7.エルシー
子どものころから、フレイヤが大嫌いだった。
フレイヤがやってくるまで、「はくしゃくれいじょう」のエルシーは、母の屋敷でただ一人の「おじょうさま」だった。
なのに「こうしゃくれいじょう」のフレイヤは、エルシーよりもえらいのだという。
おまけに、フレイヤが来てからというもの、大人たちはみんなフレイヤばかり褒めるのだ。
実際、勉強も礼儀作法も、刺繍もダンスも何もかも、エルシーはフレイヤに敵わなかった。
「いいのよ、エルシーちゃんは。フレイヤ様みたいにならなくても」
当時まだ田舎の女伯爵に過ぎなかった母は、いつもそう言っていたけれど。
誰かがフレイヤを褒めるたびに、エルシーは悔しくてたまらなかった。
いつか、フレイヤよりもエルシーのほうがすごいしえらいと言われたい。
そして、そんなエルシーを見て、フレイヤはうんと……うんと……。
――うんと惨めに、うんと不幸になればいい。
幼かったあの日から、十年以上の時が過ぎた。
アリスターと二人、オークス領に向かう馬車に揺られながら、エルシーは隣に座るアリスターの横顔を、今さらのように観察する。
銀髪碧眼、完全無欠の王子様。
その肩先に甘えるようにすり寄れば、すかさずアリスターの腕が伸びてきて、唇を深く奪われる。
「あん。駄目よ、アル義兄さま」
抗いながらも、フレイヤがこの姿を見たらどんな顔をするだろうと思っただけで、エルシーは全身の血が沸きたつくらい興奮した。
『ねえ、アル? あたしが手伝ってあげましょうか』
あれはまだ三人が王立学院に通っていた頃のこと。
エルシーがアリスターをけしかけて始めた「お遊び」に、アリスターはすぐに夢中になった。
ルールは簡単。
フレイヤの前で、アリスターとエルシーがわざとお互い気のある素振りを見せること。
フレイヤは子ども時代からわかりやすくアリスターに夢中だった。
そんなフレイヤをわざと冷たくあしらって、その反応を楽しむことはアリスターも時たましていたけれど、それを明確な遊びに仕立て上げたのはエルシーだ。
もちろん、エルシーの心づもりでは、最終的には自分がアリスターの妻に――将来的にはこの国の王妃におさまる予定だった。
そうなれば、エルシーはこの先ずっと玉座からフレイヤを見下ろしながら、フレイヤが一番欲しかったものを手にした自分を見せつけられる。
なのに、まさか母の結婚で、アリスターと義理の兄妹になってしまうとは――。
(いいえ。それだって何かしら方法はあるはずよ。アルと私に血の繋がりはないのだし。何より――)
「……んっ。もう、そんなこと……駄目だってばぁ」
アリスターに身体のあちこちを弄ばれながら、エルシーは自分の左手に目をやった。
その薬指には、見事な細工の指輪が――アリスターの瞳と同じ色をしたサファイアの指輪が嵌まっていた。




