6.世話の焼ける御人達
ついに。光の君が動き出す。
次回はついに二人の関係が急展開。
──約束の時間より少し早かったが、支宣はある人と一緒に待っていた。
凛花の母である貞舜だった。
何故一緒に連れてきたかと言うと、彼女にお願いしたいことがあったからだ。
伽羅の薫と共に何処からともなく待ち人が来た。
宮殿内の東屋の一室。
彼は頭から頭巾をすっぽり被っていた。
互いに扇子で口元を隠し、小声で会話する。
「彼女についてですが、泣いておいででしたよ?」
そう言って、支宣が頭巾の人を睨む。
「は? 何でだ?」
「何をされたのですか?」
「何もしてない! ってこともないが……」
声を少し荒げたあと、はゴニョゴニョと誤魔化した。やはり、強引過ぎたか……と、珍しく反省していた。
『ぇ?』
想定外の答えに二人は思わず声が出た。が、直ぐさま周りを確認する。
「いや、心配するような事は何もない。何もしてない、ちゃんと途中で思いとどまった」
「誰もそこまで聞いてはおりませぬ」
支宣は続けた。
「ちゃんとその後、伝えましたか?」
「何を?」
馬鹿なのか? こいつは? と、支宣は頭巾の男に呆れた。
それなら彼女の涙の意味も理解出来る。まぁ本来はそれだけでも良い女は数多だが、彼女は、それらとは違う。
「正妻として迎えることをです」
「言ったぞ?」
『え?』
言ったんかい!! それでも涙??? 皇后になるのが怖いのか? 嫌なのか?
ただ、まだ皇后になるとは決まってないわけで……
そこまでは殿下も話してはないよなあ? お覚悟を決められた風ではあるが、まだ明らかには御言葉にされてはおられぬし。
「失礼ですが何と申したのか、お尋ねしても宜しいでしょうか?」
「いずれ貰いに行く。と、ちゃんと伝えたぞ?」
「それって未遂の後ですよねぇ?」
支宣は顔色一つ変えずに、冷静にたずねた。
「……未遂ってお前。お前のせいで踏みとどまるしかなかったんだぞ? そもそも、それがお前の狙いであったろ? そのせいで俺は……眠れぬ夜を……」
ゴニョゴニョとその後小声で言っている主を無視して支宣が言う。
「それは、側女ではなく正妻として迎えられる御方なら当然で御座いましょう」
何言ってるんだ? この人は? と支宣は言いたげな顔をしていた。
「だから、踏みとどめたんじゃないか!」
「お声が……」
男二人の声の大きさが大きくなりつつあることに、貞舜が釘を刺した。
「そんな言い方したら、生娘の初物を頂きにいつか行く。って思われても仕方ないじゃないですか? ねぇ? 母様?」
「……その意も込められておいでのようですが」
「貞舜!」
頭巾の男はたまらず再び声を荒げる。
「良いですか? 今上を知る者は普通は一人きりとは思いません。側女や遊女の一人と考えるのが普通の女性です。身分の違いから」
「余は今上と同じではない!」
「そんなこと信じれるとお思いですか? 言葉にされたとて、身分の差を考えたら簡単に信じれるとお思いですか?」
「……だから、俺は幾度となく伝えたし、顕にして来たぞ? そもそもあの簪でわかるだろ? 印の宝剣も授けておるぞ?」
「……執務室の金庫の中に後生大事に保管されております」
申し訳なさそうに貞舜が言った。
「嘘だろ? 鳳凰の意匠の宝剣ぞ?」
「そもそもが彼女は后教育、妃教育を一度も受けておりませぬ。後宮にすら足を運び入れたことはございません。外国からの帰国者と聞いております故、我が国の事情は全く知らぬようですが?」
「は?」
「そもそも、普通の年頃の女子ならあの簪を手に取る勇気は御座いませんよ? 衣も然り。全く動じておりませんでしたし、それどころか凰の入った衣をあの娘は敷いて寝ておりましたからねぇ」
「鳳凰柄の衣に、袖を通す重みすら理解していないと思いますが?」
支宣は、至極当然と思いピシャリと言った。
「嘘だろ?」
そう言って頭巾の男は項垂れていた。
「誠に申し訳御座いません。私の育てが……」
「で、どうします? 彼女に后教育しますか?」
「いや、それは要らぬ」
「ではどうやって本意を?」
「真っ直ぐに伝えたつもりなんだがなぁ」
頭巾の男は肩をがっくり落とした。
「婆さんの許可も出たことだし、正式に迎える準備をするかな」
『ではついに! お立ちに?』
二人は目をぱちくりしながら声を揃えた。
「それはまだだろう? もう少しちゃんと根回しをする必要があろう?」
「でもお立ちになるのですね?」
支宣が低い声で真っ直ぐに頭巾の男を見た。
「来春を目指す!」
公式ではないにしろ、初めて明確に御自身から時期をはっきり言われたことに二人は驚いたのと同時に、長年の悲願に自然と二人は頬から伝う冷たい雫を拭いながら、肩を振るわせた。
拭っても、拭っても溢れ出る雫を、声を漏らさぬように歯を食いしばることで精一杯だった。
「──付いて来てくれるか?」
「天地神明に誓って地獄の果てまでも」
「御子様誕生以来とうにそのつもりで御座います」
「里の者を上京させる準備を」
「はっ」
「今度は期間があるぞ? 最高級を準備しろ」
「先だってのでも十分最高級ですが?」
支宣はいつもの返しだったが、その声は弾んでいた。
「朱雀は?」
「其方に引き籠もって頂く予定だ」
「鳳凰に?」
「ああ」
「では、恙無く」
「で、どうします?」
「どうとは?」
「いや、元々そっちの話で」
支宣は頭巾の男に真面目にたずねた。
頭巾の男は、深く息を吸い一度目を閉じ、再び空を仰いだ。
「貞舜よ。席を一席儲けよ」
「明日、貰いに行くぞ」
「御意」
そう答えた貞舜の顔には涙が一杯で溢れそうだった──。
第二章(完)
今回で第二章(完)になります。
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