第3話 夢?
廊下ですれ違いざま、あるいは席に座る琴子をちらりと見やった桐生 蒼は、ふと足を止めて鋭い視線を向けた。
「ん、少し痩せたんじゃないか?」
蒼のその唐突な一言に、白雪 琴子はきょとんとした表情で小首をかしげる。
「えっ? そうかな……?」
「そうだよ。ほら、輪郭が一段とシャープになった気がするし……それにただでさえフラット……いや、スマートだったシルエットがさらに洗練されているじゃないか」
言い淀みつつも、蒼の脳内では猛スピードで「男の娘フィルター」を通した分析が稼働し始める。
(くっ……! やはり持久走や生徒会業務のハードワークに加えて、体型維持のためのストイックな食事制限まで行っているというのか……! 男の娘としての美しさを極めるプロ意識の高さには脱帽せざるを得ないが、あまり無理をして体を壊されてはこっちとしても気が気じゃないぞ……!)
どこか真剣に、そして心配そうな(しかし盛大な勘違いに基づく)眼差しを向ける蒼に対し、琴子はふんわりと柔らかい笑みを浮かべた。
「うふふ、心配してくれてるの? でもね、ご飯はちゃんと食べてるし、毎日元気いっぱいだよ。蒼くんこそ、最近ちょっと考えすぎて目の下にクマができてない……?」
桐生 蒼はその言葉を聞いた瞬間、ガタッと勢いよく自分の椅子から立ち上がり、顔を真っ赤に染め上げた。
「なっ……! なんだと……!?」
頭の中では、毎夜のように悪夢(あるいは煩悩の具現化)として現れる琴子の姿がフラッシュバックする。涼やかな笑みを浮かべた琴子が、不可解かつ圧倒的な「男の娘のシンボル」をこれでもかと見せつけてくるという、精神を狂わせるような夢の数々。
(くっ……! まさか、俺の深層心理の防衛網が、夜な夜なあいつのペースに完全に屈しているというのか……!? いや、違う! あれは脳が勝手に作り出している悪質なトラップだ、絶対に真実なんかじゃない……!)
動揺を隠しきれず、冷や汗をダラダラと流しながら琴子を指さす蒼。
周囲のクラスメイトたちが「え、急にどうしたのあの男子……」とドン引きした視線を向けていることも、今の蒼の視野には入っていない。
一方、当の白雪 琴子は、蒼の激昂した反応を目の当たりにしてもなお、おっとりとしたマイペースな笑みを崩さなかった。
「うふふ……。ねえ、蒼くん、そんなに私のこと考えてくれてるんだ? ……なんだか、ちょっと光栄だなあ」
小首をかしげ、どこか楽しそうに目を細める琴子。
その無垢で破壊力抜群の一言に、蒼はさらに頭を抱え、絶叫に近い声を上げるのであった。
「ち、違っ……! そういう意味じゃないっ……!!」




