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モクビリー様はたまに森へ行く。黙って行ってしまってしばらく帰ってこないが、果物や山菜を採って来るので、たぶん山に行っていたのねと推測する。確認も問い詰めることもしない。退屈なので、
「狩りなら私も学びたいです」
と訴える。
「アンがそんなことをする必要はない」
「しかし、あなたが留守のときに困ります」
「実家を頼れればいいだろう」
確かにそう。
「嫁に出たのに実家に援助してもらうなんて恥ですわ」
「まぁ、そうか。でも今日は狩りではない」
「なんですの?」
モクビリー様と一緒に森の中へ。
「怖いか?」
夏なのに木の影ばかりで空気も冷たい。足元は苔ばかりで気を抜いたら滑りそう。
「アン、気をつけて。ここを掴んでいいから」
モクビリー様がシャツの裾を掴ませてくれる。しかし、私がすっ転んだらあなたにまで被害が及ぶ。躊躇していると私の手を握ってくださった。
「ありがとうございます」
森ってどこまでも森。鳥が頭上を飛び、ムカデやトカゲが足元を通り過ぎる。
「きのこだ。これは食べれるな。こっちはだめだ。これはそなたに食べさせたいな」
「知ってますわ。笑いが止まらなくなるやつでしょう?」
見た目は普通のきのこ。
「違う。が、アンが食べたらこちらが気をやられるな」
森の中には湖ほどではない沼があった。
「ここでも魚が釣れますの?」
「いや。ここは湖のように水の行き来がない沼だ」
ちょっと淀んでいそう。水草もぼんやり。
そこでモクビリー様はシャボンを吹き出した。
「なんです?」
「プクプクだ」
普通のシャボン玉とは違うのかしら。
「少し魔法の力を感じる」
私は言った。
「ああ。エランが作ったものだ」
「これで浄化をしてるんですね」
「そうだ」
風に飛ばされ、あっちにこっちに。そして、パンと弾けて魔法もが飛び散る。
「なるほど。吹き溜まりという言葉を聞いたことがあります。悪いものが集まって魔族が生まれると」
それの抑制に役立っているのだろうか。
「それは知らなかった。アンはそちらに頼む」
「はい」
細い竹を使って、ふぅ。
「アンは小さい玉を作るのがうまいな。俺はでかくなっちまう」
「息の吐き方でしょうか」
モクビリー様のシャボンは大きくて遠くまで飛んでゆく。
長らくそうしていた。ここは風が一定ではなく、四方へシャボン玉が飛んでゆく。鳥のさえずりがあちこちから聞こえ、美しくなった空気を喜んでいるように感じる。
これも勇者の仕事のようなものなのだろうか。だとしたら妻として手伝わなくちゃ。
「これくらいでいいだろう。アン、帰ろう」
「はい」
果実やきのこを採りながら家路へと着く。
「マルベリーだ」
小さなぶどうのような形。モクビリー様が採っては口に運ぶ。
「モクビリー様、舌が変な色」
「アンもだ」
「やだ」
きのこはスープにすることにした。玉ねぎも入れる。畑近くで自生していたいんげんでパスタ。
「森に行くと疲れる」
モクビリー様が言う。
「そうですか?」
これから別の魔王が現れて、それを倒した新勇者が登場するまでなにかと頼りにされるのだろう。一緒にいても民から果物などをいただくところを見ているので敬われているようだ。私なら鼻高々だけれど、モクビリー様はとても謙虚。
「きのこ、うまいな」
私がざく切りにしたのに褒めてくれる。
「はい。おいしいけど、なんか…」
体がぽかぽかする。
「アン?」
「すいません」
立ち上がろうとした私の体をモクビリー様に触れられただけで鼓動が速まる。
「大丈夫か?」
「変です」
「毒ならば吐いたほうがいい」
「体が、熱い」
呼吸がうまくできない。
「きのこが紛れてたか。それに、このハーブも混ざったせいか? アン、しっかり。ゆっくり息吐いて。水飲めるか?」
「はい」
抱えてくれるのは嬉しいのだけれど、寄りかかっているだけなのに体がふわふわする。
「汗をかいたほうがいいか」
「大丈夫ですから、触らないで」
あなたに触れられたところに電流が走る。
「どうしたらいい?」
と聞かれてもわからない。
「お風呂入って寝ます」
「うん」
どうしたんだろう。これでは集中して魔法も使えない。幻覚作用のあるキノコでも食べてしまったのかしら。




