sideroad✦でも忘れないで △
ぎしりとベットが軋む音が薄暗い部屋に艶めかしく響いた。
「ぁ、ダメ…です…今日は わたし…、が」
「ん、なんだ…随分健気な事をいう」
「…ぁ…ン、…ぅ」
つい、と顔を上げさせられ深く口づけながら優しく刺激してやればびくんと体が揺れて舌を残して唇が離れる。追いかけて息を奪いながら容赦なく白い身体を愛してやると観念したのかそっと力を抜いて委ねてきた。そのまま全身をつつみ込むように抱き締めれば、逆らう事も出来ず身を任せていった。
「今日はどうした」
「いつも貴方ばかり…、たまには私も触れたいだけです」
「お前に触れているだけで俺は充分満たされる、お前は愛されていればいい」
「…一方的なばかりでは…嫌なんです」
少ししゅんと目を伏せるキースに心が凪いでゆく。
「…ふ…、困ったな、俺はお前なら何でも可愛いらしい」
「ん…」
抱きしめられながらキースが微睡むのに愛おしげに髪を梳く。早く自分のものにしたくて焦って事を進めすぎた自覚はある。子供からも引き離し、籠の鳥のように閉じ込めて、自分だけを愛せと無理やりさらってきたようなものだ。
「眠いか…、寝てもいいぞ」
「ステラさま…」
「うん…?」
「寝たくないです」
「そうか、では何か飲むか」
「…ん」
身体を起こすと当然のように口付ける。ちゅ、と目元にも唇を落としてから軽くシャツを羽織るとベッドを降りて少し離れた茶器のそろったテーブルへ向かう。彼の『神の手』で何でも引き寄せられるのだろうが、彼は出来るだけ自分といる時は人の様に振舞った。
「何がいい」
「ミルク多めのコーヒーを…」
「ん、珍しいな」
「…眠いから」
「くく、無理をせず眠ればいいものを…ッ、と」
そっと裸足のまま忍び寄ると肩をはだけさせて大きめのシャツだけを羽織り、後ろからステラの腰に腕を回して背に頬を寄せる。足がおぼつかないのかふらりと体重をかけてきたのに少し心配になって手を止めた。
「嫌です…」
「なんだ、今日は我儘だな…?」
「我儘を言えって…、おっしゃいました…」
「確かにな」
「……ごめんなさい…」
「うん…?どうした、随分甘える」
「…お慕いしています…」
カチャリとポットをテーブルに置くと、片手にカップを持ったままもう片腕でキースを抱え上げた。
「…ッ ぁ…ッ」
咄嗟に首に腕を回して抱きついた。そのままベッドへと運ばれてやさしく降ろされると当たり前のように唇が降りてくる。
「また朝まで抱き潰されたいのか…?」
「ぅ…ダメ…、です」
「まったく…、お前と居るとたまに自分がただの人間になったような気がする」
「ご冗談を」
温かいカップを『熱いぞ』とことわってから渡すと隣に座りまた胸へ抱き込む。
「お前に焦がれ、愛して…、何でもない言葉に心を揺らして…身体を重ねてお前の存在を確かめる」
「ふふ…、恋人…と言うものなのでしょう?」
「お前だけが愛しい…」
「私は…」
ふと息子の顔がよぎる。人であるあの子は今の自分よりも先に逝くだろう。彼に愛されるまでは自分の全てだった。いや、今でもステラとは違う愛をそそいでいる。
「無理をするな、まだお前は人としての繋がりがあるだろう」
「そんな…」
「ふん、すぐに俺だけになる」
「本当に…、傲慢なんですから」
こくりと熱いミルクコーヒーを口にしてほぅと息をつく。『美味しい…』と小さく呟いて無意識に薄く微笑んだ。
つい、と指先で頬をくすぐるように撫ぜるとキースが気持ち良さそうに目を細めた。
「ふふ、くすぐったいです…」
「お前がいなかった時間をもう思い出せない」
「あんまり…私を自惚れさせないでください、怖くなります」
「何が怖い、お前の憂いは全部俺が取り除く」
「このままで…ずっと変わらず貴方の心がこのままでいてくださればそれだけで…」
すり、と擦り寄るのにそのまま体全部で包み込む。
腕の中でふうふうとカップに息を吹きかけ少しずつ自分の入れたコーヒーに口をつけるのを飽きることなく眺めていた。けして幼く見えるわけではないのに小動物のようだな、と思いながら邪魔をしないように髪を弄んだり軽く唇を寄せたり。
ふ、と悪戯を続ける自分に顔をあげて少し考える仕草をしたかと思うとそっと唇に触れないもどかしい場所にキスを返してきた。
「どうした」
「…飲んでしまわないと…貴方の好き放題されるままだなぁと…」
「くく、慌てなくていいぞ、ゆっくり飲め」
「私も…、悪戯したい」
