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朝になって、昨晩と同じことを考えながら、とりあえず頬にキスをしてみた。
髭が邪魔ね。痛いほどだわ。
「おはよう、アン。君のキスで目覚めるなんて最高の朝だ」
「気づきました?」
「うん」
お返事の仕方、かわいいな。
「おはようございます、旦那様」
「アン、もう一回して」
「嫌です。ほら、起きますよ」
ベッドを出ようとする私の腕を掴む。
「もう一回してくれないと起きられない。あっ、もしかして今日のが初めてじゃない?」
「初めてです」
「どうして今日? ずっとしたいって思ってくれてた?」
なんで朝からそんな質問攻め?
「知りません」
起き上がりながら、私を抱き締める。
「おっさんになってよかったのは耐えられることだな。あと10若かったら無理矢理にでも抱いているぞ」
朝日がちょうど窓の隙間から差し込む。
「あなたはそんなことしませんわ。優しい人ですもの」
絶対に無理強いなどしない。
「どうかな。アンのかわいさに耐えてられているのが不思議だ」
私をかわいいなんて、変な方。かわいいなんて父様に言われたことしかない。父様はあの母様の顔が好きだから私の意地悪顔も好きなのだろうけど、モクビリー様も同じなのかしら。あなたが倒した魔王に比べたらたぶんかわいいでしょうよ。
「モクビリー様、来週から私、テストなんです。だから実家に帰ってもいいですか? ここではその、気が散って」
破廉恥なことばかり考えてしまう私が悪いのです。しかしテストでいい点を取らないとまずいことになるやもしれない。ここは離れて邪念を取り払うしかない。
「ああ、いいよ」
とあっさり。もう少し残念がって。私は寂しいですわ。
「すみません。卒業したらずっと一緒にいられますからね」
「ああ」
家が狭くて勉強などできないことは父にしか言ってない。
「あの小屋で娘が住んでると思うとぞっとする」
と母様は私を前にしても言えてしまう人。
「モクビリー様がきれいにしてくれていますよ」
一緒に釣りをしているとは話せない。母様は野蛮だと決めつけるだろう。
「卒業したら子どものことを考えてもっと広い家を建ててあげてよ、あなた」
父様は、
「ああ、そうだな。そうったら我々はおじいちゃんとおばあちゃんだ」
と嬉しそう。どうして大人ってそういうことをさらりと口にできるのだろう。子どもができるってことはキス以上のことをするのよ。ああ、私もそうやってこの二人から誕生して育ててもらったのだ。
「モクビリー様に相談してみます。あの人は森の中が好きみたいなので湖の近くもいいかもしれませんね。もちろん、領主である父様の許しが出ればですが」
「考えておこう」
その夜から屋敷に戻り勉強に勤しむ。この屋敷は風が吹いたくらいでは揺るがない。もちろんたくさんの使用人がいるから安心感もある。この前、モクビリー様が野菜の皮で染物をしてくれたけど、そういう生活のほうが性に合ってるのよね。
モクビリー様との生活は朝起きて、夜に眠る。規則正しい。必要な食料を得て、それも己でさばく。塩とか簡単な味付けを好み、お腹がすいたら木の実を食べる。その日暮らしかと思えば、保存食を作りだしたり、そもそも畑をしているのは食料がなくならないためのような気がする。
「はぁ」
離れているとモクビリー様のことばかり考えてしまう。あなたもそうだといいな。私がいないベッドは冷たいでしょう?




