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放っておいたら畑に植えた野菜の種から芽が出ていた。かぼちゃなんて種をつけたまま葉が開いている。重たそう。
「取ってあげたほうがいいのかしら? このままのほうがいいの?」
「そのうち取れるさ」
モクビリー様は無関心。畑よりもロバの荷台に屋根をつけようとしている。荷台だけでなく馬車っぽくしたいのだろうか。
「重くなったらレイクがかわいそう」
私は言った。
「力持ちだから平気さ」
ロバは体が小さい分、馬よりははるかに鈍足だけれど記憶力もいいらしい。なにより、かわいい。もふもふもふ。ふんわりして見えるのに体はしっかりしている。畑を耕すのも手伝うし、雑草を食べるし有能すぎる。泣き声が大きくてびっくりするけど。
「そんなことよりも家の片づけをする約束ですわよ」
私の荷物も多くなって、家の一室を片付けなければどうにもならなくなって来た。
「そんなことじゃない。そなたの肌が焼けたら困るであろう」
「はいはい。じゃあ私、先に片づけしてますね。必要なものを捨ててしまってもあとから文句言わないでくださいまし」
さてと。
まず部屋の入口に立ちはだかる鎧。
「もう戦いがないのであれば売っぱらってしまったらいいのに」
戦いがないとも断言できない。現に、魔王は倒したけれど隣国との争いは続いている。モクビリー様がこの鎧を身に着け、人を倒す日など来なければいい。
「妻よ、俺の鎧をそんなにうっとり見つめては、その鎧に嫉妬するぞ」
見られてた?
「違いますわ。売ったらいくらになるか考えていたのです」
「そうか。ははははっ」
鎧は形がはっきりしているけど、あとはガラクタにしか見えない。これは脛あてかしら。持ってみたら嫌な魔力を感じる。魔王からの攻撃を仲間は魔法などで防御していたのを、この人だけこれで耐えていたのではないだろうか。
「これはなんですの?」
長い紐のような、ちょっと伸縮性もある。
「ドラゴンの髭だ。それで10000パルンはする」
「10000パルン? こんなものが?」
知らなかった。高価なものなのね。ドラゴンは氷の山に住んでいて、魔王にそそのかされたり勇者様の味方になったりしたのよね。
「切れないから重宝するんだろうな。俺の聖剣だって5000パルンだったのに」
「売りましたの?」
魔王を倒したものなのだから博物館とかに飾られるべきものでは?
「武器屋のおっさんが売ってくれって言うから。聖剣つっても魔王をやっつけたときにたまたま持ってたってだけで、そんなにいい剣ではなかった。刃こぼれしてたし」
「付加価値?」
「ああ」
お金には無頓着だと思っていたけど、物に対してもそうなのね。呆れてしまう。だからって何でもかんでも取っておかれたら家が物で溢れる。狭いのだから、片づけなければ。
「よし、俺は自分のものをこっちに寄せるから、アンは自分のものをそちらに。棚も作ったのでよければ使ってくれ」
「ありがとうございます、旦那様」
引き出しまで。器用なのね。しかもかわいい。ここにレース類をしまって、こっちに下着。ドレスもかけられるようになってる。便利ね。
「アン、待て待て待て。今なんと?」
「旦那様と。あら、違いまして? 本人に向かっては言わないのかしら。うちの使用人たちは父様に向かって『ご主人様』で、モクビリー様のことは『勇者様』なの。でも私があなたを呼ぶのにそれではおかしいでしょう? 呼び名、いろいろ考えたのです。あなたは名前で呼んでほしそうだけど、歳が離れているのに呼び捨ても気が引けますし」
「いや、いい。大丈夫だ。そのままで。うん、いいな」
モクビリー様、突っ立ってないで片づけてほしいわ。ここに実家のドレッサーを持ってきたら邪魔かしら。でも宝石とか小物も入れておけるし。
パーティに出かけることがめっきり減ったからドレスも必要ない。勇者の妻って案外、楽ね。もっとお呼ばれ三昧かと思っていたけれど、モクビリー様が断っているのかしら。
卒業式のドレスもあるものでいいか。大きなパーティに呼ばれるたびに作っていたけれど、無駄ね。人目を気にして、新しいもの、人とかぶらないものと注文を付けていたが、今はどうでもいい。
「これはいらない。これは使う。これは…」
モクビリー様は片づけというより断捨離。捨てるか否かで選別している。その中に貴重なものはないのかしら。値段よりもきっと思い出を大事にしているのだろう。
「これはタナックの手ぬぐいだな。臭いし捨てよう」
そうでもないみたい。
「モクビリー様、勇者の武勇伝書いてみたら? 長旅でいろんなところに行かれたのでしょう? それからこの魔族はここが弱いとか。きっと売れますわよ」
私は提案した。
「金に困ったらな」
人々のためになると思ったのだけど、モクビリー様は乗り気ではないようだ。
私は部屋着や寝間着を自分の棚に収納した。
「今日はここまでにしよう。アンは随分ときれいにしたな」
持ち物が少ないのです。学園の制服と家での服、ドレスが数着。羽を使った帽子が流行っているそうだけど、持つ気にもならない。そんなの身に着けてお台所に立ったら燃えるに違いない。家仕事をしないから、あのような衣類を身にまとえるのだ。
「昼食を食べたら魚でも釣りに行くか。アンも一緒にどうだ?」
モクビリー様が誘ってくれる。
「釣り?」
やってみたいけどいいのかしら。
「初めてなのか?」
「男がするものって」
「ややこしいな。貴族様は」
そうね。貴族だろうと女だろうと、食べねば飢える。
「一緒に行きたいです」
「だ、旦那様と?」
どうしたのかしら、モクビリー様の首まで赤い。
「そうですね、うちの主人と。そうだ、お茶をポットに入れて持って行こう」
こぼれてしまうかしら。おやつに私が焼いたちょっと失敗したクッキーも一緒に。




