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小さな吟遊詩人は過保護な剣士と旅をする  作者: 七音(ななお)
里帰り

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新生宮廷魔道士団

「一撃でいい、胸の花に魔法を当てろ」


風の中に浮き軽く腕を組んだまま指先で魔力を弾いた。


「え、…ッうあ……ッ」


一瞬で飛んできた小さな風に胸の花を散らされたシュレンは構えた姿のまま呆気にとられる。


「油断だぞ」

「は、申し訳ございません…!」


試験者に視線を移し何もない空間を蹴って結界に軽く触れるとパリンとガラスが割れるように結界が散った。ストンと地に降り立つ二人に試験者達が目を丸くする。


「この結界は魔法に触れるとこうして砕ける。外して結界を砕いても失格、近衛騎士の身体に傷つけても失格だ、当たらないように自分でコントロールしろ。騎士達はこの自由のきかない中で胸の花を守る、攻撃はしてこないが弾くし避ける動く的だ。やってみろ」

「チャンスは3回差し上げます。いきなりは難しいでしょうから、一度でも成功すれば合格としましょう。近衛の皆さんは散ってください、半分ずつでいいかな」


シエルが両の手のひらを天へ向け軽く広げると胸の前に4つの四角い箱が現れる。


「試験者と近衛騎士、一人ずつ4組前へ出ろ」


アッシュがシエルの横へ立ち促せば、一瞬迷っていたココが真っ先に前へ出た。それにならったのか何処か見覚えのある男女が一人ずつ。あと一人がなかなか出ないためくるりと見渡しゆっくりと心の中で10(とお)数える。


「よし、他は失格」

「「えぇぇ!!」」


黙って迷っていた残りの試験者が合わせたように声を上げた。


「…?試験を受けたくないのだろう、ならば失格だ。塔へ戻り身の回りの荷物を整えろ」

「そんな!補佐官様それはあまりにも!宮廷魔道士団に我等は必要不可欠です!そのような短絡的なご判断は浅慮が過ぎます!」

「必要ない。戻って荷物を片付けろ」

「そん、な…」

「悪いな、手伝いは3人ずつ交代で頼む。シュレンも合わせて6人か…ちょうどいい、やれるか」

「「はッッ!」」

「なんだ、じゃあ結界も3つですね」


シエルの胸の前に浮いていた小さな箱の一つを指先で軽くはじくとパリンと砕けて改めて試験資格を失った事を知らしめられた。せっかく城中を走り回り小鳥をやっとで捕まえてきたと言うのに一瞬で何もかもを失ったのだ。呆然とその場にへたり込み5人は何もない宙空を見上げるしかなかった。


アレクサンドラは一連の2人を見て考える。

一片の情も私情も感じない、先程まではそんな風には見えなかった。少なくとも何の縁もゆかりもない自分に身の安全のために傍で仕事をしろと言うのがあまりにも荒唐無稽で何の冗談かと思っていたほどなのだ。

だが、今こうして見る彼らは政に関して非情だ。ならば自分には何故。

答えは簡単だ、心からそ(・)う(・)思っているということなのだろう。

本当に彼らの大切な人のために己の全霊で助け、役に立ってほしい。そしてそれがお前にはできるだろう、と言っていたのだ。


「身が…、引き締まる思いです…」

「おや、わかってくださいましたか。やはり貴女は聡明ですね」


笑う雰囲気と共に両手を広げると、3つの結界が練習場にそれぞれ2人ずつ飲み込んで大きく展開された。中にアッシュの風が満たされ壁ギリギリまで渦巻き体を浮遊させる。


「準備は出来たか」

「はい!」


ここにきてやっと残った試験者達に後がないのだという実感が理解できたらしい、顔つきが変わった。


「始め」


対峙する3組6人を静かに見上げて見守る。

まだ初めだからと言うのもあるがお互いに身体を安定させ対峙することに精一杯のようだ。

まず火の魔法が得意であればなかなか難しいだろう、風を巻き込んで結界に触れやすい。

地か水の魔法で安定させるか、同じ風でうまく相殺させるか。空の魔法が一番楽に足場を作れるだろうが使い手が圧倒的に少ない。

見たところ女は水、あとの二人は地の魔法で何とかしようとしているがアッシュの風の方が強くなかなかうまくいかないようだ。


「苦戦しそうかな」

「時間制限は設けていない、力尽きて結界に落ちるまで無制限だ。根性あれば何とでもなる」

「ふふ、優しいのだか意地悪なのだか」

「別に、やる気さえあれば他の者も落とさなくてもよかったんだ」

「まぁそうですけどね、ぬるま湯に慣れすぎて彼らは使い物になりません。鍛えなおしていただけるように配置しないとね」

「奴らの家にもペナルティがいるぞ」

「アレクサンドラ嬢、貴女の最初のお仕事になりそうですよ」

「ぁ…ッえぇ…わたくし…ですか」

「頑張ってください」

「…つとめます……」


くるりと周りを見渡して落ち着ける場所を見つけるとシエルがスタスタと移動してさっさと座ってくつろぎ始めてしまった。


「終わったら教えて、どうせ今残ってる3人は落とすつもりはないのでしょう」

「…というか、このルールでここまで残って落ちる方が難しいだろ」

「まぁね」


シエルが軽く欠伸をして伸びるのを見てアッシュがさり気なく隣に座って肩を貸す。さらりと髪を撫でると気持ち良さそうに笑う気配になんだか恋人同士のような2人だなと思いかけて余計な詮索だと頭から打ち消した。

