第2話 髪型
ある日、髪型を変えた琴子に対して、蒼は自信満々に語りかける。
「ふっ……、なるほどな。今日は一段と中性的な魅力を引き出すスタイリングだな。わざわざそんな手の込んだカモフラージュをして……、やっぱり君も、男の娘としての見せ方を色々と考えているわけだろ?」
自分の推理が完全に的中したと言わんばかりのドヤ顔を浮かべる蒼。しかし、そんな熱のこもった勘違いに対し、琴子は相変わらずおっとりとした柔らかい笑みを崩さない。
「うふふ、そう見える? 髪型一つで印象って変わるから、ちょっと工夫してみたんだよ。ねえ、蒼くんはどう思う? 私のこの姿、そんなに男の娘っぽく見える……?」
小首をかしげながら、むしろ楽しむように見つめ返してくる琴子。その無邪気なアプローチに、
「周りの女子生徒を見ろ! お前ほど美しいのがいるか? 故にお前は男の娘に違いない!」
蒼は教室のざわめきをよそに、なおも熱っぽく自説をまくし立てる。先ほど指さしたモブ女子生徒の方を再び振り返り、自信満々に琴子へと詰め寄った。
「あれが、さっき言った『普通の女子』だ。なぁ、冷静に考えてみろよ。クラスの視線を一瞬で釘付けにするその圧倒的な顔立ち、透き通るような肌、そしてどこか儚げな佇まい……。どう考えても、一般的な女子の枠には収まらない。『美の暴力』とでも言うべきそのクオリティが、普通の高校に自然発生するわけがないんだ!」
蒼は人差し指をピシッと琴子に突きつけ、これ以上ないほどの真剣な眼差しを向ける。
「つまりだ、君ほどの美貌とスタイル(正確にはフラットな胸元)を両立している人間が存在するということは、生物学的な意味ではなく、高度な『仕込み』や『界隈の技術』の結晶でしかない……! だから、お前は男の娘に違いないんだよ!」
自分の完璧なロジックに酔いしれる蒼に対し、琴子は相変わらずおっとりとした笑みを浮かべたまま、ゆっくりとまばたきをする。
「うふふ……。蒼くん、そんなに真剣に私のこと考えてくれていたんだね。なんだか少し、嬉しいかも」
「っ……! は、話をそらすな! 俺は真面目に論理的な考察を述べているんだ!」
頬をわずかに赤らめつつも、必死に「男の娘フィルター」という名の防衛網を死守しようとする蒼。しかし、その必死な姿こそが、琴子の面白がり心をさらに刺激してしまうのであった。




