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小さな吟遊詩人は過保護な剣士と旅をする  作者: 七音(ななお)
里帰り

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再編成

「えらく悪ぶるじゃないか」

「ふふ、そう?あまり優しい顔しても効かないかと思ってね」


あの後しばらく放心していた筆頭はのろりと頭につけていたレースの飾りを無造作に取り去るとゆっくりと頭を下げて金髪の男と扉を出ていった。欲まみれの強欲な貴族達と同じには見えなかったがおそらくは魔道士達の家からそれなりの金は受け取っていたのだろう。

アッシュを求める様を見る限りは金欲と言うよりは愛欲、とでも言うのだろうか。地位や名誉は欲しがらなくても、自分の好きなものを手に入れるためにはやはり金がいるといったところか。


「真面目に留守を守ってさえいればここで不自由なく働けたでしょうに」

「まぁ、嫌な匂いはそこまでしなかったな」

「おや、そうなんですか」

「…まぁ、飢えてはいそうだ」

「成る程、可哀想?」

「は、まさか。俺がお前以外にどんな小さな感情も向けることはない」

「ふふ、知ってるけど。世間一般的な意見くらい言ってくれても構わないんだけどな」

「…人間共がどう思うかもわからん」


主のいなくなった塔の最上階の部屋で籠の小鳥の声を聞いていた。いい天気だ、長閑な空気と可愛いさえずり 優しい風が頬を撫ぜる。ぎしりと一人掛けの椅子の背もたれがきしんだ。

せっかくのこんな良い日におそらくは多くの若者のこれからの人生というものを変えてしまった。


「作り物の人形のように、皆真面目に勤勉に働く者ばかりでは人間らしさというものがなくなってしまうのでしょうけどね」

「真面目な人間達の人間らしさを無視するのもダメなのだから仕方ないだろう」

「あはは、まぁそうだね」

「あの甘えたガキ共はどうするんだ」

「性根はたたき直さなければなりませんがお勉強は出来るのでしょうから政務官になれそうなものは見習いにでも放り込みましょう。地方にも人員は必要です、殆どは外に出すことになるかな。今のようなお茶を楽しむ時間は休日だけにしていただきます。ただ人数が人数ですし、一応魔道士の面接もしてあげようかな。残れるものは残してちゃんと仕事を割り振らないとね」

「頭が無ければ手足は動かないぞ」

「そうだなぁ。兄さまに統括なんて出来ないでしょうし、…ルシア様にお願いできないかなぁ。どうせ実務は兄さまが片付けるんでしょうから書類決済と時々様子伝令に指示くらいなら許して欲しい」

「まぁ、能力も問題無いし慣れていそうではあるな」


珍しく行き当たりばったりなことを言うシエルの顔を椅子の背中から覗き込むようにして伺う。何も考えていないと言うよりは『大したことじゃないから楽しむか』といったところか。


「その体じゃ何処にもいけんからつまらんのだろう」

「僕だって一応自覚はしてるんですよ。何がいいのだか、誰も僕を知らないくせにみんな僕を欲しがる」

「とっくに俺のものなのにな」

「はぁ、違うよペットくん。君が僕のものでしょう」

「はいはい」


覗き込んだまま笑って顔を上げた額に軽く口づけた。


「あまり子供を虐めるつもりはありませんよ。ただ怠け者には少し教育が必要ですね」

「どうするんだ」

「ホントはここでルシア様にお手伝いいただきたかったのだけど、兄さまに釘を刺されたしなぁ。仕方ないから一般常識のありそうな方を誰か探しましょうか」

「今のこの国には特に知り合いもいないぞ」

「じゃー…、作りますか」






❀❀❀






「どういうことなの…」


定期招集会で突然の宮廷魔道士団の解散が告知された。前に立つ筆頭魔道士はいつもの姿ではなく、宮廷魔道士のローブを羽織り化粧もしていない少し幼い素顔でそれを発表した。

魔道士団の解体だなどと寝耳に水だ。この重要な国家機関を解散だなどと王は何を考えているのだ!

何より…あの方と同じ隊に所属しているという繋がりが再会を前に絶たれるのだ。そんな…、そんな事信じられなかった。


「宮廷魔道士団が解体だなんて、この後私達はどうなるのですか!」

「宮廷魔導士長、シエル様からのお達しがあった。まだ現状では解体の知らせしかいただいていない。その後のことは追って沙汰があるだろう」


シエル様!

やはりあの方が魔導師長様だったのだ。

イヴリンは震える両手を抑えるように組んで先の不安よりも何よりもあの眩しい人に二度と会えなくなるのではないかと言う絶望と恐怖に耐えることしかできなかった。


「そんな…、アッシュ…さま…」


さわめく子息子女達がどうしたら良いのかただひたすら不安をお互いに口にするだけで、手を挙げて進言する訳でもなく不満や意見を告げるでもない。どこまでも大人になりきれていない子供らを、わかっていて敢えて囲い込んでいた自分の愚かさを改めてココは実感する。