しかし、魔道士と剣士の対峙だと言うのに何だか分からなくなる光景だ。何せ対峙したどちらも魔法力は大差なく見える。むしろ必死に当てようとしている魔道士達の方が格下にさえ見えてくるのだ。


「そういえば、先ほどの『誹謗罵倒』と言うのはどういうお話でしょうか…」

「あぁ…、ふふ 少しはどちらも自覚されると良いのですけどね」

「あれだけサボっていたら力もつかんだろう。これから学ばせればいいさ、彼奴等がちゃんとな」

「はぁ…」

「自信のない剣士達の自信回復と、実力の足りない魔道士達の鼻を少し折っただけです。何事もバランスというものは大切ですから」


こつりと肩に頭をもたせかけてウトウトし始める魔導師長様をチラリと視線の端に見てとても一人で全ての仕事をこなしている大賢者さまに見えないなぁと思う。だがあれ程の精巧な、物理だけを弾く大きな結界を複数同時展開させるなど、通常ならば見たこともない、実力は明らかだった。


「や…った…!」


2回目のチャレンジでココが真っ先に騎士の花を散らした。

遅れて女が、3回めギリギリでもう一人の男が試験をクリアしたようだった。最後の一人が結界を割って地に降り立つと、疲労からかガクリと膝をついて大きく息をつくのにゆっくりと歩み寄ってアッシュが声をかける。


「よかろう、よくやった。貴様ら3人を引き続き宮廷魔道士として認める」

「新しい魔道士達は改めて編成します、君達はあくまで宮廷魔道士の一人です。今までのような権力はもう無いと思ってください」

「はい!」

「そしてこちらはアレクサンドラ嬢。僕の筆頭補佐…、と言ってもアッシュを置いてはいけませんので一人城に司令塔を置きます。彼女には司令塔からの伝達をお願いしますので覚えておいてください」

「アレクサンドラ・アリア・シルバーウッドです、どうぞお見知りおきを」

「アレクサンドラ嬢、よろしくお願いいたします」


つい数刻前に見た、ただただ可愛らしく着飾っただけの姿とは随分とかけ離れた美しい目をするココにアッシュが薄く笑った。


「なんだ、ちゃんとお(・)前(・)ら(・)し(・)い(・)顔(・)ができるんじゃないか」

「…ぇ」

「その方が美しいぞ」

「……アッシュ」


一瞬で全身を紅く染めるココを見てシエルが呆れたため息をこぼした。本当に毎度この男は女…、と今回は言ってもいいのかわからないが無自覚にたらし込むのだ。


「あ…、ありがとう…ございます」

「ァ、アッシュ様…!」

「ん…」

「私も…、私も何とか残ることができました…!どうか、どうか…また…!」

「……あぁ、おまえは」


やっと見覚えのある顔を思い出した。

塔を案内してくれた、正直面倒臭いと思っていたから大して顔も見ていなかったが意外と根性はあったらしい。そしてもう一人の男はこの訓練場で初めて会った時に女と一緒にいた男か。


「改めて名を聞こう」

「イヴリン・ターナ・オルティスにございます」

「エルダン・ザック・ガウリーと申します」

「まだまだ力不足は否めんが、これから精進すればよかろう。励めよ」

「今までの自分を恥じます。どうかまたご指導を…」

「分かればいい。シュレン、ご苦労だった。戻って休め、ベリルに特別手当を頼んでおく」

「いえ、とんでもない。我等もよい訓練になりました、どうかいつでもお呼びください」


騎士達にも向き直り労う、シエルに視線をやり後を促せばニコリと目が笑みに細まった。わざとらしく前へ出ると作った声で仰々しく話し始めるのに少しおかしくなったアッシュがさり気なく後ろを向くのにあとでお仕置きだと心の中で思う。


「改めて、ようこそ宮廷魔道士団へ。部隊はこの後すべてが一掃されます。新たな隊員は後日派遣いたしますので、三日差し上げます。今まで在籍していた団員達と塔を綺麗に片付けてください。団員達にはその間に新しい斡旋先を検討しますので大人しくお掃除していて下さい」

「かしこまりました」


ココが答え、2人が一緒に頭を垂れる。


「アレクサンドラ嬢、貴女にはこれから三日団の整理のお手伝いお願いしますね。今通っている勤め先にも連絡頼んでおかなければ。その間に少し体制を整えますから、とりあえずはこちらで過ごしていてください」

「はい、承知いたしました。一度今お世話になっていた上司に挨拶だけは伺いたいと思うのですが…」

「構いませんよ、今日の残りはそちらの整理をしてきてください」

「ありがとうございます」


「では僕達は報告に戻ります、あとは任せますね」


ふわりとローブを翻すとアッシュがその身体を包み込む。そのまま抱きしめたかと思うと一歩踏み出した瞬間にその姿は風にかき消えた。



「あの方が…、本当の魔導師長様と筆頭補佐様なんだな…」

「ココ様、ご存知だったのでは」

「…もう様はやめろ。これから俺達は対等だ」

「う…すぐには難しいです」

「それでも慣れてくれ。俺は、あの方が美しいと言ってくださる俺になりたい」

「ぇ…、ココ様…も…?」

「何だ、お前もか」


あははははッと一瞬の間の後笑った。

こんな筆頭補佐は見たことがない。


髪もドレスも何もかもがめちゃくちゃなのに

今日は 何て 可愛らしいのだろう。





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