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思えば退屈な人生だった。幼い弟妹が寄宿学校へ行ってしまってからは私も閉じこもってばかりいた。エドワード様の婚約者としての振る舞いを重んじていたから。
「おっ、お父上が菓子を持ってきてくれたぞ」
モクビリー様が嬉しそうに手土産の包みを開ける。
「モクビリー様、甘いもの好きなの?」
「糖分は大事だ」
それはね、ドライフルーツの入ったラム酒のケーキなの。私が大好きだから料理人がいつも作ってくれるのよ。
「30歳なのね、知らなかった」
婚姻書には名前と年齢が書かれてある。
「意外とおじさん?」
私が18だから12歳も離れている。
「そうね」
「でも、おじさんでなければ昨夜も愛らしい君の寝顔を見て襲わずにはいられなかったと思うぞ」
物心ついたときからエドワード様の婚約者だったから、まさかこんな人と結婚するなんて、変な感じ。しかも昨日会ったばかりの人と、わかり合う時間もなく唐突に。
「さて、飯にしようか」
「はい」
森に入っていったから鳥でも仕留めてくるのかとは思ったが、まさかのうさぎ。
「うまいんだぞ」
と頭をさくっとナイフで落とした。
「ひぇぇぇ」
「こうやって皮を剥いで、皮は乾かして冬用のそなたの靴にでもするか」
無理だわ。こんな人とやっていけない。いや、うちでだって誰かがこうして捌いてくれていたんだわ。
肉は切って野菜と煮た。
うーん。この先、私がやることになるのかしら。
「よし、できたぞ」
食べるのもテーブル。
「パンを切りますね」
初めてやったからぺしゃんこになってしまった。難しいのね。
「いただきます。アン、味見して。あーん」
モクビリー様が木のスプーンを差し出す。こんなふうに食べさせられるのも子どものとき以来。
「おいしい」
「よかった」
野菜と肉の煮込み料理。
「うさぎさんかわいそうって思ったけど、おいしいですわ」
「ご令嬢は食べたことない? 俺なんてたいていの肉食ってるけど」
「こうして誰かと食事を取ることも滅多になくて」
私は言った。家ではみんな各々の時間に食べる。父様は胃が弱いから朝は食べないし、母様は気分屋。自分や弟たちが小さいときはみんなで集まっていた記憶があるけれど、このところはずっと一人。
「そうなのか? 俺もずっと屋外での生活だったからな。一人じゃなかったけど、家族との生活はぼんやりだ」
魔王を倒す生活とはどんなものなのかしら。私よりは生活力がありそう。
「庭にロバがいましたね。モクビリー様の?」
私は聞いた。
「ああ、相棒だ」
「名前は?」
「つけてない」
お昼を食べてから、そのロバにも餌を与えた。
「呼び名があったほうがいいですわよ」
一頭しか飼っていなくても、愛着がわくと私は思った。
「馬も何頭か飼ったが、数日帰れないだけで死んでしまって。こいつが一番強かった」
魔王との戦いなんて、いつ何時、どれくらいになるのかなんてわからない。
「うちにも馬がいますし、馬係もいます」
馬はブラッシングすると喜ぶらしいけど、ロバは顔を撫でても知らんぷり。愛想はないが利口そう。蹄もきれいにしてある。
夕飯はモクビリー様が釣り上げたという巨大な魚だった。それもまたおいしかったけど、見た目がグロすぎ。この人とやっていけるのかただただ不安が募る。




