11.ドリン
「ふざけるな!」
バン! と肉厚の掌がテーブルを叩き、卓上の皿やグラスが跳ねた。
「魔物が邪魔なら冒険者を増やせ。道がないなら掘ってでも作れ。あそこにお宝があるこたぁわかってるんだ。何をぐずぐずしてやがる!」
「そう簡単にいくなら、誰も苦労はしないんですわ、ドリンの旦那」
――ノヴァク伯爵領、領都サラベス。
高級娼館〈瑠璃唐草の雫〉の一室で、一人のドワーフと冒険者ふうの男が向き合っていた。
ドワーフはドリン。だらしなく着崩した絹のガウンから、毛むくじゃらの胸とたるんだ腹肉がのぞいている。
背後の大きなベッドでは、全身痣だらけになった人間の娼婦が何人も、ぐったりと目を閉じて転がっていた。
「最深部の手前に厄介な封印が施されてましてね。冒険者ギルドの腕利きの魔導士でも歯が立たないんですわ。やっこさんが言うにゃ、あの山の一族でないと解けない仕組みになってるそうで」
ドリンは「チッ」と舌打ちした。
「ダンカンの奴め。手こずらせやがって」
迷宮化したヴァルカニアから魔物を一掃した暁には、ドリンをヴァルカニアの主とする。
王妃の伝手を使って王室に食い込み、石炭を売って儲けた金を王宮中にばらまいてきたのは、ひとえにその約束を得るためだった。
ドワーフの価値は鉱山で決まる。
ドリンガムで採れる石炭は、人間どもの間でこそもてはやされているが、ドワーフにとっては屑石も同然だ。だからドリンガムは「ドリンの集落」「ドリンの村」に過ぎず、その主であるドリンもせいぜい村長どまりだった。
それに引き換え、ヴァルカニアは汲めども尽きせぬ泉のような宝の山であり、始祖ヴァルカンの子孫たるダンカンは、押しも押されぬ王の中の王だ。
「しかし、くそっ。ダンカンの一族か……」
ドリンガムの炭鉱で、ヴァルカニアを追われたドワーフたちが大勢働いていたのはすでに過去のこと。
噂によれば、彼らは南のオークス侯爵領で新たな鉱脈を見つけ、ダンカンはまたしても鉱山の王になったらしい。
(どこまでいっても癇に障る奴だ)
ぎりぎりと歯噛みするドリンに向かい、正面に座る人間の男――サラベスのギルドマスターは揉み手をした。
「ところで、その一族の人間、いやドワーフなんですがね。この前、うちのギルドにそれっぽい奴が登録しまして」
「何だと?」
「実をいうと、今日もここに連れてきて、外で待たせてるんですが……」
「馬鹿野郎、それを早く言わんか。呼べ!」
ややあって現れたのは、痩せて薄汚れた一人のドワーフだった。
異臭の漂う身体には元の形もわからなくなった襤褸をまとい、同じ襤褸布で片目をきつく縛っている。
ドリンはしばらくの間、鼻の頭に皺を寄せ、そいつをじろじろ眺めていたが、やがて何かに気づいたように笑いだした。
「これはこれは! 誰かと思えばローガンじゃないか。どうした、ダンカンの腰巾着はやめたのか?」
「……ドリンさんよ。この俺に向かってそんな口をきいていいのか?」
ローガンの唇はひび割れ、その声は掠れていた。
「ヴァルカニアの封印を解きたいんだろ? だったら、それ相応の扱いをしてもらおうじゃないか」