確かに自分は夢の中にいた。


家を出されてスカイラーではなくなった。一代限りの領地も持たない今の任を頂き、貴族とは違う自由な身となって勘違いを起こしてしまった。

ここは自分の王国だと。家臣達を好きに選んで、侍らせて、少しの我儘と支配。家の束縛から解放されて自分は小さな塔の王様だった。

実は王のいぬ間に王座にこっそり座っていただけのただの道化でしかなかったと言うのに。

あぁ、こうなっては積まれた金品も返し、各貴族の愚かな親共にも頭を下げねばなるまい。最初はどの家のタヌキだっただろうか。

今この塔には八部隊、各25〜30人の子息子女が在籍し、表向きは古代の魔道書の解読とその実際の行使の実験を日々行っている…事になっている。

殆どは日に数刻古書を、読めないから眺めてあとは茶を飲みながら世間話をしているだけの高慢な貴族の集まりだ。

自分を絶対視させる為にあらゆる洗脳じみた講義もしてきたかもしれない。

少なくとも国の為に働いたことは無い。

まずそれがあってはならないことだった、そしてそれを理解した上で自分はのうのうと猿山で暮らしていたのだ。



「騒がないで、君たちには一度だけこの部隊に残るチャンスをやろう」


突然 塔の上、彼処は宮廷魔道士長補佐ココの部屋のベランダだった。皆が一斉に振り返り塔を見上げて澄んだ声の主に声を失う。


「今日の午後、宮廷魔道士に残りたいものはテストを行います。近衛騎士団の訓練場へ集まりなさい。希望しないもの、テストに合格出来なかったものには各自他の任を与えるべく斡旋は行う。そう、ちゃんとしたお仕事をね。アッシュ」

「…、チッ」


アッシュ様…!

ベランダにゆっくりと姿を表したのは今想いのすべてを捧げている愛しい男だった。イヴリンがふらりと一歩足を出すのに軽く支えてやりながら少し切なげに隣にいたエルダンは眉を顰める。

塔に現れたフードを深くかぶった男が小さな小鳥を乗せた手をゆっくりと皆に見えるように差し出して低く、さほど張り上げているわけでもないのによく通る声で言った。


「…今から三刻のちまでにこの小鳥を捕らえて訓練場まで連れてこい、それが試験を受けるための試練だ。放つのはこの小鳥から生まれた風の幻影、魔力を追え。城からは出ない、簡単だろう」


チチ、と小さくさえずり籠にいた小鳥が掲げたフードの男の手の甲から肩へと飛び移ると同時にベランダから白い約100羽程の小鳥たちが一斉に飛び立った。

あぁ、その容貌はフードに隠れてほとんど見えないが、その中を知っているイヴリンにとってはその仕草、声、立ち居振る舞い全てが光り輝き小さな胸を高鳴らせる。


わ、と魔道士達が散り散りに飛び去る小鳥達を目で追った。城の中だけとはいえ広大すぎる敷地に目眩がする、がイヴリンにとっては追わないなどという選択肢はなかった。


「行け、鳥達は目で追っても見つからない。籠に捉えようとしても捉えられない。魔道士だろう、その魔力を駆使しろ。健闘を祈るぞ」


甘えるように肩でフードの男の頬に頬ずりをする小さな小鳥を優しく指で撫ぜながら宣言すると魔道士達は小鳥を追って駆け出した。


「…お前は行かないのですか」

「え…」

「ココ・ファニー・スカイラー。お前にとっても最後のチャンスですよ」

「……俺にも…、そのチャンスを与えてくれるのか」

「必要なければ追わなくていい」

「…貴方の慈悲に感謝する」


ココはぐっと歯を噛み締め意を決すると、ローブを翻して駆け出していった。まだ腹の底まで腐ってはいなかったことにシエルが薄く微笑む。


「化粧などなくとも、人は美しくなれるというのに。何を背伸びしているのだか」

「お前が言うか」

「…なら君は僕の見た目だけを愛しているの」

「分かっていて試すな」

「君の一途さは…、本当に美しく、愛しいよ」


笑ってアッシュの肩の小鳥にそっと白い指を差し出すと、誘われるように可愛らしく飛び移ってくる。籠の扉を開けて中へと戻して部屋の中へと鳥籠を運び込んだ。

可愛らしくさえずる小鳥に誰かを思い出す。

今も閉じ込められたままの自分と同じ顔をした悲しい女神を、そして同時に200年前の自分自身を。


「君がいなければ、僕は籠から出ることも叶わなかった。それが僕が想う全てではないけれど…」

「お前は、自由がよく似合う」


ヴェール越しに頬を撫でられ今の自分の幸福を改めて実感する。


「それでは彼らの試験の準備でもしましょうか」

「あのおかしな洗脳を解くにはちょうどよかろう」

「ふふ、何気に少し面白くない顔してましたしね」

「…ふん」






❀❀❀






一斉に空の風が動く気配に見事な赤毛を手で押さえて仰ぎ見る。


「…白い小鳥……?なんであんなにたくさん」


話にだけ聞いていた魔道士達の塔から白い小鳥の群れが塔を中心に飛び立った。群れだと言うのに同じ方向ではなくすべての方向へと散り散りに飛び立つのに首を傾げてアレクサンドラは印象的な金の瞳を瞬かせる。

キラリと陽を反射するその瞳の輝きに、1羽小鳥が惹かれるように舞い降りてきてチチ、と肩に飛んで来たかと思えばそのままそこに落ち着いてしまった。


「えぇ…どうしたの君。ご主人様がいるんじゃないの…野鳥には見えないと言うか…ンン…?」


肩に降り立っているというのにそこに爪が食い込む痛みも小鳥の重みも感じない。そっと指で撫ぜようとすれば羽毛の感覚はあるのにさらりと溶けるように指先を滑って消えていった。


「困ったな、塔の方から飛んできたし魔道士様が飼ってる使い魔かしらね。仕方ないからお届けしようか」


もうすぐ小休憩の時間だし、城の中を少しだけ散策したいと思っていたのだ。あまり踏み入れたことのないエリアへ行く口実ができたかな、と鮮やかな赤毛を風に揺らしてのんびり塔へと足を向けた。






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