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「まずは南に向かおうと思うんだ。途中までタナックを送って行けるし」
エラン様が地図を取り出す。随分古そう。
「山登りは老体にはきつかろう。こう迂回して行ったら?」
モクビリー様も地図を覗き込む。
「でもこの森は魔物がいるし」
スーリ様も加わる。
膝をつき合わす彼らを見て、ずっとそうやって共に戦ってきたのだろうと容易に想像できる。ドーナツ片手に、紅茶で流し込む。私もうんと小さいときだったが、河川の氾濫により一帯が孤立し、領民たちと食料を分け合ったことを思い出した。一人では寂しくても二人いれば大丈夫。三人いればもっと楽しい。四人ならばいい案が浮かぶ。人が多ければいさかいもまた勃発する。
「奥さん、モックビーはいい奴だ。あんたに比べたら礼儀がなってないかもしれない。でも私たちにとってもモックビーは勇者だ。彼がいなければ、あのとき全員死んでいた。これからも頼むよ」
私に向かってエラン様は言った。ちらりとモクビリー様を横目で見た気がした。もしかした、どっちかがどちらかを好きだったりしたのかな。
「はい」
エラン様はブルーベリーを口に入れた。私が凍らせたもの。
「うまい。おや、あんたからは魔力を感じる」
「ほんの少しです」
火を灯したり、水を凍らせる程度。
「大気魔法は基礎だ。基礎を疎かにしてはいけない」
エラン様の魔法は虹色だった。熟しているブルーベリーだけを一瞬で収穫し、全てを凍らせた。
「すごい」
なぜか私以外のみんなが得意顔。仲間っていいな。
「ちょっともらっていい?」
エラン様が紙の包みに小分けにした。
「もちろん」
「道すがらに食べるよ」
魔王を倒したのだからそれなりに金貨とかはもらっているのだろう。
「これってどれくらい持ちますか?」
私は聞いた。
「たまに君が魔法をかけてくれたら一年くらい持つんじゃないかな」
「わかりました」
来年、実がなるまで持つかしら。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
と賢者様が立ち上がる。
「もう一日くらいいいじゃないか。王様には俺から…」
モクビリー様の言葉をエラン様が遮る。
「一日長くいてなにになる? モックビー、一日早く旅に出たらまた君に会うのが一日早くなるかもしれない。だから行くよ」
スーリ様もリュックを背負った。
「今日中に隣りの街まで行かねば。王の計らいで王都を出るまで送ってもらうことになってる」
と賢者様は笑った。
「元気で」
モクビリー様が声を押し殺して言った。
「世話になった」
スーリ様がかわいい声で叫ぶ。モクビリー様はもう頷くこともできない。涙がこぼれないように瞬きも堪えている。
「モックビーのこと、よろしくね」
エラン様が手を振る。
「お任せください」
と私も手を振り返した。三人の姿が見えなくなるまで、モクビリー様はそこを動かずにいた。




