9.学者肌
──「で、なんで護衛が「結」の方なのだ?」
光様が、目の前に居る兄妹に呆れ顔だ。
そうこの兄妹、少しだけ普通と違うのは、女児の「結」の方が武芸に秀でていて、体力、運動神経どれを取っても明らかに男児である「信」よりはるかに上だったのだ。
惟光様の部下である、軍の者達とも同等に剣を交えることができる程の「脳筋」だったのだ。
「まぁ……侍女が剣の腕前が達者なのは、ある意味良いけどな……で、信の方は?」
光る様が惟光様に聞く。
「……宣よりかと」
皆が少し残念そうな顔をした。
「いや? ね? 支宣様を毎日お借りする訳にも行かないし、それはそれで助かるし?」
「凛花それ、慰めになっておらんぞ」
「……」
「剣術は得意ではありませんが、御方様の為なら如何なる修練をも耐えてみせます! この命を掛けて御護りします故。何卒仕えさせて!! 下さいませ」
信と名乗る男児は震えながらも、しっかりした強い意志を感じさせる口調で私の目を見た。
「信。顔を上げなさい。しっかり御努めしなさい」
「はい! お妃様!」
「……信」
「あっ!」
そう、あの後、支宣様が来て私の今の身分を概ね伝えたのだ。
今後の警護上の問題と、側近にも近い状態として勤めさせる「結」には、いつまでも隠しておくことは得策ではないと考えられたからだ。
ただし、厳しい条件がそこには付けられた。生涯において私と光様の赦しなく関係を他言しないこと。
禁を破った場合は、親族諸共、赤子に至るまで処刑の対象にする。と、一筆入れられていた。
その刑は、主夫妻に対しての謀反行動も然りであった。
「で、信の試験の結果は満点に近かったと聞きましたが?」
私は二人の兄である、裕進様に聞いた。
「恐れながら、一問のみの間違えでありました」
「ほう? 答案紙はある?」
「ただいま!」
そう言って、裕進様が執務室を後にした。
直ぐに戻って来て、片膝をついて私に答案紙を差し出す。
──これって慣れないんだよなぁ……私は光様の方を見る。光様は黙って首を横に振る。
臣下との区別をちゃんと付けるためとは言え……
複雑な気持ちを抑え、差し出された答案用紙をめくる。
不正解とされていた問題の解答が気になったからだ。
それは最後に一問だけ私が付け加えた問題。
そこにあったのは私が期待していた通りの正しい解答だった。
相対性理論──
見つけた!
タイムトラベルを心から信じている訳ではない。
ただ何故あんな現象が起きたか? 私は何者であるか?
帰りたいと思うのではなかった。
両親には会いたいとは思っているが、突然私が姿を消して心配していないだろうか? と、心配もある。
同時に、向こうの世界にはまだ私は存在していて普通に生活しているのでは? など、未知への迷想は広がる。答えの無い道だった。
ただ、自分に起きた現象を知りたいと思うのは欲張りなんだろうか?
問八、物の長さは何処にいても変わらず等しい。また、時間の経過も同じく等しい。
信の答えは否だった。
否の理由「高速で移動したら、時間の進みは遅くなる」
期待以上だった。
「信、楽しみだわ」
私は誰にも聞き取れないぐらい小さな声で呟いた。
──「妃様、本日の御予定で御座いますが、午前に三木堂店主との会合、午後から御前会議後、皇太后殿下への贈り物の品決め、その後は文和堂との新作の打ち合わせが御座います」
私の侍女となった「結」はあの後しっかり侍女教育を「左大臣家侍女軍隊」よりみっちりしごかれた。二週間の泊まりがけでの「行儀見習い」と聞いていた。
帰って来た「結」がゲッソリしていたのを見て、私達は察した。
左大臣家を守る「国内一の鉄壁脳筋侍女軍隊」と、光様に仕える「国内最高峰、容姿端麗叡智教養侍女軍団」の何方に行きたいか? を選ばせてやったら、左大臣家を選んだのは彼女自身だったので、皆何も言わなかったが、全員の目は泳いでいた。
そして信は、残った叡智軍団に同じ期間住み込みで「研修」に行ったのだが、此方は随分と楽しかったようで? 今でも休みの際は顔を出しているという。
将来はこの子には、学者になって貰いたい。と私は思っている。
支宣様には、代わりに誰かまた探して貰おう。




