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悪役令嬢、魔王を倒した勇者様に所望される  作者: 吉沢月見


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 なぜ慌てて掃除をしているかというと、モクビリー様のお友達を招いたから。


狭いこの家ではどうにもならず、テーブルを外に出して、お茶の準備。お菓子も皿に並べた。


「アン、皆の前ではモクビリーと呼んでくれ」

 照れたようにモクビリー様が言う。


「へっ?」


「様は性に合わん。あいつらにも笑われる」


 そう言われましても。


「モク、モク、モク…」


 弟妹と私付きの侍女、数人の友達しか名前で呼んだことないもの。まして勇者。なによりも、おじさん。


「ほれほれ、『愛してるわ、モクビリー』と言うてくれ」


 モクビリー様はドーナツというのを作ってくれた。甘いパンのようで、真ん中が開いている。


「ドーナツってどうして真ん中が開いてるの?」


「こうして君を見るためだよ。ほら、名前を呼んでごらん。新婚なのに仲が悪いと思われるだろう」


 こうやって外で立っていると、モクビリー様って大きい。すっぽりと包まれてしまう。ドーナツの砂糖に導かれて蟻さんが集まっている。これだから外は苦手。



「新婚さんがイチャイチャしてる」


 瞬間魔法を使ったのか、急に三人が現れた。魔法使いさんはいかにも魔法使いらしい格好をしていた。とんがり帽子にローブ、杖。意外なことに声が女の子だった。


「モックビー、お別れを言いに来たよ」

 賢者はおじいさん。背はモクビリー様と同じくらいだが、吹けば倒れそうなほど細い。


「タナックまで?」

 モクビリー様が彼の手を取った。


「生まれた村に帰ろうと思って。まだ姉さんが生きていて、宿を営んでいるから手伝ってほしいと言われてな」


「そうか。スーリはエランと一緒に旅をするのか?」

 モクビリー様が小さな女の子の頭を撫でる。


「うん。まだ全然弱いから」

 見習い召喚師は背も低いし、華奢で子どもに見える。


 女の子二人の旅が心配で、モクビリー様が一緒に行きたいと言い出したらどうしよう。


「これがモックビーの奥さんかい? べっぴんさんだ。旅の途中でも女の子に惹かれなかったモックビーが一目惚れしたことだけはある」

 魔法使いのエラン様はローブの下を想像するに出ているとこは出ていそう。


「こちらへどうぞ」

 切り株の椅子でごめんなさい。


「モックビーとはうまくいってるかの?」

 賢者様が聞く。手がシワシワだから見た目よりもおじいさんなのかもしれない。失礼だが、とても戦っていた人とは思えないほど穏やかな顔をしている。


「ええ」

 と頷くしかないじゃない。悪い関係ではない。でも、よくわからない。わからないまま夫婦になってしまったから。


「晩餐会のとき驚いちゃった。思い返してもあれは誘拐だよ、モックビー」

 スーリ様は甲高い声。


「惚れちまったんだからしょうがないだろ」


 皆様の話に花が咲いているから私は紅茶を注ぐことに注力した。


「ありがとう。ここの紅茶はうまい。飯もうまい。どこに行っても勇者一行はタダ飯だ。でも飽きてしまった。魔法に必要な草も買えば手に入るが自分で摘みたいんだ。昔みたいに風で自然乾燥させたり効能を高めたり」

 エラン様が言った。


「すまない、モックビー」

 賢者様がモクビリー様に頭を下げる。


「ここに残ることは俺が決めたことだ」

 モクビリー様は私の手を取った。


「幸せになっていい。20年近くも己の人生を犠牲にしたんだ、我々は」

 賢者様の言葉は自分に言っているように聞こえた。

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