子の中に入れ、衣は上下漆黒の正装姿。
脇には御印の宝剣を帯剣していた。
何事?
凛花だけが、この異様な風景に頭の中で?? が何個も回っていた。
「李俊様、貞俊様、ご息女凛花様との結婚のお赦しを頂きたく馳せ参上しました。夜分になったことをお詫びします」
え? 今何て言った? け、結婚?!
「仰せの通りに、御心のままに」
李俊が畳に頭をこすりつけるほど頭を下げた。と同時に貞舜も頭をこすりつける。
「どうか、宜しくお願いいたします」
え? えええ?
どういうこと???
「頭をお上げください。父様、母様」
「その呼びはご勘弁ください、殿下」
二人は頭を下げたまま言った。
中将こと惟光と、支宣の兄弟が酒の用意をし皆に杯を配る。
「では、僭越ながら乾杯の音頭を~~」と惟光が杯を掲げた。
『乾杯』
え?
「凛花、まさかとは思うが一応聞く、断るなら今だぞ?」
「断っても宜しいのでしょうか?」
「おい!」
「……すいません」
「俺の嫁になってくれまいか? いかなる時も全身全霊でお前を護ると約束する。生涯お前以外の者を余は絶対娶らんことを、此処に誓おう」
『言ったーーー』 皆が心待ちにしていた言葉だった。
「凛花? 凛花? ちょ、ちょっと大丈夫?」
鳩が豆鉄砲くらってしまったようだ。
貞舜に肩を揺すぶられ、ハッと我に戻る。
「お、お前。聞いているのか? 俺はお前に結婚の申し入れをしているんだぞ? 我が妻になってくれと言っているんだぞ? ってこれでもまだ、足りないのか? まだ分からないって言うのではないだろうなぁ?」
『殿下……いくらなんでも、そこまでは……』
『そこまで鈍感では流石に……』
両親と、左大臣家の兄弟、その腹心数名、この場に呼ばれた限られた者達の声がした。
「で? 返事は?」
光様が真っ直ぐ私を見つめた。
「本当に? 良いのですか? 私で?」
「お前が良いのだ」
私はその言葉に涙が出てしまった。
両親を見たら、二人共泣いていた。そして側にいた、惟光様も。支宣様は背を向けて鼻をすすっている。
そんな中、光様は私をそっと抱き寄せ、衣の袖で隠すように、そっと口づけをしたあと、耳元で呟いた。
「俺の側を一生離れることは許さない。必ず幸せにする」
と。
そして私も、小さな声で呟いた。
「私が幸せにしますから!」と。
──その後軽く宴会を開いた。その席で今後のおおまかな流れの話し合いを行った。
現状を考えると内々での婚約であり、正式には来年の新年を迎えた頃に正式に発表すると決まった。
皇室の成婚は、新年やおめでたい時に行われることが基本的には慣例だそうだ。
それまでは、私が色々と危険なことに巻き込まれることを一番に心配した光様が、今日のことは箝口令を敷いた。
そして念のため私にも、壁さん達が常に護衛に付くと言われたのだった。
光様の御身分を考えたら仕方ないとは思うけど……
少し複雑な気持ちはあったが、私のせいで皆に迷惑をかける訳にはいかないので、ここは黙って従うことにした。