「なんだそれは」
「貴方ばかりずるいです…」
またゆっくりコーヒーに口をつける。こくりと嚥下するたびに熱いため息をつくのが愛しい。こてりと胸に頭をもたせかけて一休みを始めた。なんだこれは、今まで自分に触れる体温という物自体が無かったせいか慣れないのか、邪魔をしたい衝動を抑えるだけで精一杯だ。
ちら、と視線をあげるのに目が合う。
「悪さをしたい顔をして…」
くすくすと笑う顔に触れたくて すり、と指で撫ぜる。
「我慢しているだろう」
「飲んでしまうまではダメですよ」
「分かっている、ゆっくり飲め」
「造り変えられたせいでしょうか…以前ほど貴方に対して畏怖の念がなくなりました」
「怖かったのか」
「ふふ、それはそうです。どんなに恋い慕おうと貴方は遥か高みの…、恐れ多くて…怖くて」
「見えなかったぞ」
「今は…、ただただ傍にいたい…」
頬を撫でる指に唇ではむ。ちろ、と舌先で舐めて軽く噛んでやると唇を撫でられそのまま頬を包まれた。
「愛して…」
「……傍にいろ」
「……ン…」
コーヒー味の口づけをしながらキースの手から空のカップを取り上げるとサイドテーブルに置いた。
かくん、と意識を失いじわりと重くなる身体を抱きしめ髪を撫でてやる。そのまま支えてやりながらベッドに横たえてやればことりと枕に沈む小さな頭が力ないのに心配になった。
天使の身体なのだ、病魔にも怪我にも縁遠い。だがこんなにか弱く見えては心配になる。
「…強請られてつい愛したが…、少し控えるべきか」
何よりも大切なのだ。
傷つけることなど今はもう考えられない。
隣に身体を滑りこませ、意識のない身体を抱き寄せると大切に包みこんでやる。身体に負担になるのならばこんな行為はする必要がない。
キースの方が何よりも優先させる大切なものなのだ。
くたりと身を預けてくる額に、目元に口付けて無表情なくせに心配そうな表情を滲ませる。
「キース…」
優しく唇を落としながら呼吸を確かめれば乱れた様子もなくすやすやと聞こえてくるのに安堵してもう一度大切に腕の中にしまい込む。
力が入らない身体をくったりとシーツに沈めているのに物足りなさを感じたが、自身が無体を働いたのが原因であって我儘なのはわかっている。だがキースの意志で自分に擦り寄り眠る姿が堪らないのだ。
少しだけ思案したかと思えば指先に小さな冷気を宿してそっと耳元へかざしてやると冷たさにもじりと身を震わせて胸元へとすり寄ってくる。
きゅ、とシャツの胸元へしわを寄せて指先を埋めるのに満足して抱きしめ直した。耳元を撫でていると小さく呻いてキースが意識を浮上させる。ゆるりとまぶたを開けるのにひとつ唇を落とした。
「大丈夫か」
「ん…、ぁ…すみませ…、ん…。意識を飛ばしていましたか…」
「身体がツライなら…、控えるぞ」
「ふふ…、私が強請ったのに」
「…人間はよくわからんな…、こんなにしてまで愛し合うのか」
「……、その…」
「ん、どうした」
「…よく…、ありませんでした…か」
「そんなわけがない、お前以外考えられない」
不安そうに胸に頬を寄せてくるのに苦笑する。ちゅ、と軽く唇をあわせて撫でてやると少しだけ甘えるように身を寄せてきた。
「俺のことはいい、お前に負担ならと思っただけだ。そもそも神に身体の交わりは必要ない、こうして触れ合えれば充分満たされる」
「そう、なのですか…」
「なら、お前は主達が交わりあってると思うか」
「ぇ…、ぁ…」
思いがけない言葉に頬を染める。そう言えばそうだった。あの方たちは触れ合う時間すら稀有なのに。
「まぁ、交わろうと思えば可能なんだろうがな。俺は、お前が俺に愛されてるとその身に分からせているだけだ。だからツライなら無理をする必要はないぞ」
ただただ、身体にいい行為とは思えなかった。
心拍や脳内、血流の状態を見ても抱いている最中のキースの中はめちゃくちゃだ。どんな病魔に侵された重篤患者の身体よりもひどい有様なのだ。心配にならないはずがない。
「貴方には…必要なかったの、ですね…」
「…キース、違う。泣くな」
「泣いてません」
「違う。誤解はやめろ、お前が悦ぶのもお前を愛する快感も知らなかっただけだ。人の愛し方をやっと…ただ、知らなかっただけだ。だがお前に負担が大きく見えて心配している」
「ふふ…、貴方が…?」
胸に抱き込んで必死に弁明するのがおかしい。この誰にも膝をおらない神が。
「お前にだけだ…、抱いてもいいというなら幾らでも愛してやる。ただ…、意識を飛ばす程負担なのではないかと思っただけだ」
