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家ではメイドが起こしに来てくれた。ここでは誰の足音もしない。朝陽が眩しい。
「ぐがぁ」
モクビリー様のいびきで目が覚めた。
目が覚めても昨晩のことはやはり夢などではなかった。目の前にはモクビリー様。ここはこの人の家。殿方の寝顔を見るのは初めて。勇敢な方でも気の抜けた寝顔は子どもみたい。
髪が銀色だわ。珍しい。昨晩は帽子をかぶっていたから気づかなかった。
「珍しいか?」
モクビリー様が目を覚ました。
「おはようございます。起こしちゃいました?」
瞳もグレーだから、その中に私が映る。
「いや。温かくてよく眠れた。そなたはきれいな茶色の髪だな。母に似ている」
そっと撫でられた。嫌な感じはしない。
「お母様?」
「父親は銀髪なんだ。村の連中も」
「そうですか」
勇者って代々勇者なのかな。
「あ、どっちも生きてるぞ」
「はい?」
「なんか勝手に親殺された気がして」
確かに話の筋からもういない気もした。
「挨拶に行かねばなりませんね」
もしくは結婚式に招待?
「どうかな。親父は勇者を引退して、俺が魔王を倒したことをいいようには思わんだろうから」
モクビリー様が少し寂しい顔をする。
「倒したのに?」
そんなはずない。名誉なこと、自慢の息子に違いない。
「じいちゃんが魔王のねぐらを見つけて、父さんはずっと戦って、諦めて勇者の座を俺らに譲った。腰痛持ちでな」
「しょうがないですわね」
「俺も敵の居場所がわかっているから、逃げられても魔法使いがあとを探知してくれるし。たまに道具が壊れたら買いに行ったり、魔法に必要なものを調達するくらいの楽な冒険だった」
「そうでしたか」
戦いに勝つというのもいろんな方法や手段がある。そんな簡単なふうに口にするけれども、長い戦いだったことは私もみんなも知っている。
くぅと私のお腹が鳴った。そう言えば昨日の昼からろくなもの食べてない。婚約破棄のせいで晩餐会はどたばただったし。
「ちょっと待ってろ」
モクビリー様は器を手に家を出て行ってしまった。この小屋、古そうなのにちゃんと窓がある。ガラスは貴重なのに。
「これで足りるか?」
ブルーベリーがてんこ盛り。
「すぐ近くにあるのですか?」
「ああ」
洗ってくれたのかしら。お腹が鳴り続けるから、ひとつふたつと口に放り込んだ。
「甘い。ん、こっちはすっぱい」
「あはははっ。そなたは面白いな」
モクビリー様は勇者なのに湯を沸かしてお茶まで淹れてくれる。
何時くらいかしら? いつもなら学園へ行くために支度をしている頃だろう。まだ私がここにいるって誰も知らないのかもしれない。
不思議。時間に囚われないだけで、自由。服のせいかしら。あ、この解放感はコルセットをつけてないからね。
「どうした? もぞもぞして。ああ、風呂か。もう入れるぞ」
お風呂はちゃんと湯船もあった。なんかこれ、勇者様を召使扱いしてないかしら。でも、ちょうど入りたかった。あら、石鹸もあるのね。お茶と似た匂い。モクビリー様のお気に入りのようね。
このお風呂、陶器じゃないわ。どうやって温めているのだろう。湯船の底は鉄板かしら。水は引いてあるようだから下から薪で温めているんだわ。すごい。うちの屋敷だって何人かでお湯を湯船に張っているだけなのに。
「入るぞ」
え?
「いけません」
どうして入ってきてしまうのだろう。そう言えば、どこかの地方は薄着のまま入るのよね。いつも通りすっぽんぽんになってしまったわ。身を沈めても透明なお湯では見えてしまう。
「湯加減はどうだ?」
「ちょうどいいです」
嫌だわ。見られたくないのに恥ずかしくて顔を背けることしかできない。胸を腕で隠しても他の部分はどうもできない。
モクビリー様が私の頭や肩に触れる。心臓が張り裂けてしまいそう。
「馬車の音がする。ゆっくり体を温めなさい」
はぁ。モクビリー様が出て行ってくれてようやく肩の力を抜いた。石鹸の泡立ちはイマイチだが、ほっこりする香り。