「……、…貴方に求めていただけるのが嬉しくて…、悦んでいるだけ…です」
「…必要無いわけがない…、お前の中に入る充足感は何度味わっても至上の幸福だ」
「……そういえば、また悪戯なさったでしょう」
「何のことだ」
「惚けて…髪が不自然に冷たいですよ」
「…気の…、いや…。少しだけ…だ」
「本当に…、悪い人ですね…」
「お前にしかしない」
「…、狡い事ばっかり言って」
もごりと言葉を濁しながら髪に口付けて誤魔化す。ステラらしくない態度に首を傾げながら好きにさせていたが何となく思い当たって確かめてみることにする。
「なんで悪さしたんです」
「む…、悪さのつもりはなかったんだが…」
「ステラさま?」
「甘えるお前が愛しかったからだ」
すぐに答えてくれるのが可笑しい。嘘をつかない、隠し事をしない。ステラはほんの僅かでも嫌われる事が、失望されるのが我慢できないとそれだけは守ってくれる。
気怠い身体を腕に預けてステラの好きにさせていると飽きることなくあちこちに口付けるからくすぐったい。ふとなにか気配が変わったな、と視線を上げればステラが何処か言いにくそうに口を開いた。
「…………………、キース」
「はい、どうしたんです」
「…お前の子は元気か」
「…ぇ」
抱き寄せて額に唇を押し当てながら憎々しげに言うのに吹き出してしまう。
「ふふ、無理なさって」
「してない…」
「全部貴方のものです…、一緒に行きますか?」
「…、妬きそうだから…いやだ」
「可愛い事おっしゃって、でも忘れないで、貴方が今はあの子の母ですよ」
「……………。」
くすくすと笑うとそっと唇が届く場所に触れてみる。
不満そうに額から離れると、くちびるへともう一度触れ直された。
久しぶりの幕間ですが、手慰みに書いていたいちゃつき短編の再編です。なんかたまに書きたくなるけど投稿出来ない短いのがたくさんあるのです…(笑)
営みの最中の身体の中云々は昔ちらっとみた洋画のドラマだか映画だかで医者役の俳優が言ってました。最中の人間を検査なんてしたことがあるのだかわかりませんがそうらしいです。
✟人物一覧✟
✙シエル・シャン・アラルエヴィ〈月の雫✧セリス〉(175歳 雫*約700万歳)
✙アッシュ・レイル・黒耀〈太陽の左目✧アルフ〉(175歳)
✡セリス〈月の女神〉(約35億歳)
✡アルフ〈太陽の男神〉(約35億歳)
✡カイダイ〈光の神〉(約45億歳)
✡アイン〈闇の神〉(約45億歳)
✡ステラ〈星の神〉(約35億歳)
五大元素精霊
地✧ラインヴァルト
水✧リリィローズ
火✧ルーファウス
風✧レンブラント
空✧ロックハート
光の国(ギリシャ)
✡✥クロード・リ・シャーナ・アルラム・カイダイ♂
❀キース・フェルディナンド・リーフ(23歳 侯爵:賢者&精霊使いSS)→明けの明星(ルシフェル ブロッサム公爵:天使)
❀ルシア・セレスティア・バァンズ(ルシア・セレスティア・カサンドラ:キースの姪 ステラの妻)
❀ソレル・セドリック・リーフ(現在4歳 次期侯爵)
❀フィオラ・ラウル・カサンドラ(侯爵家当主 キースの姉 37歳)
先々代
✡✥ルシウス・リ・シャーナ・ハインツ・カイダイ♂
先代
✡✥リディア・リ・シャーナ・エイヴェル・カイダイ♀
闇の国(ロシア)
✡✥ベリル・リ・ナン・ナリュール・アイン♂
✡ステラ・ラグナ・バァンズ(執事→大公)
✡ステラ・ウェヌス・ブロッサム(ステラ・ウェヌス・バァンズ:ステラの妹 キースの妻)
先々代
✡✥ダフネ・リ・ナン・リデュール・アイン♀
先代
✡✥ノエル・リ・ナン・エドワード・アイン♂
アレクサンドラ・アリア・シルバーウッド(伯爵家長女)
シュレン・ザック・シュナウザー(近衛師団副団長 辺境伯家次男)
セージ・レレイ・カーズ(ステラの後任 執事長)
魔導師筆頭補佐
イヴリン・ターナ・オルティス(伯爵家次女 宮廷魔道士第五小隊長)
エルダン・ザック・ガウリー(伯爵家次男 宮廷魔道士第三小隊長)
シャルル・フェム・シルヴェスター(伯爵家次男 18歳 宮廷魔道士第八小隊長)
エラリア・ムーア・リーガル(子爵家長女 18歳)
マティリア・リル・カーティス(侯爵令嬢 19歳)
ココ・ファニー・スカイラー(侯爵家長子 25歳)
フュリー(リーガル家侍女→ルシア専属侍女)
スザンヌ(シルバーウッド家侍女、アレクサンドラの乳母)




